意外な車両も採用していた! ヤマハ・パフォーマンスダンパーが「走りを上質にさせる」は本当なのか?証言から検証してみた

ヤマハ発動機が製造するパフォーマンスダンパーは、車体の余計な振動を抑えることで、走りを良くするアイテムとして認められ、ヤマハのバイク以外にも広く採用されている。一見しただけではその効果がわかりにくいアイテムを、なぜ各社は採用するのか、ユーザーは何を求め、納得して装着に至るのか? 
今回はエンドユーザーと接しながらパフォーマンスダンパーを販売、採用する様々な人々に話を聞いてみた。

TEXT:小林 和久(KOBAYASHI Kazuhisa) PHOTO:小林 和久/ヤマハ発動機/神奈川トヨタ自動車/アクティブ/オフライセンスナカタ・てならいこ/明治自動車

シンプルなのに聞いただけでは謎だらけのパフォーマンスダンパー

ヤマハ以外のブランドでも多数のラインアップが用意されるパフォーマンスダンパー。主に長いものが4輪用で前後に2本使用する事が多く、短いものが2輪用で1本使用する。

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が製造するパフォーマンスダンパーをご存知だろうか?
車体の余計な振動を抑えることで、走りを良くするアイテムとして、乗り物好きにはよく知られている。その効果や信頼性が認められ、ヤマハバイクの純正用品での採用はもちろん、他メーカーの乗用車に純正品として採用されている。また、アフターパーツとしても4輪&2輪メーカー用に多数販売されているアイテムだ。

パフォーマンスダンパーの歴史は、開発したヤマハによって2000年に基本概念を発表、2001年には「世界初の車体技術」として300台限定のトヨタ・クラウンアスリートVXに搭載されデビュー。2004年4月には、日、欧、北米向けトヨタカローラのスポーツグレード車に量産車として世界初採用された。その後、トヨタをはじめ、日産、ホンダ、レクサスなどの乗用車へ採用実績を積み、2輪車用ではヤマハ純正用品としてワイズギアから発売されるだけにとどまらず、アフターパーツとして多くの国産輸入バイク用にも販売実績を重ねてきた。

パフォーマンスダンパーの構造は、一般的なダンパーと同じように、この中にオイルやガスが封入されている。

そして、2024年初頭には生産累計300万本を達成したパフォーマンスダンパーだが、原理としては、サスペンションに使われるような「ダンパー」を車体に取り付け、アイドリング中や走行時に車体へと伝わるエンジンや路面からの振動を「制振」することで、「振動が抑えられる」「乗り心地が良くなる」「走りが上質になる」「オーディオの音が向上する」などの効果が伝えられる。

原理、効果を疑似体験するため、車体フレームに見立てたスチール製の枠をハンマーで叩く実験を行ってみた。何もない状態でフレームを叩くと音は大きく響き、振動が手に伝わる。硬いロッド(ダンパー無し)で枠内を繋いだ場合、全体の剛性は高まるが振動も音も軽減されるが消えるまでに時間がかかる。パフォーマンスダンパーを装着した枠では見事に振動は消え、音は響かずに鈍い音がするだけだった。

パフォーマンスダンパーをご存じないかたはまずはこちらを御覧ください。
乗用車とトラックによる走りの違いを実証した実験映像。

パフォーマンスダンパーは現在、4輪用で12メーカー、2輪用で8メーカー向けが、様々な販売会社を通じてラインアップされているが、原理を聞いただけでは、その効果のほどがわかりにくいアイテムであるのも事実。そのヤマハ・パフォーマンスダンパーを、なぜ各社はこぞって採用するのか。ユーザーは何を求め、納得して装着に至るのか。今回、パフォーマンスダンパーをエンドユーザーと接しながら販売、採用する様々な人々にその疑問を尋ねてみた。

神奈川トヨタのある車種では2台に1台が装着!

