脱・温暖化その手法 第72回 ―世界的に太陽光発電と電気自動車を普及させることで考えられる懸念点とその解決法その2―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

懸念点の解決でより現実化へ

十分なエネルギーが地球上のどこにでも降り注いでいる太陽光と、省エネルギー性が高く再生可能エネルギーで走ることができる電気自動車を世界的に普及させることの利点は甚大である。

一方で、考えられる懸念点とその解決法を予め指摘し、対応策を練っておくことは必須のことである。

この観点から、前回は考えられる懸念点をできるだけ抽出した。

今回はこれらのうちから、太陽光発電に関する懸念点にどう対処すべきかを検討する。

1 広く太陽光パネルを設置することによる生態系への影響

太陽光発電ではフレキシブルパネルを林業、農業、漁業と融合させることと、大型の気球を上空7kmのところに固定し日中は常に雲の影響を受けずに電力を起こす方法について述べた。

まず、林業との融合による影響を見たい。この方法では成長した人工林を伐採した後、苗を植えると同時にパネルも設定することで、林業を続けながら発電による収益も上げることを趣旨としていた。

この方法での懸念点は、長期間パネルを設置した状態とすると、木を成長させるために必要な腐葉土の流出があることである。これにより、杉や檜は土壌から栄養が取れなくなり、立ち枯れを起こしてしまう。

この問題に関しては、以前紹介した林業家の佐藤久一郎氏から問題点の指摘と対策を伺っている。それは植林後7年間であれば苗はそれ程大きくはならず、このためにそれまで蓄えられてきた腐葉土からの栄養分を吸収して成長できるということであった。この間パネルで地表が覆われていると、苗の成長を邪魔する下草も刈らなくて済むということで林業の手間も省けるということであった。

この話を受けて、本連載では植林して7年が経過したら、隣の林地を伐採して、ここにパネルを移動することで生態系への影響への対策ができることを述べた。

フレキシブルパネルは軽量であるため、パネルの移動にも大きな労力はかからない。

次に農業との融合である。これは、刈り入れが終わった田圃にパネルを張る方法である。この間田圃は他の用途には使われず、この間に保護すべき生態系も見当たらない。このため、農業との融合には問題がないと考えてよいであろう。

さらに漁業との融合である。これは内弯の約3分の1にパネルを浮かせて、アンカーで留めるという方法だった。これによって、太陽の光は水中に届かなくなる。

今でも多くの養殖漁業では水面に筏を浮かべて日光を遮っている例はあるが、その面積は内弯の総面積に比べてごくわずかである。

太陽の光が水中に届かなくなることで、海底の海草の成長には明らかな影響がある。すると、これを食べて成長するウニや鮑の漁には影響しうる。プランクトンを食べて成長する魚の収穫には、どれだけの影響があるか分からない。海水中の酸素と二酸化炭素を使って、日光のエネルギーで成長するサンゴへの影響もありそうである。

これらの懸念があるため、この連載では内弯の3分の1を用いるということにしてある。但し、たとえ3分の1であってもどれだけの影響があるかについては十分な調査と研究が必要である。

気球発電は、1km四方ほどの気球群を上空に固定するわけだが、生態系への影響という点では恐らくないであろうというのが現在の感覚である。このため、この技術についても予めの調査は求められる。

2 不安定な再生利用可能エネルギーのみに頼ること

電気は貯められないもの、というのが懸念の前提にある。本連載ではこのことを予め考えた上で、パネルからの電力を直接利用する動脈系の配電ネットワークと、電池、水素、金属精錬で貯えた電力を必要に応じて電力として放電し、利用先に届ける静脈系も同時に設けることでの解決を図ることをその手段として提案している。

このシステムは、全国レベルあるいは電力会社全体でひとつのシステムを持つような、大掛かりな構築が必要である。それを実現するとした場合の調査、計画、資金調達、設置、運用について、多くの事業が必要である。このためには、世論の大きなコンセンサスの下での政府主導での対応が最も重要である。但し、そのための調査に関しては、大学等の研究レベルから始めて、その結果をもとに実行計画を立てるという段取りを踏むことで、小さな規模から始めることは可能である。

3 送電線の整備

これまでの太陽光発電の設置において、そのボトルネックのひとつが、せっかく起こした電気が送電線に繋げないということがしばしば発生していたことが指摘されてきたことは事実である。その理由は電力会社の送電設備が近くにきていないというところに、急速に太陽電池の設置が増えてきたことが理由であり、送電は本質的に難しいことはない。このため太陽電池を設置する計画と、それに沿った送電網の設備を同期させて行なうことで問題は解決する。

4 景観の悪化

これまでの太陽光パネルはシリコン製で濃いブルーである。その表面にはガラスが貼ってあり、太陽光はその表面と裏面とで4%ずつ反射があるので、反射光が目に入るとまぶしいということも言われている。そして、現在道路沿いや山の中腹を切り拓いてパネルが置かれるようになり、それが景観を悪くしているという批判がある。

新しいフレキシブルパネルであるが、これは黒い表面をしている。かつ表面にはプラスチックフィルムが貼ってあり、一方向のみに太陽光の一部が反射するわけではない。さらに林業との融合では、植林と一緒にパネルを設置する。このため人の目に入るのは、パネルのみではなく緑の木の葉も入る。これにより、景観が良くないという批判は幾分か緩和されるのではないかと考えている。

農業との融合では、田圃を使うのは秋から冬にかけてであり、比較的風景が寂しい時期である。この時期にパネルが設置されたとして、どれだけ景観を悪くするという批判が出るかは今は不明である。このための研究は必要である。

漁業との融合についても、どれだけ景観が悪化するかということに関しては、これも実験、研究を行なう上で確認をすることが必要である。

伐採された山林にシリコン型
太陽光パネルが設置された景観
景観が壊されていると感じる人は多いと考えられる。
伐採された山林に植林された景観
景観が保たれていると感じる人が多いと考えられる。
林業と太陽光発電の融合の結果見られる景観はこのよ
うになると予測できる。

5 感電の危険

これまでの太陽光発電の設置は電気技術の専門家が行なっていたため、このことが問題になることはなかった。しかし、第1次産業と太陽光パネルの融合では、基本的に専門家ではない人々が設置することになる。これにより、発電時に感電するおそれはないとは言えない。この問題を防ぐために、最も良い方法はパネルの発電電圧を42V以下とすることである。42V以下であれば、たとえ感電をしても命に関わることはない。そのためには1セルが0.7V程度の発電電圧のパネルの一枚のサイズを大きくし、直列に繋ぐ枚数を少なくして最大電圧を抑える。専門家でない人々が作業をするのはこの領域までとし、そこから送電線に電力を流すための交流電力への変換と昇圧の部分以降は専門家が行なうという役割分担で設置作業をする手法開発を行うことでこの問題の解決は可能である。

以上、太陽光発電において考えられる5つの懸念事項について検討した。これらの中には現時点では十分に対応できないものもある。これらを数多く集めて、あるものはすぐに解決法を見つけ、あるものについては研究対象とすることが求められる。

今回は、太陽光発電の大量普及における懸念点とその対応について探って来た。次回は電気自動車の大量普及の懸念点について取り上げる。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…