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新旧の乗り比べ、見えたことは?
ホンダは3代目にあたるN-BOX(エヌボックス)を10月5日に発表した(発売は10月6日)。「ノーマル」と呼ぶN-BOXと、「カスタム」と呼ぶN-BOX CUSTOMの二本立てなのは変わらない。それぞれ、ひと目でN-BOXとわかるデザインを採用しながら、「新しくなった」ことがわかる仕かけが施されている。もちろん、中身の進化も著しい。ホンダのテストコースでノーマルとカスタムの新旧4台を乗り比べる機会を得た。新型N-BOXの進化ぶりを、主にドライバー目線で観察していこう。
テストコースでは先代ノーマル(自然吸気エンジン)→新型ノーマル(自然吸気)→先代カスタム(ターボエンジン)→新型カスタム(ターボ)の順に乗った。正直、先代ノーマルでも不満はない。4名乗車だったので、停止状態から高速域まで一気に加速するようなシーンではエンジンが苦しげなノイズを発するが、これはN-BOXだからではなく、軽自動車の自然吸気エンジン仕様はおしなべてそうである。市街地走行を想定したシーンでの発進~停止~巡航で力不足を感じることはなかったし、静粛性にケチをつけたくなるようなこともなかった。
新型N-BOXのノーマルに対峙する。フロントマスクも含め、全体にめっき加飾が減ってすっきりした印象だ。丸穴デザインのフロントグリルは、身近な家電製品のデザインを意識したものだという。よく見ると、そのグリルとフロントバンパーには、丸い凹みが4つ確認できる。ソナーセンサーで、先代はリヤに付いていたこのセンサーが新型ではフロントにも追加された。これは、踏み間違い衝突軽減システム(近距離衝突軽減ブレーキ)を採用するためだ。誤発進抑制機能と合わせ、不注意による急発進の防止・衝突回避を支援する(カスタムにも適用)。
先進運転支援システムのHonda SENSING(ホンダセンシング)も進化しており、フロントガラス中央上部に設置されているカメラが約100度の有効水平視野角を持つワイドビューカメラになった。
先代は視野角50度のカメラだったためレーダーと合わせて機能を補完していたが、カメラの視野角が100度に広がったことにより、レーダーを廃止。側方の検知能力向上が顕著で、一般道で歩行者が車道に侵入してきた場合や、高速道路で自車前方に他車が割り込んできた状況への検知と制御が可能になった。安心感の向上につながる進化だ(カスタムを含め全車標準)。
ノーマルの特徴である丸型のヘッドランプ&デイタイムランニングライト(DRL)やターンシグナルを含め、灯火類がすべてLEDになったのも新しさを感じさせるポイントだ。テールゲートのライセンスプレートランプもLED化している。これによって照明に必要なスペースが小さくなったことから、先代では右側にオフセットしていたテールゲートハンドルをセンターに移設することができた。先代はハンドル位置にマークを施して使い手に不便にならないよう配慮していたが、新型はより直感的に操作できるようになった。テールゲートを開ける際、人は無意識にゲートの中央に手を入れるからである。
テールゲートのハンドル位置を先代に対して70mm低くしたのも新型N-BOXの特徴だ。これは、テールゲートを開けたときに身体に当たりにくくするための配慮。このように、ちょっと観察しただけでも新型N-BOXには安心感や利便性を高めるアイテムが随所に投入されていることがわかる。
では、室内に乗り込んでみよう。新型N-BOXのインテリアは、フィットやヴェゼル、シビックにZR-Vなど、最新のホンダ車に共通するデザインコンセプトを踏襲しており、水平・直線基調で統一されている。そのため視覚的ノイズが少なく、運転に集中できる落ち着いた空間となっている。メーターはステアリングホイールの上からではなく、内側で視認するタイプに変更。これにより前方視界がよりクリアになっている。
メーターはホンダ軽自動車初の7インチ液晶だ。表示モードの切り替えが可能で、シンプル表示を選択すると、自車のグラフィックがブレーキランプやヘッドランプ、ターンシグナルと連動して点灯する。Honda SENSING使用時にシステムが自動でブレーキを作動させた際にメーターで確認できるのがいい。
視界の面では左側のフロントピラーに設置していたミラーの変更も大きい。先代はふたつのミラーが上下に並んで設置されていたが、新型はこれを分離。後方用のサイドアンダーミラーをドアミラーに集約することで、機能をわかりやすく整理し、後方の確認をしやすくしている。
先代からさらなる進化! 新型のいいトコロ
先代N-BOXでテストコース(高速周回路や市街地を模擬したコースなど)を一巡したときは「問題ない」と感じたのだが、新型に乗ると、「断然こっちがいい」と感想を漏らしたくなる。新型がいいポイントその1は、クルマの動きがしっかりしていること。新型に比べると、先代は動きに落ち着きがなく、フラフラしているように感じる。新型にはそれがなく、ビシッと落ち着いている。安心感につながるし、長時間の運転では疲労度にも違いが生じるだろう。
新型がいいポイントその2は、ブレーキのしっかり感だ。先代に乗ったときに「ブレーキ踏み増さないと足りない」とヒヤッとしたのは4人乗車だったからでないことは、新型に乗ってみて確認できた。新型はなんの不安もなく、イメージどおりに減速できる。技術者に確かめると、ブレーキ操作力をアシストする倍力装置のセッティングを変えたという。その効果てきめんである。