パフォーマンスダンパーを使っている4輪ユーザーはどのように感じているのだろう。

多くのトヨタ車用パフォーマンスダンパー(神奈川トヨタ自動車での製品名:コックス ボディダンパー setting by DTEC)を販売している神奈川トヨタ自動車(以下、神奈川トヨタ)の担当者に、そのお話を聞いてみた。

神奈川トヨタ自動車株式会社 執行役員 特装商品開発部 担当 特装商品開発部 部長の松本勇人さん(左)と同社GR Garage MASTER ONE 東名川崎 ゼネラルマネージャーの横田浩之さん。

お話をお聞きしたのは、各車両のセッティングなどを担当する松本さんと、エンドユーザーと接することも多い横田さんだ。

ーーー神奈川トヨタとして、ヤマハのパフォーマンスダンパーに出会ったのはいつ頃でしょうか?

松本 私が初めて乗ったパフォーマンスダンパー付きの車両は200系ハイエースでした。ちょうど200系が出たばかりの頃で、「おお、新しいハイエースは走りがすごく良くなっているな」と思ったのですが、実はその車両にはパフォーマンスダンパーが装着されていたのです。その後、装着されていないハイエースに乗ったらぜんぜん違っていて……。これはパフォーマンスダンパーがすごいのだということに気付き、神奈川トヨタで販売しましょう、ということになりました。現在では、DTEC(神奈川トヨタの用品ブランド)で、ほとんどのトヨタの乗用車用をラインアップしています。

ヤマハも認める数少ない「パフォーマンスダンパーのセッティングができる人」、松本さん。

ーーーてっきり、スポーツカーに乗って走りが変わった!という体験から始まったのかと思ってましたが、そうではないのですね。装着率が高い車種は何ですか?

松本 少し特殊ですが、神奈川トヨタで販売しているタウンエースベースのキャンピングカー「キャンパーアルトピアーノ」がもっとも装着率が高く、およそ半分、2台に1台くらいのお客様に装着いただいてます。同車のオフ会で集まったオーナーの間でも、口コミで人気が広がっています。

商用車タウンエースをベースにした神奈川トヨタオリジナルのキャンピングカー「キャンパーアルトピアーノ」。

ーーーすごい割合ですが、これまた意外な車種ですね。GR86とかのスポーツ系かと思っていましたが、ファミリーで使うようなクルマに多く装着されるんですね。

横田 はい、タウンエースのほかには、ノア・ヴォクシーなどのミニバン、乗車人数が多い車種での装着率が高くなっていますね。

ーーーユーザーはどういう効果を期待して装着されるのでしょう。

カスタマイズ拠点であるGRガレージでも、ユーザーの要望を聞きながら最適解を提案してゆくという横田さん。

横田 お客様は、運転した時の疲れにくさやクルマ酔い防止、静粛性などを期待されて装着いただくことが多いです。

ーーー実際にボディダンパーを装着されたかたはどのようなことをおっしゃってますか?

松本 装着してすぐでは、最初の段差を乗り越えた瞬間に「変わったよ!」と言ってくれますね。それに、これまでボディダンパーを付けていたかたが、次の新車への買い替えのときに、ボディダンパーをまた付けたいとおっしゃってくれることも多いです。

横田 一番おっしゃっていただけるのが「乗り心地がすごく良くなった」ですね。「疲れにくくなった」「子供が酔いにくくなった」とも言われます。その他には、「ステアリングの反応が良くなってハンドルを切る角度が減った」と感じてくださるかたもいらっしゃいます。

ーーースポーツパーツとして購入したいという声はありませんか?

横田 モノとしてはタワーバーなどに似ているように見えるので、そう勘違いされるかたもいらっしゃいますが、そうではありません。例えば86をノーマルのままで乗っていたいけれど、もう少し乗り心地を改善したい、と言われれば、ボディダンパーというモノがあります、というご提案はします。

4輪用パフォーマンスダンパーは、車両の前後2箇所、フレーム端の左右を繋ぐように装着される。この取り付け場所、ステーやカラーの剛性、もちろんパフォーマンスダンパー自体の減衰力などによるセッティング次第で乗り味が悪化することもある。また、取り付けにもノウハウが必要で、どこでも「ポン付け」できる製品ではないそうだ。

