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内燃機関超基礎講座 | 天然ガス車の実力:ガソリン比で25%のCO2削減

  • 2020/11/21
  • Motor Fan illustrated編集部
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マツダ・SKYACTIV-CNG

CO2削減手段として期待できそうな天然ガス(CNG)エンジン。CNG専用としてエンジンの構造を見直せば、さらに見えてくる新たな世界がある。
STORY:畑村耕一(Dr. Koichi HATAMURA)TEXT:高橋一平(Ippey TAKAHASHI)

「天然ガスは基本的に同じ熱量を出してガソリンよりも25%、CO2が少ない。なんにもせんでも25%下がる。しかもシェールガス革命でどんどん値段が下がっとるし、水素のようにインフラ整備の問題もほとんどない」

畑村博士は今後の自動車は天然ガスの可能性をこれまで以上に真剣に模索するべきだと考えている。その最も大きなメリットとなるのが、この言葉にもあるCO2排出量が25%減となる、天然ガスが持つ燃料としての性質だ。

気体ゆえに密度が低く重量あたりの体積が大きい天然ガスは、ガソリンと比べ充填効率という面で不利ということで、ガソリンエンジンと同等の性能を得るには過給が必須になるが、オクタン価が高いので過給には向いており、過給ダウンサイジングにも好適なのだという。

ただ、天然ガスは液化しにくいという性質も持ち合わせているということを忘れてはならない。これまで多くの自動車メーカーが研究や実証実験を行なっているが、天然ガスは自動車用燃料として広く普及しているとは言い難い。その原因のひとつとして、液化しにくいために自動車に搭載できる量に限りがあり、それが故に航続距離が伸びないということが挙げられる。

もちろん、天然ガスの液化は不可能というわけではなく、実際に産出国からの海上輸送では液化状態のLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)として扱われている(体積は気体時の1/600)。ただし、液化状態を保つためには極低温(-162℃)に維持することが必要で、乗用車のような小規模な移動体では事実上これは不可能だ。そこで、気体のまま圧縮したCNG(Compressed Natural Gas=圧縮天然ガス)が用いられているのだが、これが前述の問題につながっているのだ。

マツダ・SKYACTIV-CNGコンセプト。アクセラ(MAZDA3)ベースのCNG仕様車で実証実験用のコンセプトモデルだ。特徴は2.0ℓのSKYACTIV-Gをベースとしたエンジン。圧縮比はSKYACTIV-Gで輸出向けに設定されている14.0。SKYACTIVならではの高圧縮比を活かしてCNGのメリットを効果的に引き出す。多くのCNG仕様車と同様にガソリンタンクも装備したバイフューエル仕様で、CNGは吸気ポート内に噴射、ガソリンは筒内直噴となっている。
フォルクスワーゲン・ゴルフTGI。7代目ゴルフのCNGモデル。CNG用の高圧タンク2本に加え、50ℓのガソリンタンクも搭載するバイフューエル仕様で、CNGでの航続距離は940km。CNGを使い切ると自動的にガソリンを使用する走行モードに切り替わり、さらに420kmの走行が可能だ。エンジンは1.4 TSIをベースにバルブやバルブシートなどを変更することでCNGの高い燃焼温度に対応。CNG使用時のCO2排出量はわずか92g/kmに抑えられている(ガソリン使用時は119g/km)。

賢明な方ならば気付くと思うが、この圧縮気体を扱うという難しさは、ここにきて脚光を集めているFCV(燃料電池車)も同様に持ち合わせている。燃料電池に用いられる水素も極低温下でしか液体の状態を維持できないため、FCVでは水素を圧縮気体として扱う。そこで、航続距離を延ばすキーテクノロジーのひとつとして開発されたのが、高強度繊維などの複合素材を用いた高圧タンクの技術だ。

現在、CNGを燃料とする自動車(以下NGV)に用いられる一般的な天然ガス用タンクの充填圧力は20MPa程度だが、世界初の量産FCVとしてすでに販売されているトヨタ・ミライに用いられる高圧タンクのそれは70MPa。この技術をNGVに転用すれば、航続距離の問題は解決に向けて大きく進むことは間違いない。しかも、供給網の確保が大きな課題となっている水素とは異なり、天然ガスは古くから都市ガスとして都市部を中心に広範囲に渡って家庭に供給されている。実際にシェールガス革命只中のアメリカでは、NGV用の家庭用充填機が一部の地域ですでに普及し始めている。