新型がいいポイントその3は静粛性が高いことだ。間髪入れずに新旧を乗り換えたこともあり、違いがよくわかった。新型N-BOXでは前席の乗員と後席の乗員が無理せず会話できる静粛性の実現にこだわり、フロアカーペットに遮音フイルムを追加。ルーフライニングを厚くした。これも効果はてきめん。試乗時は助手席の技術者とのやり取りをICレコーダーで録音していたのだが、聞き返してみたところ会議室でインタビューしているかのように、音声がクリアに入っていた。
新型がいいポイントその4は乗り心地である。後席の乗員も同様の感想で、むしろ感激度は後席乗員のほうが大きかったかもしれない。技術者は、前後サスペンションの締結を適正化した効果が大きいと説明してくれた。製造ラインでは空車状態でサスペンションを車体に締結するのが通常だが、新型N-BOXでは乗車した状態を模擬してサスペンションを締結するよう工程にひと手間加えたという。その結果、従来は使えていなかったサスペンションのストロークが使えるようになったそう。テストコースには踏切を模擬した路面が2ヵ所あるが、そこを通過する際の車体の揺れ、ぶれ、落ち着き具合は新型が断然上だ。
詳しく見ていこう
その乗り心地の良さに拍車をかけているのが、シートである。新型のシートを味わった後で先代に乗ると、先代のシートは硬く感じる。新型のシートはクッションのストロークがあり、柔らかな感触で、包み込む感じが強い印象。総じていえば、快適性が高くなっている。ワンランク、グレードアップした印象だ。
燃費と出力を両立した高効率のエンジン(S07B型、658cc直列3気筒)は自然吸気/ターボともに先代からのキャリーオーバーである。組み合わせるトランスミッション、すなわちCVT(連続可変トランスミッション)も同様だ。ただし、エンジンとCVTを組み合わせたパワートレーンは制御に手が加えられている。
変化点は制御だ。強い加速を求めてアクセルペダルを深く踏み込んだ際(いわゆるキックダウンした際)の制御をチューニングすることで、突き出し感や引き込み感が出ず、ドライバーの意図どおりに変速するフィールを作り込んだそう。「先代もよくできているような……」と感想を漏らすと、「マイナーチェンジで手を入れましたので」との返答。試乗車はマイナーチェンジ後のモデルだった。2017年デビュー当時のN-BOXと比べた場合は、より大きな変化が感じとれそうだ。
また、スムーズに再始動するアイドリングストップは、Pレンジでのアイドリングストップ機能が追加された。先代はコンビニ等の駐車場でクルマをとめた際にアイドリングストップが機能すると、Pレンジに入れた際にエンジンが再始動してしまった。新型ではPレンジに入れてもエンジンがしばらくかからないようにし、わずらわしさを解消している。
カスタムは相変わらず精悍だが、エクステリア、インテリアともにギラギラ(オラオラ感?)感が減った印象。派手さが抑えられて落ち着きが増したので、「これなら付き合えるかも」と感じる人が増えるかもしれない。フロントマスクでは、横一文字のライトが特徴。フロントのシーケンシャルターンランプは先代から踏襲するが、LEDを5灯から6灯に増やしたのに加え導光レンズを適用することで、光がシームレスに流れる高品位な表現を実現している。
握ってみないとわからないのがステアリングのフィールで(当然だ)、握ってみて驚いた。聞けば、本革巻きステアリングの革は先代よりワンランク上のグレードを採用したという。新車時に感触がいいのはもちろんだが、年数を経た際の劣化の度合いが少ないことも重視し、いいグレードを採用したという。
握り心地がいいのは、いいグレードの革を使っているからだけではない。グリップの断面形状も見直しているからだ。先進運転支援システムのHonda SENSINGを使っていると、ステアリングを強く握る必要がなくなるため、手が下に降りてくることに着目。そうなったときに手を置きやすいような断面形状にしたという。
Honda SENSINGのACC(渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール)/LKAS(車線維持支援システム)がワンアクションで使えるようになったのも、高速道路でACCをよく使う派にとっては朗報だ。先代は複数のステップを踏む必要があったため、新型ではやはりわずらわしさが解消されている。
新型N-BOXのカスタム(試乗車は15インチタイヤを装着したターボ仕様)の印象をひと言で表現すれば、「ひとクラス上のクルマ」である。ステアリングから伝わるフィールが軽自動車からイメージするフィールではなく、乗用車のそれである。ひとクラス上のフィールを生み出している理由のひとつは、EPS(電動パワーステアリング)の制御にありそうだ。従来はモーターの電流値から操舵角速度を推定して制御していたが、新型は操舵角センサーの情報をダイレクトに使うことで制御性を高めた。結果、切り込んだとき、切り返したとときに、より人の感覚に合った制御ができるようになり、それが「いいね、この感触」と思わせるフィールにつながっている。
静粛性はノーマルに輪をかけて高い。それもそのはずで、カスタムはルーフライニングに吸音シートを採用。さらに、ドアの内張りと鉄板の間にも吸音シートを入れているという。ノーマルと同様フロアカーペットに遮音フイルムが入っているので、上下左右で吸音対策を施していることになる。どうりで静かなわけだ。
乗用車ライクなドライブフィールと静粛性の高さは、乗用車からダウンサイズする層を満足させるため。そう聞いて大いに納得。新型N-BOXのカスタムは、軽自動車のサイズをしているだけで、ドライブフィールや静粛性を含めた快適性は乗用車に引けを取らない。
そしてノーマルにもいえることだが、実物を見て触れた実感として写真や画像では新型の魅力を感じとるのはなかなか難しく(このレポートで少しは伝わっているといいが)、実車を見て、できれば走らせてみることをおすすめする。