神奈川トヨタのお話をお聞きすると、パフォーマンスダンパーは、ボディの振動を抑えることで、前後の剛性を整えることで、その車両が本来持つポテンシャルをフルに引き出し、安定性や快適性を向上させるアイテムであるように思えた。「運転して疲れない」「乗り心地がいい」というのは慣れてしまうと当たり前になってしまうが、「新車に買い替えた時、再びボディダンパーを装着してくれる人が多い」という話も、その性能が本物であることをユーザーが裏付けている。


子どもたちも「酔いにくくなった」と実感

また、「意外なユーザー」もいる。

児童発達支援・放課後等デイサービス「てならいこ」の送迎車にパフォーマンスダンパーが使われているという。その送迎車を運用する、株式会社オフライセンスナカタの中田氏にお聞きした。

児童発達支援・放課後等デイサービス「てならいこ」スタッフと、「パフォーマンスダンパー」を装着した送迎車。

ーーーパフォーマンスダンパー装着のきっかけは?

中田 児童の特性により、車速の変化やちょっとした揺れでパニックになったりする児童が居たので、少しでも揺れを軽減できて快適に送迎できる方法はないかと探し、パフォーマンスダンパーに出会いました。パフォーマンスダンパー装着後は、走行中のコツコツが感じられなくなり、微振動が減りました。また、揺れ戻しが少なくなったのと、揺れた場合でも収まりが早くなりました。それに、車内が静かになった気がします。

ーーー装着後の運転者や児童の評判はどうですか?

中田 運転者からも、揺れないように気を配って運転する負担が減り、「運転が疲れにくくなった」、それから「ハンドルが切りやすくなった」と聞いています。児童からも、「酔いにくくなった」「静かになった」と好評です。

ドライバーにとって、児童の送迎という通常の運転以上に気を遣うことが多くなってしまう場面でも、パフォーマンスダンパーが労働環境の改善に大きく貢献していることと、なにより子どもたちが安心して乗り物に乗ってくれるのは話を聞いただけでもいいことだと感じる。パフォーマンスダンパーは、クルマに乗る人全員に優しさをもたらすパーツだと言えよう。


「上質な乗り心地」をコスパ良く実現する

2輪業界からは、ヤマハ車以外のバイク向けにパフォーマンスダンパーを販売する「株式会社アクティブ」の松田さんにお話を聞いた。

ーーーヤマハ車以外のバイク用にヤマハ製パフォーマンスダンパーを発売するに至ったきっかけはなんでしょうか?

松田 ワイズギア(ヤマハ発動機の純正用品メーカー)様から「ヤマハ車以外を開発してみないか」と声をかけていただき、同時にSR400に試乗させてもらいました。その結果「これは当社で開発したい」と、直ぐに社内へ企画を提案しました。乗らないと効果が見えにくい製品について書面である企画書だけで信じてもらうため、何度も書き直した思い出があります。

2輪用ではパワーユニット付近とフレームを1本のパフォーマンスダンパーで繋ぐ場合が多い。写真はアクティブで発売中のパフォーマンスダンパー最量販モデルのホンダ・レブル250への装着状態

ーーー数あるバイクの中から設定車種をどうやって決めていますか?

松田 バイクというより、ユーザー像を先にイメージします。バイクが好きでいつも乗っていたいという人が選ぶバイクは何だろうと。結果として単気筒エンジンなど振動の多いモデルや長距離ツーリング向きモデルが候補にあがります。

ーーーパフォーマンスダンパー装着での「走りの狙い」はどこにありますか?

松田 統一して狙っているのは「上質な乗り心地」ですが、ベース車ごとに走りの狙いやポテンシャルの違いがあるので、最終的にはそれぞれの乗り味になっていると思います。

ーーーユーザーはパフォーマンスダンパーに何を求めてますか?