アウディのe-gasプロジェクト。天然由来のガスに頼らず、風力発電などの再生可能なエネルギーを利用して水を電気分解、発生した水素にCO2を反応させることでメタンを合成し、燃料とする試み(ちなみに、天然ガスの9割はメタン)。使用したのと同量のCO2を大気中から回収するという画期的なアイディアだ。

と、ここまでは、基本的に現在あるエンジンや、その周辺技術をベースとした話。博士が見据えているのはもう少し先の未来だ。

「天然ガスエンジンでシリーズハイブリッド、エンジンの最大熱効率が50%まで行けば、FCVよりもはるかに良うなる」

最大熱効率50%とは現在の水準からすると、現実離れしたように聞こえるかもしれないが、もちろんこの数字には意味がある。
政府によって進められている「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的燃焼技術研究開発計画」において目標とされているのが、ガソリンエンジンでの正味熱効率50%の実現なのだ。研究期間は2018年までだが、博士はこれを充分に実現可能と見ているという(*注:すでに成果発表済みで、ガソリン/ディーゼルともに50%超を果たしている)。

「今までのようなガソリンエンジンの“おさがり”ではなく、天然ガス専用で作ればかなりの性能が期待できる。ノッキングに対しても(天然ガスはガソリンよりも条件が)ラクだからの」

基本的に耐ノック性の高い天然ガスの長所を引き出すためには、高い容積比(≒圧縮比)が必要だ。しかし、高容積比確保のために燃焼室容積を小さくすると、相対的に燃焼室の表面積が大きくなり、S/V比が大きくなって冷却損失が増えてしまう。そこで、燃焼室の面積を小さくするためにボアを小径化したスモールボア・ロングストロークが望ましいということになる。

対向ピストンエンジンを用いれば、一般的なものでは実現不可能なほどの大幅なスモールボア・ロングストローク化が可能。高膨張比化と冷却損失抑制はガソリンでも必須とされるが、CNGはその傾向がさらに極端なため、対向ピストンエンジンでないと実現できないといっても過言ではない。

問題は、そのストローク/ボア比がどの程度かということだが、ガス燃料を用いるHCCIエンジンの研究では容積比26、ストローク/ボア比は2(!!)というものが用いられたという。天然ガス燃料で予混合圧縮着火を実現するためにはここまでする必要があるのだ。

しかし、ストローク/ボア比=2というと、ストロークがボアの2倍。もはや一般的なレシプロ機構では幾何学的な制約から実現が難しい値だ。そこで博士が強力に推しているのが、米国ピナクルエンジンズ社のピナクルエンジン。これについては過去数回にわたって本誌で紹介しているので、詳細はそちらに譲るが、最大の特徴である対向ピストンという構成はまさに前述の大きなストローク/ボア比を生み出す。冷却損失を低く抑える狙いも全く同じと、あらゆる意味で天然ガスエンジンとして理想的なのだという。

ピナクルエンジン。米国ピナクルエンジンズ社によって研究開発が進められている次世代型の高効率エンジン。対向ピストンというレイアウト自体はかつての航空機用などで見られたものだが、そこに高膨張比、低冷却損失という現代の高効率化手法を見出すことで、新たな技術へと昇華させることに見事成功している。その独特なレイアウトゆえにシリンダーヘッドを持たず、一般的なポペットバルブが使いづらいことから、吸排気ポートにはスリーブバルブが用いられている。

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このピクナルエンジンを、ハイブリッドシステムと組み合わせ——というのが、博士の考える天然ガスを用いるNGVの姿。前の博士の言葉にもあるように、エンジンで発電した電気をバッテリーに蓄え、モーターで利用するシリーズハイブリッドなら、EVやFCVと同様のモーター動力ならではの爽快な走りが味わえるはずだ。

「エネルギーは使う場所で作るのがええ」

そういう考えのもと、内燃機関にこだわり、その可能性を追い続けている博士だが、実は自身が理想とする走りはEVのそれだ。その原点には若き日に経験したマツダ・ポーターのEV仕様の思い出があるという。

「当面、EVは原発がなければ成り立たん。FCVは、燃料となる水素を天然ガスから取り出す効率が70%、燃料電池の効率が50%でトータル35%。それなら天然ガスをそのまま使った方がええ」

いつものように、時に憂国の念を交えながらも嬉々と話す畑村博士は、こう言うとニヤリと笑った。

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