デンソーが、EV向けバッテリーの業界横断エコシステムをNTTデータと共に構築開始

デンソーはNTTデータと共に、秘匿データを保護しつつ必要なデータのみ相互流通できるセキュアなデータ連携プラットフォームの実現に向け、電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステムの構築に2022年9月より着手したことを発表した。

現在、欧州において検討されている電池規制案では、バッテリーのライフサイクル全体におけるCO₂排出量や資源リサイクル率を、欧州委員会に開示することが求められている。将来的には日本企業が電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)などの電動車をヨーロッパ市場で販売する場合には、欧州における電池規制をクリアすることが求められる。それに対応するためには、各企業が個別に対応するのではなく、バリューチェーンを構成するさまざまな取引先とデータをセキュアに共有するための共通プラットフォームの整備が必要となってくる。

そこで、NTTデータ、デンソーの両社は、共同事業検討のための基本合意書を締結し、電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステムの実現に向けて、経済産業省の補助事業に共同で提案応募し、2022年9月に正式に事業者として採択されたことを発表した。このエコシステムで活用されるプラットフォームは、電動車向けバッテリーにとどまらず、将来的にさまざまな産業における企業間でセキュアにデータを活用できる次世代の情報インフラを目指すものである。両社は、2023年度中のサービス商用化を目指して、自動車業界・製造業向け共通プラットフォームの検討に着手する。

データ連携プラットフォームの全体像

1. 背景

カーボンニュートラルの達成や資源循環型社会、人権デュー・デリジェンスの実現などの社会課題の解決には、サプライチェーン全体で各組織が保有するデータを正確に流通できる仕組みが必要となる。国や地域の商習慣や法規制の差異による阻害を受けないよう、さまざまな企業や団体と連携し、相互にデータを流通できるプラットフォームの検討が各国で進められている。例えば、欧州でのデータ流通構想をまとめた「Gaia-X」※1や、ドイツの自動車メーカーやIT企業中心に「Catena-X」※2といった仕組みの構築が進んでいる。

今後、ドイツの自動車関連企業と取引する日本企業も、「Catena-X」を利用したデータ流通を求められることが想定されている。しかし、日本企業が欧州電池規制に従って「Catena-X」でデータを流通する場合、カーボンフットプリント(以下 CFP)情報にとどまらず、自動車の構成部品の原材料や受発注に関する情報など企業秘密にかかわるデータが海外のデータセンターに保管されることになるため、情報管理の観点で日本企業にとって懸念となる部分が残る。そのため、欧州のデータスペース※3と相互接続でき、日本のポリシーで安全にデータを管理できる日本独自の仕組みの実現が課題となっている。

このような課題に対し、両社は電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステムの構築に向け、電動車向けバッテリーに関するライフサイクルでのデータ管理を実現する自動車業界・製造業向けデータスペース(以下 本データスペース)の検討に着手する。

2. 取り組み内容

両社では、電動車普及の前提となるバッテリーの業界横断エコシステム構築に必要とされるサプライチェーン上のCFP 情報集計や、希少資源の環境・人権への配慮状況(人権・環境デュー・デリジェンス(以下 DD))の見える化を本データスペース上で実現する仕組みが検討される。この取り組みの一環として、両社は令和4年度の経済産業省補助事業に共同で応募し、2022 年9月に事業者として採択され、今後両社は、関連団体と連携し、バッテリーの業界横断エコシステムにおけるCFP 算出やDD の実施に関する情報などの共有・蓄積・連携を行う仕組みの検討を進めるとしている。

NTTデータは、日本電信電話(以下、NTT)やNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)と共に本プラットフォームの構築および企業間の安全なデータ連携を実現するためのプラットフォームに接続する日本のデータスペースの実現に取り組んできた。本検討においてもNTT Comと協力し、社会基盤となる大規模プラットフォーム構築・運用の実績を多数持つNTTデータのノウハウを活用して本データスペースを構築する役割を担う。

また、デンソーは、自社で開発したQR コードや、あらゆる産業で使われているブロックチェーン技術等を活用し、車載用バッテリー等のフィジカルに存在する「モノ」と個体に付随する電池寿命や原材料などの「データ」を結び付け、データプラットフォーム上で安全に個体情報を管理するためのトレーサビリティ技術を開発してきた。本検討においては、デンソーの技術や自動車業界に精通するノウハウを生かし、将来的な幅広い産業でのトレーサビリティ技術の活用も視野に入れながら、業界課題の整理や業務要件の検討を推進する役割を担う。

3. 今後について

両社は、2024年から一部施行予定の欧州電池規制も見据えて、2023年度中のサービス商用化を目指す。また、本検討と並行して、本データスペースを運営する新たな団体の設立についても検討を開始するとしている。さらに、日本国内で制度・システムを整え、これを日本車が普及しているアジア諸国へ展開し、将来的に国外でも幅広く利用されるプラットフォームを目指す。

※1:「Gaia-X」とは、2019年10月にドイツ政府・フランス政府が発表した、セキュリティーとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのデータ流通構想。
※2:「Catena-X」とは、ドイツの自動車メーカーやサプライヤーなどが運営し、部品情報などのデータを関係する企業間で安全に流通するプラットフォーム。
※3:データスペースとは、単一のポリシーで管理されるデータ空間のこと。

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