240ZG乗りが自分の手で挑んだ280ZのDIY修理劇
国産旧車の人気が高まり中古車価格は高騰を続けている。そんな状況にあって、本来なら数少なかったはずのハコスカGT-RやケンメリGT-R、S30フェアレディZ432などは意外と目にする機会が多い。新車時に数が少なくても人気が高いため残存率が高いからだ。
それとは逆に新車時、そこそこ売れたものの世代が変わって人気を落としてしまった車種を目にする機会は少ない。その筆頭とも言えるのが2代目フェアレディZ、S130系ではないだろうか。
なぜS130系の人気が低かったのかといえば、初代に比べ重くなったことで走行性能、特に加速性能が穏やかになってしまったから。けれど、このスタイルを今見ると、改めて「いいな〜」と思われないだろうか。初代より近代化されつつ、フェアレディZとしてのアイデンティティを感じるデザインだと個人的には思うのだ。
会場に展示されたS130はわずか1台。とても良い状態にされていて思わずお話を聞いたところ、以前の記事で紹介したフェアレディ240ZGと同じオーナー、橋本康之さんの所有車だった。
1人で2台エントリー、しかも世代の異なるフェアレディZとくれば相当なマニアだと誰しも思うところ。ところが橋本さん、ただのマニアどころではなく筋金入りの旧車乗り。というのも、このS130は自分の手でボディから腐った個所を除去して補修、全塗装までされていたのだ。
入手時からボディには所々サビが見受けられた。旧車にサビは付き物だが、酷い場合だとサビだけでなく鉄板が腐って穴が空いてしまうこともある。このS130やスカイライン・ジャパンなど70年代後半に作られたモデルはサビの進行が早いことでも有名。ボンネット先端やカウルトップ、フェンダーまわりなどは要注意個所だ。
この個体もボンネット先端のサビが酷く、橋本さんは自らの手で腐った個所を除去してプレスラインを再現したという。ボンネットとバンパーの間には本来なら樹脂パーツがあるのだが、それを外してメッキパーツで代用しているそうだ。
今ではFRP補修キットなどが数多く市販されているので、ボディの修理もDIYでできないことはない。けれど実際にやってみると納得できる仕上がりとは程遠いものになってしまうのが普通。ところがこのS130は素晴らしい状態に甦っている。橋本さんのセンスと手先の器用さを反映してのことだろう。
また全塗装する時に選んだのは純正色ではなく、シルバー部分をグレーメタリックにしている。しかも難しいツートンカラー、俗にいう「マンハッタンカラー」風にしている。
純正を尊重することも旧車の楽しみ方の一つだが、こうして自分好みに仕上げてみるのも大いにアリではないだろうか。純正のように見えて、実はちょっと違う。マニアなら判断できるけれど、そうではない人から見れば普通っぽい。こうした楽しみ方もオツなもの。
外装の楽しみ方同様、室内にもちょっとずつ違う部分がある。赤系のインテリアは時代を感じる部分だが、こうしたところはあえて変えない。また旧車だと真っ先に変更されてしまうことが多いステアリングホイールも、なんと純正のまま。ところがダッシュボード中央付近に配置されている3連メーターはすべて社外品にされている。しかも3個とも斜めに取り付けて普段乗る時に針が上を向くようにしているあたり、こだわったポイントなのだろう。
フェアレディZといえば2シーターというイメージが強く、4人乗りの2by2は一段低く見られる傾向にある。けれど、このクルマのように大排気量の280Zで2by2だと、ピュアスポーツカーというよりラグジュアリーなモデルとして魅力的に見える。再評価されていいと思われないだろうか。
エンジンは純正のL28E型のまま。このエンジンはハコスカやS30フェアレディZのチューニング用として有名。ピストンやクランクシャフトを変更すると3リッター以上にまで排気量アップができることから、80年代のチューニングシーンに欠かせないものだった。ところが橋本さんは吸気系を変更することも、排気量を引き上げることもせずノーマルを維持されている。残存数が少ないS130のなかにあって、税率が高く新車販売台数がごく少数だった280Zは特に希少。できればこの状態で末長く楽しんでいただきたいと感じられた1台だ。