ここまでやるか! GRカローラの進化は理想の走り実現のためのディテールへのこだわりが支えている

TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は、米国で2024年に発表した進化型GRカローラを日本に導入。注文受付を2月4日に開始し、3月3日に発売する。この進化型GRカローラを新潟県苗場の雪上でテストドライブした。進化の狙いと変更点を中心に見ていこう。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:TGR

GRカローラが発表されたのは2022年4月のことだった。さかのぼること1年、TGRはのちにGRカローラを名乗ることになるカローラベースの競技車両をスーパー耐久シリーズに送り込んだ。いわゆる「水素エンジンカローラ」で、水素エンジンを鍛えると同時に、モータースポーツを起点に車両を鍛えるのが狙いだった。

「水素エンジンのクルマは非常に重たい。その重たいクルマを長時間意のままに、安心して走れるように、いろんなところを鍛えてきました」と、GRカローラのチーフエンジニアを務める坂本尚之氏は説明する。

進化のポイントは多岐に渡り、2024年4月に国内で販売が開始されたGRヤリスに適用された技術との共通項が多い。エンジンもそのひとつで、最大トルクが370Nmから400Nmに引き上げられている。コーナー立ち上がりの加速性能向上に効く変化点だ。また、進化型GRヤリスで追加された8速ATのGR-DATが設定されたのもニュースである。

全長×全幅×全高:4410mm×1850mm×1480mm ホイールベース:2640mm
GRカローラ RZ(6MT)車両価格:568万円(8ATモデルは598万円)
トレッド:F1590mm/R1620mm 最低地上高:120mm
最小回転半径:5.5m

「GRカローラは(2ドアのGRヤリスと違って)4ドアなこともあり、お客さまからATの搭載要望がありました。(ユーザーの)間口を広げる意味合いもあるのですが、スポーツ性能を進化させる意味で、スーパー耐久や全日本ラリーで鍛えたGR-DATを今回、GRカローラに搭載することにしました。(サーキット走行でも)パドルを使わず、自動変速モードでも最適なギヤ選択をし、走り切るトランスミッションになっています」

GRカローラの進化のポイント

富士スピードウェイでは高速セクションの100Rなどで、リヤのスタビリティを上げたいという要望がドライバーからあったという。旋回内輪が浮いて接地荷重が抜けてしまうのだそう。そうなると、4輪のタイヤが持つ能力を充分に生かし切れなくなってしまう。

左が従来型、右は進化型GRカローラのスプリング。2ステージ化された(色の違う部分)。
リバウンドスプリング付きのダンパーユニット
ここがリバウンドスプリング

当初はストロークを伸ばす方向で改善に取り組んだというがうまくいかず、ロール角を抑えて伸びを規制し、内輪の接地性を高める方向でまとめた。ロール剛性を高める方向である。具体的には、スタビライザー(アンチロールバー)の径を1mm細くして分担率を低減するいっぽうで、コイルスプリングのレートを上げた。ショックアブソーバー(ダンパー)はゴムブッシュをリバウンド(伸び)側で機能するリバウンドスプリングに替え、伸びを規制して安定した車両姿勢を保てるようにした。

コイルスプリングのレートを上げるとコイルは短くなってしまう。短くなるとストロークは稼げなくなるので2ステージ化し、伸びたときの長さを維持しつつばねレートを上げている。

加速時のリヤの沈み込みを低減するために、アンチスクワットの特性を強化した。
リヤサスペンション

また、加速時のリヤの沈み込みを低減するため、アンチスクワットの特性を強くした。具体的には、トレーリングアームのボディ側取り付け点を30mm上げている。これにより、アクセルペダルを踏み込んだときの沈み込みが抑制されると同時にツキが良くなる。GRカローラのリヤサスペンション(ダブルウィッシュボーン式)では背反として(安定方向の挙動をつくる)トーイン特性がきつくなる。そこで、ロワーアーム前側のボディ側取り付け点を5mm上げることで、トーイン特性がきつくならないよう調整した。

4WDの前後駆動力配分は、見直された。

タイトなコーナーが連続する富士スピードウェイのセクター3ではラインをトレースしづらいとのフィードバックがあったため、ライントレース性を上げるべく4WDのモードを全面的に見直した。進化型ヤリスに準じた内容で、従来のFRONT(60:40、日常使いの安定性)、TRACK(50:50、サーキット、グラベル/スノー)、REAR(30:70、ワインディング)からNORMAL(60:40、日常使いの安定性)、TRACK(60:40〜30:70可変、サーキット/ワインディング)、GRAVEL(50:50、グラベル/スノー)に変更した。

サーキット走行は従来50:50のTRACKモードを割り当てていたが、専用のモードを設け、60:40〜30:70の可変にし、リヤにより多くの駆動力を割り当てる制御にした。従来のTRACKモードは同じ50:50としながらGRAVELに割り当てている。走行状態に応じて前後の駆動力を可変するよりも、固定のほうが走りやすいと感じる場合もあり、好みで選択できる余地を残している(従来どおり、GRAVELをサーキットを走る際に選んでもいい)。

タイヤサイズは235/40R18。今回は雪上試乗だったので、ダンロップ製スタッドレスタイヤ、WINTER MAXX 03を装着
ASB(ESC)ユニットはアドヴィック製

