NEDO: グリーンイノベーション基金事業「電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」に着手

NEDOはグリーンイノベーション基金事業の一環で、「電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」プロジェクト(予算総額420億円)に着手する。レベル4自動運転を実現するための性能を担保しながら、徹底した省エネ化を進めるための研究開発を実施。また、サプライチェーン全体で電動車などの開発の加速化・高度化を実現するための、シミュレーション基盤構築などの研究開発を実施し電動・自動走行車の普及を通じ、世界および日本の脱炭素化に貢献することを目指す。

1.グリーンイノベーション基金事業について

日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げた。この目標は従来の政府方針を大幅に前倒しするものであり、実現するにはエネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションなど現行の取り組みを大きく加速させる必要がある。このため、経済産業省はNEDOに総額2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業などを研究開発・実証から社会実装まで10年間継続して支援するグリーンイノベーション基金事業を立ち上げた。

なお、NEDOは本基金事業の取り組みや関連技術の動向などをわかりやすく伝えていくことを目指し、「グリーンイノベーション基金事業 特設サイト※1」を公開している。

2.本プロジェクトの背景

本基金事業はグリーン成長戦略※2で実行計画を策定した重点分野を支援対象としており、その一つに「自動車産業」がある。自動車産業は日本の基幹産業として現在約62兆円の市場規模を有している。引き続き、2030年時点で約140兆円と言われる世界の電動車市場や、2030年時点で約45兆円、2040年時点で約150兆円と言われる世界の自動運転・コネクテッドカー市場において、日本の自動車産業の競争力を維持することが重要である。

グリーン化の観点では、自動車産業には2030年に国内で168.7万t-CO2、2050年に国内で1320万t-CO2の二酸化炭素(CO2)削減ポテンシャルがあり、CO2削減への貢献が見込まれている。このCO2削減ポテンシャルは、パワートレインの電動化への対応や、コネクテッド・自動運転機能による平常走行時の高度エコドライブ、サグ部(下り坂から上り坂への変化点)・トンネル・事故に起因する渋滞の解消など、交通流の最適化を通じて得られるものとなっている。

しかしその際、自動運転に必要な情報処理をネットワーク・クラウド側に依存すると、今後自動車分野以外でもデータ量の増大が見込まれるネットワーク・クラウドに追加の電力負荷を与えることになり、トータルでのCO2削減効果が十分に得られない可能性がある。そのため、データセンターのグリーン化※3の取り組みとともに、自動運転を含む高度な情報処理を可能な限りエッジ(末端)側で実施できるアーキテクチャー(設計概念)とそれを支える要素技術が重要となる。

2030年代以降には、自動運転機能などの本格的な社会実装が見込まれている。これに向けて、グリーン化の観点からも製品競争力強化の観点からも、電動車の利活用に問題ない航続時間を確保するための徹底した車載コンピューティングの省エネ化技術が重要となる。

なお、グリーン成長戦略においても「2050年カーボンニュートラルの実現に当たっては、2050年のモビリティ社会の在り方の変革も見据え、単に電動化のみを射程とするのではなく、“電動・自動走行車”をターゲットとして取り組んでいく」とされているところ、本プロジェクトを通じて、自動車内での電動化と自動化の両立が目指される。

このような背景の下、NEDOは経済産業省が策定した研究開発・社会実装計画※4に基づき、このたび「電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」プロジェクトの公募※5を行い、3テーマを採択した。

3.事業内容

本プロジェクトでは、分散型アーキテクチャー(エッジ処理志向)を前提にして、車載コンピューティング(自動運転ソフトウエア・センサーシステム)について、レベル4自動運転※6を実現するための性能を担保しながら、徹底した省エネ化を進めるための研究開発が実施される。また、サプライチェーン全体で電動車などの開発の加速化・高度化を実現するための、シミュレーション基盤構築のための研究開発を実施する。これにより電動・自動走行車の普及を通じ、世界および日本の脱炭素化に貢献することを目指す。

事業名: グリーンイノベーション基金事業/電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発
実施期間: 2022年度~2030年度(研究開発項目1、2)、2022年度~2028年度(研究開発項目3)(予定)
予算: 420億円(NEDO支援規模)

■実施テーマ:

【研究開発項目1】自動運転のオープン型基盤ソフトウェア

主要な走行環境におけるレベル4自動運転機能を担保しつつ、現行技術比で70%以上の消費電力削減に寄与する、高性能・低消費電力なオープン型自動運転基盤ソフトウエアの研究開発を行う。

【研究開発項目2】自動運転センサーシステム

主要な走行環境におけるレベル4自動運転機能を知覚・認識面から担保しつつ、現行技術比で70%以上の消費電力削減に寄与する、高性能・低消費電力な自動運転センサーシステムの研究開発を行う。

【研究開発項目3】電動車両シミュレーション基盤

電動・自動走行車の早期社会実装のため、国内自動車メーカー・部品メーカーが共通的に利用可能な形式で、SOTIF(安全基準、予期しないシナリオが発生したときの安全性を確保すること)に対応し、レベル4自動運転を実現するために必要なデジタルツイン(現実世界をコンピューター上の仮想空間に再現する)での電動車両全体のシミュレーション・モデルを、動力学シミュレーション精度90%以上として、実機を用いた性能検証期間の半減を実現できるレベルで構築するための手法を確立する。

【注釈】

※1 グリーンイノベーション基金事業 特設サイト
※2 グリーン成長戦略 日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための産業政策として、2021年6月18日、経済産業省が関係省庁と連携して、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。
※3 データセンターのグリーン化
※4 研究開発・社会実装計画 グリーンイノベーション基金の適切かつ効率的な執行に向けて、経済産業省においてグリーンイノベーション基金で実施する「電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」プロジェクトの内容を「研究開発・社会実装計画」として策定した。
※5 「電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」プロジェクトの公募
※6 レベル4自動運転 レベル4では特定の限られた状況下でのみ車両が全ての運転機能を処理する。なお、自動運転レベル0~5はSAE自動運転レベルで定義されており、これを基にJASO TP-18004で同様に定義されている。

キーワードで検索する

著者プロフィール

Motor Fan illustrated編集部 近影

Motor Fan illustrated編集部