エキゾーストマニフォールドのデザイン。いかに排気干渉を抑えるか[内燃機関超基礎講座]

(PHOTO:BMW)
エキゾーストシステムは重要な機能部品であり、求められる性能は非常に多岐に渡る。エキゾースト・デザインは、要求項目のプライオリティ明確化から始まるのだ。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

エキゾーストシステムの役割が、各シリンダーから吐出される排出ガスを大気中へ放出することだけなら、「デザイン」の必要はないに等しい。エンジンコンパートメント内の適当な隙間を縫って、適当なところに開放端を持つパイプを付けておけば済む。
しかし実際のエキゾーストシステムは、エンジンの出力性能はもとより、音・振動や対エミッション性能など、多岐に渡る要求をクリアしなければならない。さらに性能要件だけではなく、クルマとしての商品性を高めるため、生産性やコストなどの要求にも対応する必要がある。それらの要求の優先度を判断し、時にはエンジン性能面よりもパッケージ効率を追求する…といった判断を下すことから「デザイン」が始まる。

3代目オデッセイ以降のホンダ車は、シリンダーヘッドと一体の「作りつけ」式エキマニを採用。目的は触媒の早期活性化と作動効率の向上だ。管長はミニマムかつ等長化も困難で、動力性能の面では何ひとついいことはなく、製造工程も複雑になるが、高価なステンレス材などを使わずに済む分、コスト面でのメリットが生じる場合もあるという。上図はL13Aのシリンダーヘッド。(FIGURE:HONDA)

たとえば、最近のホンダ車が備えるシリンダーヘッド一体型の「作りつけ」エキゾースト・マニフォールドが好例だろう。出力性能の面で言うなら、エキマニ集合部までの管長は長いほど有利になる。管長が長ければ、通過中に排出ガスが冷えることで減圧し、消音効果を高める効能もある。しかし対エミッション性能、特にコールドスタート要件を考慮するなら、触媒はなるべく排気ポート直下に置きたい。ホンダは後者の要求を重視し、もはやエキマニと呼ぶべきか迷ってしまうような構造を採用した。ある意味、出力性能面は他でなんとでもできる、という自信の現れにさえ見える。

あるシリンダーが排気行程に入る際、他のシリンダーから吐出された排気脈動波の「濃い」部分がエキマニ近傍にいると、管内圧力が高まって排気がスムーズに吐出されにくくなり、排気効率が低下する。この、いわゆる「排気干渉」を避けるため、エキマニは複数本をまとめて「集合」化される。

直4の場合、1・4番シリンダーと2・3番シリンダーがそれぞれクランク角180度の位相を持つ。1番が下死点から排気行程に入るタイミングで、対となる番は燃焼・膨張工程に入っている。つまり排気バルブは完全に閉じられているので、相互間で排気干渉は起きにくい。この関係を利用し、触媒までの間で1番と4番、2番と3番をまとめ、触媒以降を1本にまとめる4-2-1タイプの構造が主流。4-1集合タイプは、圧力分布と排気エネルギーの慣性を積極的に利用し、排気を「引き出す」ことで排気効率を向上させることが目的。集合部までの各エキマニ管長を等長化することが前提となる。

直列4気筒エンジンの排気干渉(ILLUST:熊谷敏直)
マツダSKYACTIV-Gの4-2-1排気マニフォールド(FIGURE:MAZDA)
直6の場合は、1番と6番、2番と5番、3番と4番がそれぞれ位相180度となる。クランク2回転の中での各行程のタイミングは上の図を参照。これらのエキマニを1本に集合させてしまうと、タイミング上、排気干渉が避けられない。上図は、排気タイミングと排気の流れ、管内圧力の分布を示している。排気開始の時点で、他の2気筒分の排圧が影響してしまうため、排気干渉の度合いは大きく、出力性能の面で非常に不利となってしまう。(ILLUST:熊谷敏直)
排気干渉を避けるため、1-2-3番と4-5-6番の2系統にエキマニをまとめる。系統ごとに位相120度の等間隔、つまり直列3気筒エンジンと同様の構成となり、1-3-2番間はそれぞれ240度ごとの排気となって、排気干渉が低減できる。2系統のエキマニを、触媒部で1本にまとめるか、それとも2系統のままマフラーまで引き回すかは車種によって異なる。ターボ過給エンジンの場合は、排気系統ごとにタービンを配してツインターボ化するケースが多い。(ILLUST:熊谷敏直)

実際のデザイン作業は、排出ガスという流体の振動現象を解析する作業につきる。シリンダーからマフラー開放端まで連続するパイプの内部は、「気柱」を形成している。排気のような高温・高圧のガスは、“塊”の状態を保とうとする性質を持つ。その“塊”が一定のパルスを伴って排気管内を移動していく行程において、排出ガス塊は一種のピストンと見なすことができる。また、排気タイミングによるパルスに応じた脈動波としての性質により、排気管内には圧力変動が生じる。

このようなふるまいを見せる排気を効率良く導くためには、密度、流速、粘度をはじめ、境界層、層流、乱流、レイノルズ数など多くのパラメータによって最適値を検討しなければならない。実際のデザインにはCFDが活用されるが、あまりに多くの要素が複雑に絡み合うため、現状のソフトウエアとコンピュータの能力では、完全な再現は困難だという。設計者は、異口同音に「最後の作り込みの部分では、実際に製作して確かめるしかない」と語る。所定の性能を実現するまでに、何十本と試作することもあれば、数本で済むこともある。とくに音質に関わる部分は、設計者の「経験とカン」が反映されがちだ。

このような排出ガスの性質とふるまいをうまく利用することで、エンジンの性能向上が図れる。たとえば、排出ガス塊は周囲にあるより低温・低圧のガスと均等化しようとする。バルブオーバーラップ時には、出口方向へ運動しながら低温・低圧である吸入気と均質化しようとするため、吸入気をシリンダー内へ引き込み、充填効率を高める効果が得られる。ちなみに、この働きをより積極的に利用した機構が、かつてマツダが市販化した「プレッシャーウエーブ・スーパーチャジャー」である。

気柱の「入口」であるエキゾースト・マニフォールドが「集合」している理由は、シリンダー間の排気干渉を避け、効率を向上させることだ。また、集合に至るまでのデザインいかんで、排気効率(排気圧力)の加減も実現できる。4気筒エンジン車の多くが4-2-1集合を採用するのは、ある程度の効率低下には目をつぶり、バルブオーバーラップ時の吹き抜けを抑え、実用域のトルクを確保することが目的だ。

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