「令和6年度 総合火力演習」目の前で展開される“戦車戦”。戦車・機動戦闘車の“見せ方”が変わった!

90式戦車小隊による射撃。今回の総火演では90式戦車が前段・後段とも大きく活躍した。今年から突発的に現れる標的が使われるようになり、自衛隊取材経験の多いカメラマンたちからは「射撃競技会のようだ」との声が上がっていた。写真/武若雅哉
陸上自衛隊最大の実弾演習である総合火力演習(総火演)が、5月26日に実施された。一般公開はもちろん、リアルタイム配信も取りやめとなった今回の総火演について、モーターファンWebでは「なぜ公開・配信されなかったのか」を、演習内容の変化という点から、当日に速報としてお伝えした。今回はその変化について、より具体的に昨年(令和5年度)と比較して解説していきたい。

前段演習―装備点数は減ったが、より濃密な内容に

「三の台 装甲車、1班、徹甲、行進射、撃て!」

緊迫した小隊長の指示が場内放送で流れる。前段演習、90式戦車小隊4両による演目は、特科の火力支援のもと中央の広場に前進した1個班2両による突然の射撃で始まった。昨年までの前段演習は、まるで「戦車ショー」のような行進間射撃を披露していたが、今年度は「戦車戦」だ。

前回お伝えしたように、今年度の総火演では昨年までの固定された標的に代わり、ホップアップ的(起き上がり式の標的)や隠顕的(展開式の標的)など、“突発的に”出現する標的が用いられた。戦車や機動戦闘車乗員にとって、より高い練度を求められるものとなったのだ。

前段演習は例年、ひとつひとつの装備品の簡単な紹介と射撃の実演が披露されてきたが、今年度の90式戦車は「射撃要領の展示」として、特科部隊との連携、2個班が相互に掩護しての前進など、より時間をかけて具体的な戦術に踏み込んだ内容となっていた。また、16式機動戦闘車も、10式戦車ネットワークを使用した小隊内での火力配分や、小隊長が小隊全車に目標を指示できる小隊内オーバーライドによる火力集中など、能力とその活用に焦点をあてたものとなっていたのが印象的だった。

前段演習全体の構成は例年と変わらないものの、戦車・機動戦闘車については能力を深掘りする内容に変わった。一方で昨年まで行なわれていた「島嶼防衛とは」や「領域横断作戦とは」といった初心者向けの解説はなくなり、また地対空誘導弾や地対艦誘導弾、電子戦装備など実際に射撃をしない装備が不参加となっている。

後段演習―即応機動連隊による島嶼防衛

昨年の総火演 後段演習は、①対艦戦闘・着上陸阻止、②水陸両用作戦・空挺作戦、③機動師団主力による敵の撃破、の三段構成で、第1空挺団や水陸機動団を含めて陸上自衛隊の主要部隊・装備がすべて活躍する総花的で、スケールの大きなものだった。しかし、今年度は上陸した敵部隊に対する増強即応機動連隊による阻止にスポットを当て、空挺降下やヘリボーン、AAV7水陸両用車による上陸といった演目はなくなった。

16式機動戦闘車を主力とする即応機動連隊が今回の後段演習の主役となった。演習の開始時点から広場に展開し、ランダムに出現する敵戦車や装甲車に対し、地形を利用した位置から射撃を行なっていた。写真/武若雅哉

具体的に今年の後段演習の内容は——特科やF-2戦闘機による近接航空支援、AH-1S攻撃ヘリと連携した即応機動連隊(16式機動戦闘車部隊)が敵を阻止・減殺しつつ、敵の陣地前に構築された障害(地雷原など)を処理し、最終的に90式戦車と機械化された普通科部隊による二方面からの突撃で敵を撃破する――というものだった。

これまでの総火演では、それぞれの車両・航空機が登場するたびに「紹介アナウンス→攻撃指示の無線→攻撃の実行」が繰り返され、とてもわかりやすい構成になっていたが、今回はアナウンスの回数が減り、内容も戦闘状況を解説するにとどまっている。一方で部隊間の無線交信が常時、場内に放送されたが、ある程度の前提知識がなければ聞き取れず、理解が難しいものであることは確かだ。全国民に見せるためのエンターテイメントから、隊内の教育を目的とした内容へ、総火演は大きく変化したと言える。

恒例となっていた後段演習のラストを飾る発煙弾によるスモークのカーテン。こうした派手な演出は、今年は無くなり、粛々と後段演習は終了した。写真は令和5年度の総火演後段演習より。写真/鈴崎利治
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著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…