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ドライバーモニタリングカメラ、高精度地図データ、GNSSアンテナを新たに追加
ホンダはアコードに「Honda SENSING 360+」搭載したタイプを追加した。2025年5月30日のことで、グレード名は「e:HEV Honda SENSING 360+」である。全国メーカー希望小売価格は599万9400円で、ベースとなるe:HEVに対して40万400円高の設定だ。


Honda SENSING(ホンダ・センシング)は、ホンダの安全運転支援システムの総称。2017年の2代目N-BOXから標準装備化し、以後、後方誤発進抑制機能や近距離衝突軽減ブレーキなど、機能を順次付加している。そのHonda SENSINGの進化形が、2024年3月4日に発売された11代目アコードに適用されたHonda SENSING 360である。
Honda SENSING 360
360(サンロクマル)は約100度の有効水平角を持つフロントセンサーカメラ(Honda SENSINGは約90度)と、フロントおよび前後左右のコーナーに計5台のミリ波レーダーを搭載することにより、360度のセンシングを実現している。また、近接の障害物検知用に前後に6台ずつのソナーセンサーを搭載。これにより、それまでのHonda SENSINGの機能に、次の3つの機能を追加することができた。

前方交差車両警報
低速走行時、または停車からの発進時に左右前方から接近してくる交差車両の情報をドライバーに通知する機能。フロント左右のミリ波レーダーで交差車両を検知し、自車が停止しているときは車両が接近していることをドライバーに通知。自車が低速で動き出し、衝突の可能性が高くなった場合は、警報を発してドライバーに回避操作を促す。

車線変更時衝突抑制機能
フロントのミリ波レーダーが車線の区画線を認識。前後左右のコーナーに搭載するミリ波レーダーが自車の周囲を走行する車両を検知し、中速から高速域で走行中、後側方に他車両が接近している状況でドライバーが車線変更しようとする際、警報と表示でドライバーに注意喚起するとともに、ステアリング操作を支援し、車線変更の中止を促す。

車線変更支援機能
高速道路もしくは自動車専用道の本線上を走行しているとシステムが判定し、かつACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKAS(車線維持支援システム)がオンになっている際、フロントカメラ+5つのレーダーが周辺の状況を認識し、安全な車線変更ができるかどうかを判断。ドライバーのウインカー操作により車線変更が要求されると、可能な場合にのみシステムがステアリング操作を支援する。

Honda SENSING 360+
Honda SENSING 360+は国内向けではアコードが初搭載だ(海外では北米のアキュラMDXに適用)。360をベースにドライバーモニタリングカメラと高精度地図データ、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)アンテナを追加した。360に対し360+に追加された機能は、以下のとおりだ。


ハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能
高速道路や自動車専用道路を走行中、システムがアクセル、ブレーキ、ステアリングを操作し、ドライバーがステアリングから手を離しても、車速や車線内の走行を維持できるよう支援し、ドライバーの運転負荷を軽減する。静電容量でハンズオンを検知するステアリングには、今回新たにハンズオフ可能な際に青く点灯するインジケーターが追加された。
ハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能については、条件が整うとメーターのインジケーターが緑から青に変わることで、ドライバーにハンズオフが可能であることを知らせる。この機能が作動中は、高精度地図情報をもとにシステムがあらかじめカーブの曲率を読み取ると同時にカメラによって前方の検出を行ない、適切な速度に制御してカーブに進入する。
インターチェンジなどでの合流地点では、カメラとレーダーで合流車の有無を検知。合流車が車線内に入ってくるとシステムが判断した場合は自動減速を行ない、スムースな合流を支援。合流後は適切な車間距離を確保する。

レコメンド型車線変更支援機能
ハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能を作動した状態で高速道路や自動車専用道路を走行中に、自車より車速の遅い先行車を検知し、ドライバーが手元のスイッチで追い越しを承認すると、ウインカー操作や加減速、ステアリング操作を行ない、追い越し支援や車線復帰を支援する。加えて、ナビで設定した目的地に向かうための分岐や出口付近での車線変更、走行車線減少時の車線変更もシステムが支援する。

カーブ路外逸脱早期警報
高速道路や自動車専用道路でカーブを走行する際、即座に減速しないと事故のリスクがあると判断した場合に、カーブ路外逸脱事故の発生を抑制するため、警告や減速支援を行なう。高い速度でカーブに進入すると、メーターに「前方カーブ注意」の喚起を表示。カーブに近づき、減速が求められるタイミングになると、警告音とヘッドアップディスプレイでの点滅表示により、ドライバーに減速を促す警告を行なう。さらに、ドライバーがそのままの速度でカーブに近づき、即座に減速が求められる場合は、警告の通知に加え、強めの緩減速ブレーキにより、ドライバーへの減速操作を促す。
ハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能とレコメンド型車線変更支援機能、カーブ路外逸脱早期警報は、高速道路/自動車専用道路本線上でのドライバーの運転負荷を軽減する機能を拡大するものだ。

