アルミニウム比270分の1、パナソニックが超軽量電磁波遮蔽材料の共同研究を開始

パナソニック インダストリー、名古屋大学、山形大学、秋田大学は、パナソニック インダストリーを代表機関とし、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)と共同で宇宙探査における「課題解決型」研究テーマである「超軽量電磁波遮蔽材料」技術の共同研究を開始した。

宇宙分野において人工衛星などの質量低減を図るべく、機体の数十パーセントの質量を占める機内通信・給電用ケーブルの無線化の研究が進められている。この実現に対しては電磁両立性(EMC)[2]確保のため、高度な電磁波遮蔽技術が求められている。また、地上空間におけるドローン・eVTOLといった環境負荷が低い電動航空機の普及に向けても同様に、軽量化と電磁波対策の両立が求められている。さらに、5G・6Gといった無線通信の高速化・高周波化に伴い、ミリ波帯からテラヘルツ波帯への対応と軽量化を両立する電磁波遮蔽材料の必要性が高まると予測されている。

パナソニック インダストリー、名古屋大学、山形大学、秋田大学は、2020年に開始したJAXA宇宙探査イノベーションハブ「アイデア型」※2研究テーマで培ったカーボンナノチューブの研究内容をさらに発展させるべく、2022年6月より「超軽量電磁波遮蔽材料」技術の共同研究が開始された。

「超軽量電磁波遮蔽材料」技術は、今後、航空宇宙分野や次世代高速通信分野などに使用される様々な機器への採用が期待されている。パナソニック インダストリーが長年培ってきた熱硬化性樹脂の配合設計技術と、地上の様々なユースケースを想定した環境試験技術・ノウハウを組合せることで、2024年の実用化が目指されている。

※1 アルミニウムの密度2.7グラム/cm3のところ、超軽量電磁波遮蔽材料のかさ密度[3]は0.01グラム/cm3レベル
※2 2020年1月~21年3月、JAXA、名古屋大学、山形大学、日本ゼオン、パナソニックがJAXA宇宙探査イノベーションハブ「アイデア型」共同研究を実施。同研究による目標を達成したため「課題解決型」へステップアップし、2022年6月より共同研究を開始。

超軽量電磁波遮蔽材料の詳細説明

1. 軽さ(かさ密度0.01 g/cm3レベル)と、アルミニウムと同等の電磁波遮蔽性能の両立により、人工衛星・探査機などの宇宙機や、ドローン・eVTOLなどの電動航空機の軽量化、航続距離伸長に貢献

名古屋大学の研究によるカーボンナノチューブを用いた超軽量材料と、パナソニック インダストリーが保有する熱硬化性樹脂の配合設計の組合せにより、一般的な電磁波遮蔽材料の中でも軽量なアルミニウムの270分の1の軽さ(かさ密度0.01g/cm3レベル)を実現しながら同等の電磁波遮蔽性能を有している。宇宙機や電動航空機の機器軽量化を促し、エネルギー効率を向上させることで、航続距離の伸長に貢献する。

遮蔽材料かさ密度
アルミニウム2.7g/cm³
新材料0.01g/cm³レベル
※発砲スチロールと同レベル
表1 アルミ二ウムと新材料のかさ密度比較
グラフ1 新材料の電磁波遮蔽効果

5GHzから110GHzと広範な周波数帯域において、電磁波遮蔽性能が30 dBを越える高い遮蔽性を有している。また、高周波帯域でより高い遮蔽性能を発揮する。
*30 dB=入射した電磁波が電力比で1/1,000に遮蔽されるレベル(実測値)

2. 周波数に合わせて遮蔽性能を調整でき、EMC設計も容易で、通信品質の向上に貢献

新材料は、材料の組成を変更することで、機器の仕様に合わせて、遮蔽する電磁波の周波数帯域の設定が可能。多様化する電磁環境において効率の良い電磁波遮蔽を実現し、ノイズによる機器の誤動作を抑制するとともに、機器のEMC設計も容易にする。

さらに新材料は、既存材料であるアルミニウムと異なり、特に電磁波吸収性能を有しており、CPUなどのデバイス自ら発するノイズの多重反射を防ぎ、ノイズ重畳によるデバイスの特性劣化を防止する。これらの性能を併せ持ちながら、広い周波数帯域にも対応しており、次世代無線通信技術の普及を促進させる。

表2 アルミニウムと新材料の対応周波数帯域差

3. 加工性に優れ、立体構造が作成可能で、デザイン性向上に貢献

パナソニック インダストリーが保有する熱硬化樹脂の配合設計技術とフリーズドライ製法[4]により様々な立体構造を作成することができ、採用機器の形状に応じた加工が可能。

【用途】

宇宙機(人工衛星・探査機 等)、電動航空機(ドローン・eVTOL等)、5G・6G用途関連機器(モバイル基地局 等)、産業機器(ロボット・AGV 等)、車載機器(ミリ波レーダ・各種センサ等)、VR・AR機器 等

【JAXA宇宙探査イノベーションハブにおける共同研究内容】

JAXA宇宙探査イノベーションハブは、将来の宇宙探査への応用と、地上における事業化による産業振興や新産業の創出の両立を目的に、2015年に設置された組織である。企業・大学・研究機関等の研究開発者から提供された宇宙探査に関する技術情報を基に、JAXAからの課題を設定し研究を募る「研究提案募集」により、オープンイノベーションの研究開発が進められている。

・研究テーマ:超軽量電磁波遮蔽・吸収材料の開発
・期間:2022年6月~2024年6月(24ヵ月)
・内容:超軽量電磁波遮蔽・吸収材料の実用化に向けた検討を実施

研究項目と共同研究メンバーの役割(◎主たる研究実施機関、○従たる研究実施機関)

【用語説明】

[1]eVTOL(イーブイトール)
Electric Vertical Take-Off and Landingの略。垂直に離着陸し、ヘリコプターやドローン、小型飛行機の特徴を併せ持つ電動の機体で、「空飛ぶクルマ」の一つ。

[2]電磁両立性(EMC)
EMCはelectromagnetic compatibilityの略。電気・電子機器が発する電磁波(電磁ノイズ)が周辺の機器に影響を与えず、自らも周辺からの電磁波(ノイズ)の影響を受けずに動作する耐性のこと。

[3]かさ密度
試料の構成要素間の空隙も含めた体積で、試料の重量を割った値。

[4]フリーズドライ製法
水分を含んだ試料を真空凍結乾燥機に入れ、マイナス30℃程度で急速に凍結後、さらに減圧し真空状態で水分を昇華させ乾燥させる製法。凍結乾燥。

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