Lamborghini Temerario
&
Lamborghini Urus
日常と非日常の狭間で

なんと不公平なスポーツであることか。4年に一度しかめぐって来ない世界最高峰のオリンピックの舞台だというのに、風の強さや雪の降り方でたちまち結果が変わり、時には競技が打ち切られてしまう。スキージャンプでは風の影響による有利不利を調整するための仕組みが導入されているとはいうが、屋外の自然の中で競われるスポーツである以上、完全なイコールコンディションでの競技はありえない。
スタートの順番だけでも結果に大きく影響する。それはラリーの世界でも同様で、先頭スタートが常に有利なわけではない。まだ誰も走っていないコース路面よりも何台か通過して“掃除”された後の方が有利だが、その段階を過ぎると路面が荒れて不利になる。ターマックラリーであっても、前走車がまき散らした泥や岩に足をさらわれることは珍しくない。ちょうどいいコンディションは長続きせず、たちまち変化してしまうのである。無論、参加するトップアスリートたちはすべて承知の上で競技に臨んでいる。TVで見ているだけの門外漢が、ルールがフェアではない、かわいそうじゃないか、ととやかく言うほうがかえって失礼だというものだが、それでもやはり、鍛え上げた技量や入念な準備でもどうにもならない不運に天を仰ぐこともあるはずだ。
だがだからこそ、私たちはそんなスポーツに惹かれるのではないだろうか。ままならないことに対処する姿にこそ魅力を感じる。私たちは間違いのないルーティンだけではつまらないと思ってしまう生き物だからである。いつもの日常と、何か予想外のことが起きるかもしれない非日常を行ったり来たりしたいのが人間なのである。我々がスポーツカーを必要とする理由がそこにある。
雪には慣れているはずの北海道でさえ

旭川に向かって、テメラリオとウルスSEという最新のPHVランボルギーニを連ねて夜の道東自動車道を走る我々の目の前の視界も、路面状況も同様に刻々と変化していた。旭川に近づくにつれて路面や路肩の雪は少なくなっていったが、それでも時おり雪の降り方は激しさを増し、視界を妨げる。実はこの日の午前中は札幌から千歳周辺が猛吹雪に見舞われ、新千歳空港は昼頃まで閉鎖され、道央自動車道も札幌から小樽までが一時通行止めになるほどの悪天候だった。
この冬も大雪に苦しんだ地域が多かった。急な大雪で新千歳空港から移動する手段がなく空港内に閉じ込められたというニュース、あるいは除雪排雪が間に合わず、日常生活に支障をきたした青森市の様子を覚えている人もいるだろう。雪には慣れているはずの北海道や東北でもそんな状況が起こるのか、と雪国以外の人間は思ってしまうが、突然の大雪では単純に除雪排雪が追い付かなくなってしまうのである。
ならばもっと除雪車を増やし、人員を用意しておけばいいじゃないかと言う人がいるかもしれない。だがそれは除雪作業の実態を知らない人が言うことだ。以前同じようなスノードライブの際に早朝の稚内で見た光景を思い出す。まだ明けやらぬ早朝から稚内の市内では、いったいどれほどの除雪車が稼働しているのだろうと驚くほど、無数のグレーダーや雪を運ぶダンプカーが全力で、しかも一糸乱れぬダンスグループのように行き交っていた。様々な障害物を正確に回避しながら、きっちり素早く雪を片付けていくのはまさしくプロフェッショナルの仕事である。これだけの技量を備える人を、必要なら増員すればいいと考えるのはまさに素人考えだ。東京なら1週間はマヒするだろうという雪が前夜に積もっても、北国では学校も会社も当たり前のように営業中だし、公共サービスも滞るわけにはいかない。雪国に暮らしている人にとってはそれが当たり前の日常であり、「不要不急」でも何でもない。
そして当然ながらそんな日常生活を支えるためにはお金がかかる。例えば青森県の今年度の除雪排雪費用は当初予算を大きく上回り、90億円近くに上る見込みだという。雪国以外に住む人には信じられないほどの金額である。大雪になる可能性があるならそれに備えておけばいい、というのは簡単だが、降るかもしれない雪に備えて、予算を用意しておくのは(プロフェッショナルを抱えておくのは)容易なことではない。
日本は国土の約半分が豪雪地帯