ABSもアップデートした(ユニットはアドヴィックス製)。サーキットではABSを作動させる前提で走るためだ。作動周期を短くするセッティングをし、より使いやすくしたという。さらに、荷重抜けに対して新たなロジックを入れた。上下Gの入力を検知し、サーキット走行などで荷重が抜けたと判断した場合は、接地した際にすみやかに制動力を復帰させるプログラムとした。いっぽうで、低μ路では従来どおりロックを回避する制御となる。この改善について坂本氏は「荒れた雪道で安心してブレーキを踏むのに役立っている。ニュル(ブルクリンク)でクルマを鍛えた効果」と話す。

ボルトは径だけでなく、フランジ形状まで手を入れた。

クルマとの一体感、すなわち操舵に対するダイレクト感を改善するため、ステアリングコラムとインパネリインフォース締結部の取り付けボルトはワッシャーを溝付きとしたうえで径を拡大し、ボルト頭径を拡大。フロントロワーアームとナックルの締結部はボルトフランジにリブを追加。リヤショックアブソーバー(ダンパー)のアッパーサポートとボディの締結部はフランジの厚みを増やした。ステアリングを切るとまずフロントタイヤが反応し、リヤタイヤが反力を受け持つ。その経路上の締結剛性を向上させたわけだ。体幹を鍛えたと言えようか。

空力性能アップのために、バンパー形状を変更している。
実車で見るとこうなる。

空力にもこだわっている。GR-DATの設定追加にともない、進化型GRヤリスと同様、車両左側にDATクーラー、右側にサブラジエーターを搭載できる構造にし、合わせてバンパー形状を変更。カローラでこれらの変更を行なってみると、バンパー起点の乱流が発生し、直進時にステアリングの手応えが悪化することがわかった(テスト走行したドライバーから指摘があった)。

原因を調査したところ、ボディ側面の空気がきれいに流れていないことが判明。そこで、バンパーコーナー部にL字型の突起を設けて乱流を打ち消し、従来どおりのステアリングの手応えを維持している。ほんのわずかな突起だが、走りへのこだわりが現れている部分だ。

既存のオーナーにもアップデートパッケージを用意する予定だという。このあたりもGRのこだわりが見える。

既存のオーナーを置いていかないのがTGRの考え(モリゾウ氏の教え)で、進化型カローラに投入されたアップデートの一部はパッケージで投入される予定。セットで装着すると効果があるアイテムを「Step1:クルマとの一体感向上」、「Step2:旋回性能向上」のグループでくくり、順次リリースする。その他のアップデートについても順次リリースすべく検討中だという。

雪上で進化を試す

進化型のGRカローラに、苗場(新潟県・湯沢町)に設けられた特設の雪上コースで試乗した。タイヤはダンロップのスタッドレスタイヤ、WINTER MAXX 03を履いていた。MTとGR-DATにそれぞれ乗り、ドライブモードはSPORT一択、4WDモードはNORMAL、TRACK、GRAVELを切り換えながら走った。

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前後配分の制御の違いよりも、コースの習熟度合いによる影響が大きかったのは否めず、NORMALよりもTRACK、TRACKよりもGRAVELのほうがペースは速かったように思うし、走りやすいとも感じた。TRACKとGRAVELについては好みがわかれるかもしれないとGR側も認識していたが、筆者のような素人レベルには、固定配分=GARAVELのほうが性に合っているようだ。積極的に振り回して遊べるスキルの持ち主には、可変制御のTRACKが向いているかもしれない。

エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:G16E-GTS
排気量:1618cc
ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm
圧縮比:10.5
最高出力:304ps(224kW)/6,500rpm
最大トルク:400Nm/3,250~4600pm
燃料供給:DI+PFI(D-4ST)
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:50L

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いずれにしてもGRカローラ、楽しい。試乗した雪上コースは多くの車両が周回した後だったのでだいぶ荒れており、モーグルのようなコブが連なった箇所もあった、そこに突っ込んでいってもボディはミシリともしないし、脚がしっかり路面を捉えている様子がクルマの動きから伝わってくる。ステアリングはワナワナ震えてドライバーを不安に陥れることはなく、常にガシッとしていて心強い。外乱にも強く、クルマがどこかに飛んでいきそうな不安感もない。素晴らしい、としか言いようがない。

クラッチとシフト操作から解放され、アクセルとブレーキ、ステアリング操作に集中できるGR-DATの設定は、イージードライブ派には朗報だろう。変速操作に価値を感じない人や、操作における効率を重視する向きにはうってつけの設定である。

雪上コースではGRヤリスにも乗ったが、GRカローラとの対比ではキビキビした俊敏な動きが印象に残った。全長で415mm、ホイールベースは80mm、車両重量で200kgの違いが動きに与える影響は大きい。が、どちらもクルマとの一体感を味わえることに変わりなく、とてつもなく充実したクルマとの対話が楽しめる点で共通している。

GRカローラ RZ(6MT)
全長×全幅×全高:4410mm×1850mm×1480mm
ホイールベース:2640mm
車重:1480kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rダブルウィッシュボーン式
駆動方式:4WD
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:G16E-GTS
排気量:1618cc
ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm
圧縮比:10.5
最高出力:304ps(224kW)/6,500rpm
最大トルク:400Nm/3,250~4600pm
燃料供給:DI+PFI(D-4ST)
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:50L

トランスミッション:6速MT
WLTCモード燃費:12.4km/L
 市街地モード 9.0km/L
 郊外モード 12.8km/L
 高速道路モード 14.5km/L
車両価格:568万円(8ATモデルは598万円)

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…