電気もプラグインできるから水素が生きる!ホンダCR-V e:FCEVは未来を切り拓くか?

日本カー・オブ・ザ・イヤー2024-2025の「テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのが、ホンダCR-V e:FCEVだ。水素燃料電池とバッテリー+プラグイン機構を組み合わせた意欲作だ。車両価格は809万4900円。一充填走行距離:約621km、一充電走行距離:約61kmである。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

車両価格は809万4900円

CR-V e:FCEV メーカー希望小売価格:809万4900円

ホンダは2024年2月29日から新型燃料電池車のCR-V e:FCEVのオーダー受付を開始し、7月19日から法人・個人向けにリース販売を開始した。法人には外部給電器を接続できる点が歓迎されているそう。個人からは「6代目CR-Vを待っていた」という声が届いているという。現行CR-Vはガソリン車、ハイブリッド車(e:HEV)、プラグインハイブリッド車(e:PHEV)の設定があるが、日本国内で販売されるのはe:FCEVのみである。

CR-V e:FCEVはホンダの企業姿勢を示す機種である。ホンダは地球で人々が持続的に生活していくために環境負荷ゼロの循環型社会を目指しており、「2050年にホンダの関わるすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを実現する」ことを目指している。その実現に向けては多元的に取り組むとしており、なかでも、水素はカーボンニュートラルに向けた重要なエネルギーに位置付けている。

ホンダはコア技術である燃料電池システム(FCS)を今後さまざまなアプリケーションに展開して“水素を使う”領域で社会のカーボンニュートラル化を促進し、水素需要の喚起に貢献したいと考えている。FCSについては1990年代後半から実用化を見据え、開発に取り組んできた。CR-V e:FCEVが搭載するFCSはGMと共同開発したもの。2016年のクラリティ・フューエルセルが搭載していたFCSに対し、コストを3分の1以下に抑えるとともに耐久性を2倍以上に向上。極低温時の始動時間を大幅に短縮するなど、耐低温性を向上させている。

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さまざまなアプリケーションへの適用に向けては、出力レンジに応じてFCSを並列接続する考え。これにより、大型商用車やメガワットクラスの電源にも適用できると考えている。また自社で完結せず、完成機メーカーへの開発サポートやユーザーに対する運用サポートに取り組み、バリューチェーンの拡大を図っていく考え。商用車領域では2020年にいすゞ自動車と大型トラックの共同研究を始めると、2023年に量産燃料電池トラックの量産パートナーシップを締結。同年12月に公道実証実験を始めており、2027年の市場導入に向けて開発を進めているところだ。

2008年のFCXクラリティと2016年のクラリティ・フューエルセルはともにセダンタイプだったが、CR-V e:FCEVはSUVタイプである。ボディタイプの違い以上に大きいのはパワーユニットのタイプで、CR-V e:FCEVは外部充電が可能な“プラグイン”だ。17.7kWhの大容量バッテリーを積んでおり、バッテリーに蓄えたエネルギーのみでモーターを駆動し、(カタログ値で)約61km走行することができる。自宅で充電することで普段はEVとして使い、週末などに遠出をする際は水素と大気中の酸素を反応させて発電し、その電気でモーターを駆動して走る使い方を想定している。

全長×全幅×全高:4805mm×1865mm×1690mm ホイールベース:2700mm

水素の充填時間はガソリン給油並みの短時間で済むのが、燃料電池車(FCEV)の電気自動車(BEV)に対するアドバンテージのひとつである(そのかわり現時点では、出先で水素ステーションを探すのに苦労しそう。だからプラグイン機能を持たせてもいるわけだが……)。カタログ値の水素一充填あたりの走行距離は約621kmである。フロントに搭載するモーターの最高出力は130kW、最大トルクは310Nm、車重は2010kgだ。

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乗って楽しいクルマに仕上がっている

北海道鷹栖にあるホンダのプルービンググラウンドで試乗した

CR-V e:FCEVに鷹栖プルービンググラウンド(北海道・鷹栖町)で試乗した。鷹栖には多くのコースがあるが、試乗コースに設定されていたのは、ドイツやイギリスの郊外路を再現したEU郊外路コースと高速周回コースだった。

バッテリーはこの位置に搭載。手前に見えるパイプは配水管
圧縮水素タンクの圧力は70MPa。

クラリティ・フューエルセルはFCSとモーター、ギヤボックス、FCSに空気を送り込むエアポンプ、電動エアコン・コンプレッサーをフロントのサブフレームに別体で搭載していた。CR-V e:FCEVは主要なコンポーネントを6代目CR-Vのサブフレームに一体でマウントしている。一体でマウントすると何がいいかというと、NV(ノイズ・バイブレーション)が劇的に低減できるのだという。開発にあたる技術者は、メリットを次のように説明する。