ちなみに、世界有数の豪雪国である日本の中でも青森市は一番の積雪地、ということは世界一である。以前にも書いたことだが、そもそも日本の国土の約半分が豪雪地帯であり(人口比では約15%)、その中で「積雪の度が特に高く(中略)住民の生活に著しい支障を生ずる地域」は特別豪雪地帯(国土の約2割に相当、人口比で約2.5%)と別に定められている。豪雪地帯とは漠然とした「雪国」を指すわけではなく、日本では「豪雪地帯対策特別措置法」という法律で指定されているのだ。もっと寒い国やもっと降雪が多い地域はあるけれど、日本ほどの人口を抱えた雪国は他にない。
というのも雪は水分がなければ生まれない。アジア・モンスーン気候帯の東の端に位置する日本はご存知のように降水量が多く、豊かな水に恵まれている。モンスーンとは季節風のことで、冬期は大陸からの北西風が日本海を渡る間に暖流の対馬海流からの水分を含み、脊梁山脈に当たって大雪となるのである。さらに国土が縦に長く、山地が多い日本はその地形的な特徴によって、降る雪も積雪状態も地域によって千差万別である。気温が低い北海道の雪はサラサラと軽いが(だからこそインバウンドのスキーヤーを惹きつける)、本州の豪雪地域の雪は水分を含んでもっと重く、大量に降り積もりやすいのである。
美しい雪路を求めて

結局のところ私たちもインバウンダーと同じだ。わざわざ真冬の北海道を、しかもランボルギーニで走るのは、天候にさえ恵まれればそこに言葉を失うような美しい雪原があるからだ。囲われたスキッドパッドではなく、厳しくも美しい現実の路上へ乗り出すのはスポーツカーにこそ相応しい。
本来は夜間の移動は避けるはずだったが、前述の悪天候のせいで予定が変わり、時おり激しくなる夜の雪の中を急がなければならなかった。そんな中での嬉しい発見はランボルギーニのLEDヘッドライトが想像以上に明るく、照射制御も効果的で必要な場合にはドカーンと遠くまで照らしてくれること。照明が少ない北海道の道では非常に心強かった。ただし、吹雪のように雪の降り方が激しくなるとハイビームはかえって視界を妨げるのはご存知の通り。
想像以上の雪上走行性能

冬道を走る際の最大の問題はいつも視界である。降りしきる雪も厄介だが、北海道で本当に恐ろしいのはいわゆる地吹雪である。積もった軽い雪が強風で巻き上げられて白く濃いカーテンとなって視界を塞ぐ。見通しがいいからと安心していると、丘を越えたり、森を抜けた途端に目の前に白く渦巻く雪が現れて何も見えなくなるということが当たり前に出現する。そんな時にはだいたい路面にも雪が吹き溜まっているから常に路面や周囲の風景に神経を配って何が起こってもいいように準備しておかなければならない。
意外と言っては失礼ながら、テメラリオの快適性というかグランツーリスモ性能にも驚いた。まず前作ウラカンよりも室内が広くなり、窮屈さを感じないことに加え、ガラスエリアが拡大されたおかげで視界が思った以上に良好。さらに乗り心地もフラットで決してスパルタンではない。以前にドライ路面の箱根で試乗した際は、1万rpmまで回る新型V8ツインターボの精悍さにばかり驚いて、乗り心地にまで気が回らなかったが、北海道の荒れた路面でも十分に快適と言える。シートは軽量バケットタイプながら、これならロングドライブもやせ我慢なしでこなせるはずだ(実際に北海道内500km、仙台港から都内までの約400kmを乗り換えながら走った)。
もちろん、エアサスに可変ダンパーを備えるウルスSEは段違いに快適で、こちらもV8ツインターボ+モーターを搭載しシステム最高800PSの大火力を誇りながらもラグジュアリーと評するに相応しい。アイポイントが高いことによる安心感も絶大である。テメラリオ(ブリヂストン)もウルスSE(ピレリ)も、スピードレンジW(270km/hまで)の高速向けウインタータイヤを装着していたが、やはり電子制御クラッチによるフルタイム4WDシステムを持ち、車高が高くなるネーヴェ(雪)モードも備わるウルスはどのような路面でもスタビリティの高さを見せつけた。それに比べればフロントモーター2基によるAWDのテメラリオは雪の状態によっては減速時などにわずかに進路を乱すことがあった。
雪道を舐めてはいけない