降車時車両接近警報
駐停車中、後側方に接近する車両を検知すると、サイドミラー上のインジケーターを点灯させ、認知を支援する。乗員が降車のために開けようとしたドアが、自車後側方を通過する車両と衝突の恐れがあるときは、インジケーターを点滅する(ドアパネルのアンビエントライトが点滅する)と同時に警報音で注意を促す。

ドライバー異常時対応システム
システムの要求操作に対してドライバーからの反応がない場合、警告音を強め、ドライバーに操作要求に応じるよう促す。それでもドライバーが操作を行なわなかった場合は、ドライバーや同乗者、他の道路ユーザーを車両衝突による危険から遠ざけるために、ハザードランプとホーンで周辺車両への注意喚起を行ないながら同一車線で減速・停車を支援する。さらに、緊急サポートセンターへ接続し、ドライバーや同乗者、他の道路ユーザーの安全を確保する。

降車時車両接近警報とドライバー異常時対応システムは、予防安全機能の拡大。前者は(当然のことながら)一般道でのみ機能。後者は高速道路/自動車専用道路に加え一般道でも機能する。
ホンダは2021年3月4日に、Honda SENSING Elite(ホンダ・センシング・エリート)を搭載したレジェンドを発売した。全国メーカー希望小売価格は1100万円だった。このEliteの機能をより手に届きやすい価格にすべく成立させたのが、Honda SENSING 360+である。Eliteでは外界認識用センサーにLiDAR(三次元スキャナー)を採用していたが、360+では高価なLiDARを搭載せずに360度検知を実現しているのが特徴だ。
Honda SENSING 360+の360に対する進化のポイントはまだある。1点目はGoogleとの連携だ。Googleについては360の段階からアコードに搭載されていたが、360+では高精度地図データと融合し、さらに各種センサーで得た情報を組み合わせることで、経路誘導の分岐点を予測。これにより、レコメンド型車線変更支援機能で、目的地に向かうための分岐・出口付近で車線変更を提案することが可能になった。

システムから車線変更の提案があった場合は、承認スイッチを押すことで、システムがウインカー操作を行ない、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作を支援する(この間、ドライバーによるステアリング把持は必要)。
進化ポイントの2点目は、人に寄り添った制御を入れたこと。例えば、高速道路で大型トラックと並走するようなシーンでは、走行ラインを少しオフセットさせる。高精度地図を搭載した結果、レーンキープの精度が向上したため実現できたという。また、カーブではイン側のラインを走るセッティングにしているという。

進化ポイント3点目はドライバーモニタリングカメラだ。このカメラ(赤外線カメラ)はドライバーの顔の向きや閉眼状況をモニターする。進化のポイントはレジェンドに適用していたHonda SENSING Eliteとの比較。Eliteの場合はハンズオフが作動している間だけドライバーモニタリングカメラを機能させていたが、360+では常時機能。高速道路だけでなく一般道も含め、ドライバーのわき見や閉眼が検知可能になっている。また、カメラは画素数とフレームレート、学習データを向上。これによりシステムの信頼性を高めている。

アコードへのHonda SENSING 360+の適用に合わせ、アクティブノイズコントロールを進化させた。従来のマイクによるノイズ検出に加え、三軸振動センサー(4ヵ所)によるタイヤ振動の検出により、打ち消すべき周波数を広範囲かつ高精度に検出可能。その結果、より広範囲の周波数を低減することが可能で、とくに耳に圧迫感のあるロードノイズを低減することができるようになったという。

また、着座センサーやシートベルトの装着センサーを使い、乗員が前席のみに座っているのか、後席にも乗っているのかを検出。その検出情報に基づき、ノイズ低減が最大になるよう制御する。
手をステアリングから離すと、肉体的な負担が軽減されるのを実感
では、試乗してみた印象をお伝えしていこう。いわゆるADAS(先進運転支援システム)系のスイッチはステアリングホイールの右側に集中して配置されている。スイッチのレイアウトは、360から360+への進化にともなって変わった。従来はACCとLKASのスイッチが別々に配置されていたが、360+が適用された最新のアコードでは、ACCとLKASを統合。スイッチエリア左上のボタンを押すことで、ACCとLKASがともにオンになる。いっぽう、スイッチエリア右下にあったLKASスイッチは車線変更支援機能の承認ボタンに置き換わっている。


ドライバーモニタリングカメラは、12.3インチタッチパネルディスプレイの下に配置。既存のインテリアになじむように配置されているため、カメラで監視されている感がないのがいい。
高速道路に乗り、高精度地図データによる自車位置の推定ができるようになると、メーター内にある自車を示すアイコンのまわりに輪っかが追加される。この状態でACCをオンにすると、アイコンをはじめとするグラフィックが緑色になる。この場合はハンズオン、つまりステアリングを握っている必要がある。表示が青に変わると、ハンズオフが可能。ステアリングから手を離すことができるようになる。よそ見はできず、前方に目を向けている必要はある。



