目次
【走行条件】 ▷ 乗員5名+撮影録音機材でフル積載 ▷ 天候:晴れ/エアコン設定温度23℃ ▷ タイヤ空気圧:規定圧の前後260kPa
現地付近は世界遺産レベルの観光地ということもあり、充電スポットの数には困らないようだが、470kmの航続距離をだいたい7割で捉えて329km。往路で電費の悪い走り方を余儀なくされたとか、向こうで急速充電器が見つけられなかったとか、不測の事態も考え合わせておく必要がある。
出かける前に充電をしておこうと思い、急速充電器を備える日産のディーラーに向かった。ご存じの方もあるかと思うが、急速充電器は出力の違いがあり、ここの機械は44kW仕様。すぐ近くに50kW出力型を備えるディーラーもあったのだが、アリアなので日産にしてみた。
持ち込んだときのバッテリー残量は36%、ざっと計算すると23.76kWhというところか。44kW出力型の急速充電器で30分(と1回の充電時間が決まっている)つなぐと22kWh。30分後は45.76kWhの残量となって、うわ69%にしかならないってことか。
急速充電はリチウムイオンバッテリーを傷めるときいた。しかしバッテリー総電力量が66kWhと巨大なため、1回の充電ではこれだけしかためられない。幸い、次に充電を待つクルマもいなかったので、続けて急速充電することにした。電気自動車の充電でよく言われる「80%までは急速充電で入る」というところまでは持っていこうと思ったのだ。
ところが、80%を超えてもなお、アリアは受け入れ電流値を下げようとしない。あれ、セル保護のために80%以上になると急速充電器からの出力を絞らせるのが常道では。ってことは85%がしきい値か——絞らないな。90%か?——絞らないな。あれ、フル出力のままフル充電になっちゃった。これは、バッテリーパックを水冷式にしているおかげ。アリアはこれにより、セル温度を積極的にマネジメントし、充電受け入れ出力最大130kWを実現している。すばらしい。
▶︎ 99%:415kmに回復
❷ 佐野SA下りで充電
ということで、準備万端で出発。電費を最小限に抑えたいので、日産自慢のProPILOTを使ってみる。80km/hで車間3ブロックでセット——始動。混んでいるわけではなくさりとてガラガラでもないような状況の高速道路で、ProPILOTはとにかく便利——なのだが、少々やかましいのが玉に瑕。第1車線をのんびり走っているところで、右側レーンに何か速いのが走ってきたなとサイドミラーを見るために顔を傾けると「前を向いてください」と叱られる。見てるって。特に右に左に旋回することもないのでハンドルを軽く保持していると「操作してください」と叱られる。持ってるって。ツッコミながら恩恵にあずかる。
出発から120kmを走って、バッテリー残量は67%。まだまだ余裕の残量ではあるけど、念のため注ぎ足し充電しておくかと思い、佐野SA下りに入る。ここの急速充電器は40kW出力型。1台のみの設置だったが、幸運にも先客はなし。なんとなく、80%超までもっていければいいかと思い、15分ほどの充電時間で切り上げた。
▶︎ 82%:361kmに回復
❸ 日光グルマンズ和牛冷凍庫熟成庫駐車場で充電
佐野SA下りから日光東照宮までおよそ75km。現地まではまたもやProPILOTに頼りながら走り、到着するとバッテリー残量は58%だった。案外減ったな。やはり回生がまったくといっていいほど見込めない高速道路の巡行は電費に厳しい印象である。東照宮巡りを終えて現地付近で少し走ると、残量は54%に。航続距離は210kmとは示されているものの、これから華厳の滝に向かうとなると、いろは坂を登るだけに条件は相当厳しくなることが容易に想像できる。ここはなんとしても70%程度にはもっていっておきたい——のだが、付近には200Vの普通充電はあるものの高電圧の急速充電器が見当たらない。まずい。調べると「日光グルマンズ和牛冷凍庫熟成庫駐車場(長い)」に24時間受付の急速充電器がある。ありがたや。出力は25kW型ながら干天の慈雨、ありがたく充電する。
▶︎ 72%:282kmに回復
いろは坂とBEVの相性は異常(最高)
さて、華厳の滝である。日光東照宮からは19kmの道のりながら、ご存じ「いろは坂」の急勾配を登ることから、電費には相当の影響があると思われる。しかし日光グルマンズ和牛冷凍庫熟成庫駐車場EV充電スタンド(長い)のおかげで準備万端である。
ここであらためて、なぜアリアで華厳の滝なのか。それは、BEVの「変速機がない」という特長(not特徴)を存分に生かしたかったから。いろは坂でその威力は存分に発揮された。修学旅行のバスで現地へいらした方もいらっしゃるかもしれない。彼の地で急勾配を登ると、通常のエンジン車であればシフトチェンジが非常にビジーなのだ。登坂中のシフトチェンジはその間どうしてもトルク切れや変速ショックを伴い、乗員は都度ピッチやサージを体感することとなる。車酔いはそれによって引き起こされることが多いという。
そこからするとBEVは変速機がなく、低速域でのトルク特性にも優れる。ひたすら粘ってショックレスで坂を登り続けるBEVの振る舞いはヒルクライマーとしては最高のパフォーマンス。これまで何度も現地では運転をしてきたが、アリアで走ってみてあらためてBEVの特質に舌を巻いた次第だ。快適すぎる。
❹ 県営華厳の滝第1駐車場で充電
登り終えて華厳の滝に到着するとバッテリー残量は59%。やはり相当の負荷がかかっていた。充電スポットを探すと中禅寺観光センターというところに充電器があるらしいので向かってみる——最中に、「EV QUICK」の標識が目に止まる。「県営華厳の滝第1駐車場」。あれ、ここはアリアのマップには載っていないぞ。試しに入ってみると確かに急速充電器。駐車場の係員の方に聞いてみたら4月末に設置されたばかりのスポットだそう。出力は25kWながら、ここは登坂を終えた高地であり、あとは坂を下るのみということで、ありがたく30分の充電をする。
▶︎ 76%:261kmに回復
❺ 羽生SA下りで充電
ここからは復路。先述のとおり、しばらく降坂であることから、バッテリー残量には神経をとがらせなくても大丈夫。出発時現在の76%から数字は上向くはずで、だったら思い切って東北自動車道・羽生SA下りまで目指してみることにした。距離は104km。オンボード表示の数字からすれば余裕である。
果たして、坂を下りきったころには79%:274kmまで回復。そこからまたもやProPILOTでのんびり走って羽生SAに停めたときにはバッテリー残量65%という具合だった。羽生SA上りの急速充電器は40kW型、東京に戻るための充電としては十分すぎる残量とスペックである。
▶︎ 94%:426kmまで回復
BEVで遠出することに不安はあるか。いろいろ条件は求められることは当然ではあるものの、少なくとも今回の道程では「出かける前は心配だけど、行ってみたら全然問題なかった」というのが正直な感想である。観光地に向かっただけに急速充電器の敷設状況に恵まれていたということには注意する必要はあるものの、繰り返しになるが、いろは坂のような急勾配登坂においてBEVの特性をあらためて体感できたのは幸甚だった。