Porsche 911 GT3 Artisan Edition
911 GT3が選ばれた理由



──今回、初めて日本限定モデルが企画された経緯を教えてください。
山田:2年ほど前でしょうか。ドイツ本社がマーケットエディション、いわゆる地域限定モデルを製作するということで、世界各国から企画案が集められました。それがすべての始まりです。この段階で992II型911 GT3をベースにマンタイキットを装着する、という方向性は決まっていました。
──なぜ911、しかもGT3だったのでしょうか。
ゴルスラー:日本はとにかくスポーツカーファンが多いのです。911や718の販売比率が他の国に比べて特に高く、そのパーセンテージはドイツ以上。さらに大小のサーキットが各地にあり、気軽にトラック走行を楽しんでいらっしゃるお客様が多い。今回は日本限定モデルということで、そんなマーケットの特性を踏まえた上で、究極のモデルを製作したいと考えました。するとやはり911 GT3、ちょうどマンタイキットがリリースされたタイミングでしたので、それを装着する方向でコンセプトを固めました。
──その提案に本社がGOを出したということですね。ちなみに世界から集まったプロポーザルはそれぞれプロジェクト化されたのですか?
山田:いえ、今回のラウンドで実際に企画化されたのは日本だけです。
──それはすごいですね! では具体的に車両の製作はどのようにして進められたのでしょうか。本社のどの部門とやりとりをするのですか?
山田:カスタマイズを担当するエクスクルーシブ・マニュファクチャー部門です。今回、パフォーマンスアップについてはマンタイキットの装着のみになりますので、主に話し合ったのはデザインやカラーリング、インテリア素材の選定ですね。その先に車両のスタイリングも担当するデザインチームがいるのですが、彼らと1年以上かけてディスカッションをし、最終案まで仕上げました。


江戸切子と藍染をモチーフに
──日本の伝統工芸へのリスペクトということで、リバリーやカラーリングは江戸切子や藍染に着想を得たそうですね。ビジュアルの原案も日本から提案したのですか?
ゴルスラー:我々が最初に提案したのは「ムードボード」、いわゆる画像やテキストなどを使ってコンセプトやアイデアを視覚的に表現した資料ですね、それをドイツへ送りました。併せて切子や藍染のスカーフ、これは徳島産でしたか、それを購入して届けています。その後、ドイツのデザインチームから10点前後のビジュアル案が上がってきました。
──なるほど。でも採用された案以外がどんなものだったのかも気になりますね(笑)。
山田:もっと派手なものや外国の方がクールだと思う日本のイメージ、例えば漢字やカタカナを入れるとか、そんな案もありました。ですが我々としては外国の方が「日本ってこうだよね」と思うようなものは避けたかった。あえてちょっと抽象的なデザインにしたいと考えていました。よってコンセプトはすごくシンプルに江戸切子と藍染。あとはポルシェの歴史とマンタイのモータースポーツイメージを盛り込みたいと。
ゴルスラー:そこで前者のイメージとして求めたのが、997型911 GT3 RSに用意されていたチェッカーフラッグ柄のリバリーでした。さらに後者はマンタイの象徴とも言えるDTMマシンの「グレロ」リバリーに着想を得、それぞれを現代的に昇華させる形でアルティザンエディションへと落とし込んだのです。


──それをドイツのデザインチームとやりとりをしながら形にしてゆくというのは相当大変な作業だったのではないでしょうか。
山田:はい。ただ、ポルシェのデザインチームには日本人デザイナーがひとりだけいるのですが、この方が早い段階から積極的にプロジェクトに携わってくださり、我々のコンセプトを上手く噛み砕いてまとめてくださいました。本当に助かりましたし、感謝しています。
──デザインが決定するまでにどのくらいの期間がかかりましたか。
ゴルスラー:およそ1年ですね。打ち合わせは主にオンラインでしたが、数回は実際にドイツへ出張して行っています。そこからさらに素材の開発や耐久性の検討などに1年。特にシートセンター、ブルーとホワイトのグラデーションを表現したファブリックの開発には苦労しました。サプライヤーさんからは「これまでで一番手のかかったプロジェクトだ!」とまで言われました(笑)。
「エクスクルーシブ」と「ゾンダーヴンシュ」
──今回はカスタマイズ部門のエクスクルーシブ・マニュファクチャーによって製作されたとのことですが、一方でポルシェは「ゾンダーヴンシュ」というパーソナライゼーション・プログラムもお持ちですよね。
山田:はい。まず、部門名としての「エクスクルーシブ・マニュファクチャー」があり、その中に特別なカラーや素材で製作されたオプションを提供する「エクスクルーシブ・マニュファクチャー」と、さらに高度なワンオフモデルの製作までを担う「ゾンダーヴンシュ」があります。前者にはお客様にお持ちいただいたカラーサンプルを基に塗料を製作、ペイントする「ペイント・トゥ・サンプル・プラス」などが含まれますが、ワンオフパーツの製作などは基本的にいたしません。それは後者の範疇となります。
──すると今回のアルティザンエディションはゾンダーヴンシュになるような気がするのですが……。
ゴルスラー:カスタマイズのレベルとしてはゾンダーヴンシュなのですが、ゾンダーヴンシュは「ひとりのお客様のための特別な1台を製作する」というコンセプトがあります。今回は30台なのでゾンダーヴンシュではない、という解釈になります。
──なるほど。よくわかりました。今回の限定モデルに懸けるポルシェジャパンの熱量が伝わってきました。ありがとうございました。

REPORT/市原直英(Naohide ICHIHARA)
PHOTO/郡 大二郎(Daijiro KORI)
MAGAZINE/GENROQ 2026年7月号
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