「クラリティ・フューエルセルでやりきれなかったのはNVでした。主要なコンポーネントをひとつのパッケージに収めることで、ひとつには衝突時のモーションコントロールがしやすくなりました。さらに、重量物をくっつけることにより、マスの効果で振動が減衰され、伝わりにくくなりました。CR-Vのハイブリッド車で適用している吸音材以上のことはしていません」

燃料電池スタック:固体高分子型
燃料電池最高出力:125PS(92.2kW)
燃料種類:圧縮水素燃料タンク:本数2本・合計109L
モーター種類:交流同期電動機
最高出力:177ps(130kW)
最大トルク:310Nm


パワーユニットの一体化によってNV性能が向上したとはいえ、無音ではない。音はする。例えば、加速するときや減速するときはモーター由来の高周波音が耳に届く。だが、不快な音ではなく、加速時は加速Gや車速と連動する高揚感をもたらすサウンドと言える。減速時は減速している感を伝えるインフォメーションとしての役割を果たしている。モーター音は徹底的に抑えることも可能だったが、あえて残したという。

システムがオンになっているときにボンネットフードを開けると、インジェクターがFCSに水素を噴射するカン、カンという作動音が結構派手に聞こえる。充電式の掃除機を使っているときのようなエアポンプの作動音もする。しかし車内では、よほど耳を澄まさない限り聞こえてこない。エアコンをオフにすると、かすかにインジェクター音が聞こえてくる程度だ。

これについては、「消すかどうか迷った」末に、残すことにしたという。完全に音を消して無音にしてしまうとBEVと変わらなくなってしまう。「燃料電池が動いている感を残したい」思いがあり、あえて残したのだという。そうとわかってカン、カンという音を聞くと、FCSの魂動のようにも感じられる(酸素と水素が反応して電気を生むプロセス自体は無音だそう)。

FC電力とバッテリー電力のエネルギーマネジメントモード
蓄えた電気を取り出し、さまざまなシーンで活用できる外部給電機能

リチウムイオンバッテリーに充分残量がある状況でシステムをオンにした場合は、バッテリーの電力利用を優先するEVモードが自動的に選択される。充電直後はこのモードだ。そうでない場合はAUTOモードが選択され、FCSまたはバッテリーの電気を効率良く使う。ほかにSAVEモードとCHARGEモードがある。

SAVEモードはバッテリー残量を維持するモード。CHARGEモードはFCSで発電してバッテリーに充電するモードだ。例えばロングドライブの際、水素充填できるのがわかっているのであれば、タンクに残っている水素を電気に置き換えておくことで、水素をたくさん充填でき、よりロングドライブが可能になる。

以上はエネルギーマネジメントのモードに加え、NORMAL、SPORT、ECO、SNOWのドライブモードの設定がある。SPORTを選択するとアクセルペダルの踏み込みに連動して、スピーカーから効果音が発せられる。人工音だが、嫌味でも無粋でもなく、気分が乗る音だ。ステアリングホイールの裏には回生ブレーキの強さを4段階で調節できる減速セレクター(パドル)がついており、減速側の車速をコントロールするのに便利だ(SPORT選択時は選択した強さが固定される。NORMAL時は次のアクセルオンで解除)。

制御によってアクセルペダルの動きに対する感度を高め、強く踏み込んだときに頭が倒れそうになるほどの加速を作り込むことも可能。だが、CR-V e:FCEVではあえて、そのような過激な味つけは選択しなかった。動力性能はe:HEV搭載車(国内未導入)と同等にしたという。強烈ではないが、充分速いし、応答が良く、切れ目や段のないシームレスな加速は爽快だ。

それに前後方向だけでなく、横方向の動きの作り込みもいい。シビックやアコードと同様で、CR-V e:FCEVも旋回は得意科目だ。ステアリングやアクセル操作に対する動きがイメージどおりで、ラインをトレースする行為が楽しくなる。脚がよく動いてタイヤが路面に追従し、きちんと接地している感が味わえるのもいい。荒れた路面でもバタバタしない。揺れた後の収まりもいい。プラグインFCEVである以前に、運転して楽しいクルマだ。

CR-V e:FCEV

全長×全幅×全高:4805mm×1865mm×1690mm

ホイールベース:2700mm

車両重量:2010kg

燃料電池スタック:固体高分子型
燃料電池
最高出力:125PS(92.2kW)

燃料種類:圧縮水素
燃料タンク:本数2本・合計109L

モーター種類:交流同期電動機

最高出力:177ps(130kW)

最大トルク:310Nm

駆動方式:FWD

駆動バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー
総電力量:17kWh

最小回転半径:5.5m

最低地上高:170mm

タイヤサイズ:235/60R18 103H
乗車定員:5名

一充填走行距離:約621km
一充電走行距離:約61km
メーカー希望小売価格:809万4900円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…