「前方を注視していなければならず、手を離すだけの機能に意味がある?」と思うかもしれないが、大ありだ。ステアリングを握るために持ち上げていた腕を降ろすだけで、肉体的な負担がだいぶ軽減されることを、ハンズオフを体験してみると実感する。それに不思議と、先を急ぐ気にならない。猛烈に遅いクルマに追い付いた場合は別だが、そうでない限り、走行車線をゆったり走っていたい気分になる。
肉体的にも心理的にも負担が軽減されるので、長距離移動では休憩のインターバルが長くなりそうだ。平均車速は落ちるかもしれないが、長距離移動になればなるほど、トータルの移動時間はハンズオフなしの場合に近づくことになりそう。肉体的負担はハンズオフ利用時のほうが圧倒的に軽く、目的地に到着後の活力に差が出る。
「トンネルの中でもハンズオフは切れません。このあたりは他社に対して優位性があると考えています」と担当技術者。他社システムはGPSが捉えられなくなると自車位置の推定精度が落ちるため、ハンズオフをやめ、ドライバーにステアリングの把持を要求する。Honda SENSING 360+の場合はトンネルの中でGPSが捉えられなくなった場合でも車輪速や加速度センサー、カメラによる認識で高精度地図とマッチングさせることで、自車位置を高精度に推定。「5〜6kmのトンネルでもハンズオフ制御を継続することができる」という。実際に、試乗時はトンネルの中でもハンズオフが可能なことを確認した。
ちなみに高精度地図データは日本全国すべてのデータを車載しているわけではなく、通信によって自車位置の10キロ四方のデータをダウンロードしながら走行しているという。そのためにはサーバー設備が必要で、ホンダは大きな投資を行なったということだ。アコードだけのために大きな投資をしたわけではなく、他機種へ展開を含めての投資と考えるのが自然だ。

スイッチで車線変更を承認すると、ウインカー/加減速/ステアリングの操作を自動で実施
システムが車線変更可能だと判断するとアイコンの色が変わり、ドライバーに「車線変更可」であることを知らせる。承認ボタンを押すと「車線変更を受け付けました」のメッセージが表示され、待機しているとシステムが自動でウインカーを出し、ステアリング操作を行なって車線変更してくれる(その間、ステアリングを把持している必要がある)。もちろん自分で操作してもいいが、システムが後側方を確認して操作してくれるので間違いがなく、安心だ。
「レコメンド型〜」は遅い先行車に追い付いてしまった場合にシステムのほうから「追い越しできますよ」と提案してくる格好だが、アイコンが追い越し可能であることを示している状況であれば、承認ボタンを押すことで、任意のタイミングで車線変更支援を作動させることができる。先行車に追い付き減速してからレコメンドされるので、その前に承認ボタンを押せばクルマを減速させず、スムースに追い越しを済ませることができる。システムの作法に慣れることで、自分なりのスマートな使い方が編み出せそうだ。
ルート案内中に高速道路の中央車線より右側のレーンを走行して出口に近づいた場合、「この先分岐します」の表示とともに、システムが車線変更を提案してくる。指示に従って承認スイッチを押すと、車線変更支援と同様にウインカー操作、アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を支援してくれる。
注意が必要なのは、システムが支援してくれるのは本線のみなこと。本線から退出した後は、自分で操作しなければならない。今回はハンズオフによる支援を短時間経験したのみだったが、長時間クルマ任せにした後にブレーキを操作するシーンでは慎重な操作が求められると感じた。オーバースピードで退出路のカーブに進入した場合には、カーブ路外逸脱早期警報が作動するので、完全放置というわけではない。
Honda SENSING 360から360+への進化では、ハンズオフ機能の付加が最大の変化点。ステアリングから安心して手を離せるだけで、どれだけ運転負荷が軽減されることか。長距離・長時間ドライブの機会が多いドライバーほど、恩恵にあずかれる機能だ。
ホンダ・アコード e:HEV Honda SENSING 360+
全長×全幅×全高:4975mm×1860mm×1450mm
ホイールベース:2830mm
車重:1580kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/R マルチリンク式
駆動方式:FWD
エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:LFD
排気量:1993cc
ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm
圧縮比:13.9
最高出力:147ps(108kW)/6100rpm
最大トルク:182Nm/4500rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:48L
モーター
H6型交流同期モーター
最高出力:184ps(135kW)/5000-8000rpm
最大トルク:335Nm/0-2000rpm
WLTCモード燃費:23.8km/L
市街地モード 19.8km/L
郊外モード 26.6km/L
高速道路モード 24.2km/L
車両価格:599万9400円