このような話は雪国で暮らす人にはもちろん釈迦に説法もいいところで、いつも躊躇いを感じてしまうのだが、それでもほとんど雪が降らない地域に住む経験のないドライバーは、十分な装備を持たないまま、天気予報にも耳を傾けずに、積雪地に出かけてしまうことがいまだに珍しくない。今冬も伊豆箱根地域に異例の積雪があったが、その際はスタック車両が続出した。そんな時は「こんなにひどくなるとは思わなかった」とか「大丈夫だと思った」などと不運を嘆く人がニュースに登場するが(そういう人だけを狙ってインタビューしている節もあるが)、そんな人たちはすべて単に不用意で、判断を誤ったにすぎない。さらにこれも雪国の人には鼻で笑われそうだが、除雪が間に合わないような激しい降雪になり、積雪がある程度以上になれば、スタッドレスタイヤにチェーンをつけていようと4WDであろうと、普通の乗用車は走れなくなる。除雪車の巨大なタイヤを見れば一目瞭然、深い雪ではタイヤ径が決定的に物を言うのである。ゲンロクの読者諸氏には必要ないはずだが、説教じみた話をあえて繰り返すのはそういうドライバーに少しでも伝わってほしいと考えるからである。
繰り返すが、自然を相手にする限りコンディションは刻々と変化するために、これさえ守れば確実に安心という対処法があるわけではない。ステレオタイプなアドバイスや対策では役に立たないことが多く、マニュアル思考は禁物だ。経験と想像力、そして柔軟な発想が必要であるという点ではまさにウインタースポーツに似ているかもしれない。普通の道路を走る時でも実は同じなのだが、雪道ではそれが極端なレベルで現出するのである。
それでもあえて、雪道の経験が少ない人に向けていくつかのアドバイスを挙げるとすれば、まず夜間および悪天候時の単独行は避けること。そして燃料は常に十分にしておくこと、念のために最低限の食糧と水を携行すること、通信手段を持つこと、スケジュールに余裕を持つこと、集落のあるルートを選ぶこと、そしてもちろん雪道に適した性能の車であることは言うまでもない。
雪道の主役は

さらに念のために付け加えると4WDを過信してはいけない。どれほど本格的な4WDシステムを備えていても、結局のところ走破性はタイヤで決まる。一気に30cmも積もればどんなクルマでもフロアを擦って“亀の子”になってしまうし、通常サイズのタイヤでは、特に雪の種類によっては乗り越えられない(最新スタッドレスはアイスバーン性能が向上した代わりに柔らかい雪は苦手だ)。それゆえ除雪されていない道には、一見浅い雪に思えても安易に乗り入れてはいけないのだ。
さすがにテメラリオは車高に注意しなければならなかったが(それでもフロントリフターは思いのほか有効だった)、最新ランボルギーニ2台による冬の冒険行は、悪天候でスケジュールを変更したことを除けば予定通りに運んだ。そんなの当たり前だ、と雪を相手に暮らしている人たちに怒られるかもしれないが、ささいな冒険、あるいはリスクを伴う行動には予定を変更、または撤退を見極める判断力が欠かせない。雪道では圧倒的に人間が主役である。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2026年5月号