松田 「微振動によるしびれや疲れの軽減」のために装着したという声が多いですが、その「振動軽減」を主目的に装着されたユーザー様も、ハンドリング向上など「上質な乗り心地」が得られたと評価を上げていただいてます。この製品を高く評価するユーザーに共通するのは、「よく乗る人」です。長距離ツーリングだけでなく、毎日短距離の通勤で乗っている人も同様です。ユーザーはアフターパーツに「変化の実感」を求めますが、パフォーマンスダンパーは見た目より「機能性の変化」で対価に見合っているという評価が営業報告でも上がっています。

アクティブではヤマハと共有するいくつかの評価基準を設け、合同試乗を行うなどして商品特性を正確に引き継ぐ開発を行ってきた。現在では、国内外のバイク用に、7メーカー、およそ30車種ほどに向けたパフォーマンスダンパーをラインアップする。

この他にも、タクシーへ採用された事例がある、そこでのパフォーマンスダンパーの効果、評判を神奈川県のタクシー会社「明治自動車株式会社」の村井工場長へお聞きした。

パフォーマンスダンパーを装着した、明治自動車のタクシーは乗れば違いがわかる。

ーーーパフォーマンスダンパー装着後にどのような結果が得られましたか?
村井 走行安定性が向上したと感じます。それに嬉しいのは、タイヤの減りが少なくなったことです。また、やむを得ない状況での急ハンドル、急ブレーキでの姿勢の乱れが小さくなった。そのおかげか、大きな事故が減ったように思います。
ーーー運転手さんからの実際の評判はいかがですか?
村井 他社から転職してきたドライバーが同じ車種に乗車して「クルマが全く違う」と話していました。それに、「運転中、腰の落ち着きが良くなった」「ハンドルの揺れが減った」との評判もあります。
ーーーお客様のお声や反応で代表的あるいは目立った意見はありますか?
村井 長距離のお客様の中には「疲労感が違う」ということで、当社の車両を待ってでも乗りたいとおっしゃっていたこともあります。たまたまお乗せした自動車メーカー勤務のお客様に、「このクルマは乗り心地が良いね。揺れが少ないが、何かやってるの?」と質問され、パフォーマンスダンパーの説明をしたこともあったそうです。


パフォーマンスダンパーは、一見しただけでは何のパーツなのかわからないし、動きが見えるものでもない。4輪車に装着した場合、外観からはほぼ見ることすらできない。しかし、4輪ユーザーのリピーターが多いことや、2輪ユーザーから対価に見合っているという評価からわかるように、「乗ってみればわかる」タイプの本当に効くパーツなのだ。それに、なによりも児童送迎車で効果が実証できているお話を聞くと、直接は関係のないこちらまで嬉しくなってくるし、乗り物が人に優しくなれるパーツをヤマハは発明したのだと思える。

ヤマハ発動機には「人機官能」という独自の開発思想があり、以下のように定義されている。

「人機官能」とは、「人」と「機械」を高い次元で一体化させることにより、「人」の悦び・興奮をつくりだす技術

まさにパフォーマンスダンパーは、この思想を体現している。車体に発生する振動を抑えることで、乗る人へ気付かぬうちに悦びを与え、時には静かな興奮をも作り出してくれる。

見えないところにも徹底的に理想を追い求めた結果できた、隠れていても能力を徹底的に引き出してくれる、パフォーマンスダンパーは、まさにヤマハらしい技術のひとつが垣間見れるアイテムなのだ。


■ヤマハ発動機パフォーマンスダンパー公式ページ https://www.yamaha-motor.co.jp/pd/
■パフォーマンスダンパー4輪車 商品ラインナップ https://www.yamaha-motor.co.jp/pd/purchase/four-wheeled.html
■パフォーマンスダンパー2輪車 商品ラインナップ https://www.yamaha-motor.co.jp/pd/purchase/two-wheeled.html

取材協力:神奈川トヨタ自動車株式会社(https://kanagawatoyota.co.jp/)/コックス株式会社(https://www.cox.co.jp/)/株式会社アクティブ(https://www.acv.co.jp/)/株式会社オフライセンスナカタ・てならいこ(https://tenaraico.com/)/明治自動車株式会社

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著者プロフィール

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を…