自衛隊新戦力図鑑:陸上自衛隊の「野外洗濯セット」現在の主力は2型

陸上自衛隊:移動式アウトドア・ランドリー「野外洗濯セット」、初期型と改良され使用性向上した2型

陸上自衛隊の「野外洗濯セット2型」。トレーラー積載方式の洗濯装備1セット。陸自の後方支援連隊補給隊などが装備する。背後に見切れているタマネギ形状の物体は貯水タンク。
汚れた衣服のままでは衛生面や健康面、精神面でもよろしくないのは当然。そこで、野外で簡単に洗濯する装備を陸上自衛隊は持っている。洗濯機と乾燥機などをトレーラーに積み込んで1セットにしてある。長期の野外演習などで山の中の演習場へ運び込み生活する区画へ展開、必要なときに洗濯するのだ。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

盛夏となり、洗濯と物干しが心地よい季節となりました。今回は自衛隊の洗濯装備と関連する話題です。

陸上自衛隊が演習や各種訓練などを行なう場合は演習場などに赴くことが多い。長期間の演習などでは駐屯地に戻らずそのまま現場で活動を続けることにもなる。その場合、演習場に設備された宿営施設や天幕(テント)を設営して暮らすことが主軸となるが、できるだけ普段同様の生活が望ましい。埃まみれ、泥だらけになることも多いから、衣服も洗濯しなければならない。

そこで登場するのが「野外洗濯セット」なる装備だ。初期型と2型があり、現在の主力は2型。両者ともトレーラー式で、洗濯機と乾燥機などを1セットで搭載する装備の基本構成は同じ。後者の方が性能や能力は向上している。これをトラックなどで牽引して必要な現場へ運び込むわけだ。

横から見た「野外洗濯セット2型」。左側に全自動洗濯機が2台、中央に大型乾燥機が1台、右側には発電機などが置かれている。

「野外洗濯セット2型」の構成を見てみると、トレーラーに搭載されている主要器材は、

  • 1)全自動洗濯機 
  • 2)乾燥機 
  • 3)揚水ポンプ
  • 4)発電機 

となっている。これに業務用天幕一般用と貯水タンク(1万ℓ)、付属品(作業台・洗濯かご・すのこ・シート)が加わる。装備全体は街角のコインランドリー設備が移動式になっている感じだ。

次に能力。全自動洗濯機は1時間あたり迷彩戦闘服などの作業服約40着を洗える。乾燥機も同じように約40着/hで乾かせるという。これは小規模部隊の洗濯物を一気に片付けられることを示している。貯水タンクは最大1万ℓの容量があるので、大量の洗濯物に使って余りあるはずだ。

自衛隊の迷彩戦闘服などの作業服は厚手で洗いづらく乾きにくい。これらを洗濯機と乾燥機で片付けられるのは便利だ。ちなみに洗濯機や乾燥機は民生品と同等のものか、あるいは民生品そのものだと思われる。どこかで見たことのある筐体だ。洗い上がりや乾燥の仕上がりももちろん良好。  

一方、初期型の「野外洗濯セット」はトレーラーに積んだ洗濯機などと、天幕の乾燥室で構成されるのが特長だ。乾燥機はなく、その代わりに天幕を立て、そこに洗濯物を吊るし、温風を天幕に送り込んで乾燥させる方式だ。

初期型トレーラーの構成器材は、

  • 1)洗濯機 
  • 2)脱水機 
  • 3)給水ポンプ 
  • 4)発電機 から成る。

乾燥室は、

  • 5)本体 
  • 6)熱風発生炉 
  • 7)バーナー 
  • 8)発電機 
  • 9)送風機 

となる。これに付属品(作業台・ザル・収納箱・工具類)が付く。構成器材が2型と比べて多いのは様式の違いや時代性からだろう。

こちらは初期型の「野外洗濯セット」。奥の器材が洗濯機(回転ドラム電動機逆転方式)で、手前の円柱状が脱水機(筒型自動調心遠心分離式)。

初期型の能力は、洗濯機(回転ドラム電動機逆転方式)は作業服約20着、脱水機(筒型自動調心遠心分離式)が作業服約14着を処理できる。乾燥室は折りたたみ式の金属枠天幕で作業服約42着を約30分で乾かせるという。マニュアルの洗濯機、脱水機、乾燥室で構成されるクラシカルな装備だ。

初期型「野外洗濯セット」の洗濯機を開けた様子。横型の回転ドラムが見える。

初期型・2型ともスペック上は数十着の重たい作業着等を処理できる能力を持つが、実際の作業は汚れ具合やその日の天候などにも左右されるのではないだろうか。コインランドリーで大物の洗濯をする場合、一度に洗う洗濯物の量や質により洗い上がりや乾き具合に違いがあるものだ。とくに乾燥は仕上げに天日干しする必要もある。同様なのだろうか、演習場の宿営区画には「物干し場」が設けられていることがあって、迷彩色や濃緑色の洗濯物が風に揺れている光景がある。下着や靴下など小物は別に洗っているのかもしれないが。洗って清潔になり、カラリと乾いた衣服に着替えられるのはハードな訓練や演習中でこそ気持ちがいいし、士気も上がる。

初期型「野外洗濯セット」の脱水機。脱水機能が別体の初期型は、昔の2槽式洗濯機の構成と同じようなもの。

野外洗濯セットのほか、以前紹介した野外入浴セットや野外炊具など、アウトドアで仕事をする部隊の衣食住を支援する装備は多い。しかし「衣」の分野はそもそもが貧弱に筆者には見える。

自衛隊の官給品の作業服や迷彩戦闘服などの布地は「ビニロン」という合成繊維で作られている。1950年にクラレが開発した合成繊維だ。強度や耐候性、耐薬品性に優れ、難燃性や赤外線抑制効果まで兼ね備えているという。この繊維で作られた新品の迷彩戦闘服を着させてもらったことがあるが、非常にゴワゴワして着心地の悪いものだった。

新品だからか汗を吸わないし、内部は蒸れた。洗濯を重ねると柔らかくなると自衛官らは言うが、そうすると色落ちし白っぽくなることもある。染料の乗りが悪いらしい。これではせっかくの迷彩効果がなくなる。現在は改良され性能向上しているかもしれない。しかし、洗いざらしてミョーに白っぽくなった迷彩上下を着ている隊員は多い。約70年も前に開発されたこの合成繊維を使い続けている理由は不明。しかし重たく蒸れて着心地の悪い作業服での仕事は昨今の気象環境に合わないし、そもそも不健康だろう。防衛組織の人々の健康を守ってやれないのはおかしい。

関山演習場の宿営区画に設けられた物干し場。区画を整理して、そこらじゅうに洗濯物を干すことはしない。下着や靴下など比較的小物類の天日干しに使っている。昔は「物干場(ぶっかんば)」などと内部呼称していて、音声だけ聞くと意味不明だったが、今もそうなのだろうか。

官給品の被服などの性能がイマイチだと感じる自衛官が多いからか、駐屯地の売店などでは官給品ではない迷彩服などが販売されている。それらは軽量性や通気性、着心地の良さなどを売りにしているものが多い。隊員らはこれらを自費で買い、日常勤務で着用している者もいる。対して、検閲など装備の点検を受けるような機会には官給品に戻すという。これは本末転倒だろう。戦車や戦闘機、護衛艦の正面装備の整備はもちろん大事だが、快適な衣服やゴアテックスなどの機能繊維製の雨具、高機能なブーツやヘルメットなども大事だ。しかしこれら個人装備系のものは後回しにされる傾向が強いままに見える。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…