BRABUS BODO
創設者の名前を冠して

ブラバスの勢いは止まらない。本拠地ボトロップでは年間1万台以上もの、常識を打ち砕くコンプリートカーが世界中の富裕層へ向けて生産される。メルセデス・ベンツのチューナーとしては名実ともにトップランナーでありながら、近年はさらに手数を拡大している。ポルシェやレンジローバーに始まり、その後はロールス・ロイス、ベントレー、ランボルギーニなどに対して、己の哲学と技術を詰め込んだマスターピース(傑作)へと導く。
世界中の顧客からのリクエストがあれば、可能な限り期待に応えようとする姿勢が、ブラバスの発展的拡大を支えている。しかし、2026年5月、イタリア・コモ湖畔のヴィラ・デル・グルメッロで開催されたフォーリ・コンコルソでお披露目された1台は、どのモデルとも違う、どこか神々しさを感じさせた。
なにしろ名前をBODO(ボード)という。ブラバスの創設者にして、2018年に悔しくも62歳という若さで他界したボード・ブッシュマンの名を取ったものだ。ブラバスの象徴であり精神的支柱として、いまもなお彼らの心のなかにある名を冠する──それは、ブラバスが初めて、自分自身のために特別に製作したモデルなのかもしれない。その理由を、現オーナー兼CEOとして腕をふるうコンスタンティン・ブッシュマンはこう語る。
「50年近く前に父は事業を始め、弛まぬ情熱を持ってブラバスを築き上げました。当時、父はいつも話題にしていた1台のクルマがありました。それに対してブラバス・エンブレムを掲げることは長年の夢でしたが、父は結局、叶えることなく旅立ちました。私たちは父の夢を現実のものとすることで、父の遺志を称えたいと思います。だからこそ、そこに相応しい名前はただひとつ──『BODO』しかありません」
アストンマーティン・ヴァンキッシュがベース



ボード・ブッシュマンの夢は、現行型アストンマーティン・ヴァンキッシュに対して、ブラバスが有する最高峰のエンジニアリングとクラフトマンシップを詰め込むことで、いよいよ現実のものへと昇華した。ブラバスとしては初となるフルカーボン・コーチビルドの2+2グランツーリスモであり、コンプリートカーという枠組みを超越したブラバスのオリジナルカーである。
ラフスケッチとして最初にペンを走らせた瞬間から最高速度360km/hを念頭においたという。その後、最先端のCAD技術をフル活用してデザインと技術とを融合させる。机上のみならず数多くの試作車も造り、風洞実験と実走テストを繰り返す。こうしてヴァンキッシュ固有のアルミニウム・モノコックのうえに成り立つボディは、ウインドウと固定式パノラミックガラスルーフを除くボディすべてが精緻かつ強靭なドライカーボンで敷き詰められた。エアロダイナミクス性能にも抜かりはない。その姿は、コモ湖畔の水面に反射する太陽光を受けると、エレガントな雰囲気も露わにする。
1000PS/1200NmのV12ツインターボ

長いフロントノーズに収まるのは、同じくヴァンキッシュから受け継がれた5.2リッターV12ツインターボだ。純正の時点で最高出力835PS、最大トルク1000Nmという強心臓ながら、もちろんブラバスがそのまま流用するはずはない。手作業で組み直されたうえで、ラムエアボックスと大容量インタークーラー、そして2基のターボチャージャーからなるブラバス・ハイパフォーマンスターボシステムが搭載される。さらにハイパフォーマンスエキゾーストシステムを含む排気設計が組み合わさり、エンジンマネジメントシステムにより最適化された結果として、最高出力1000PS、最大トルク1200Nmを達成した。先に触れたエアロダイナミクス性能と相まって、静止状態からわずか3.0秒で100km/hに達し、その勢いはいっさい衰えずに8.5秒で200km/hへ、23.9秒で300km/hへと到達する。なお、最高速度は360km/hに“制限されて”いる。当初の開発目標をブラバスがあっさりと凌駕した証である。
サスペンションはKWオートモーティブ

この動力性能を支えるには、ブラバスが全幅の信頼を置くパートナーも欠かせない存在となった。たとえば21インチのモノブロックZ-GTシャドウ・エディションホイールに組み合わされるのは、BODOのためだけに専用設計、製造されるコンチネンタル・スポーツコンタクト7フォースだ。これは370km/hまでコントローラブルなハンドリング特性を保つという。フットワーク性能に欠かせないサスペンションは、テクニカルパートナーとして手を組むKWオートモーティブである。固有のサスペンション形式に加え、タイヤ&ホイールの特性までを加味して電子制御による減衰力調整式コイルオーバーサスペンションを開発した。エンジンマネジメントシステムとも協調した5つのドライビングモードを設定することができる。結果として街中からハイウェイ、そしてサーキットまで、安全性を担保したうえで、常に快適かつ刺激的なドライビングフィールをもたらす。
トラクションコントロールや運転支援システムなどはすべて活かされる。前後リフターシステムを含めて、デイリーユースでの利便性を最大限に考慮したブラバスらしいきめ細かさがある。それは「1000PS、360km/h」といった狂気を路上に解き放つうえでの、ブラバスの責任であり矜持である。
ハンドメイドで仕上げられるインテリア




インテリアの誂えも見逃せない。さまざまな仕上げを持つ最高級のブラックレザーに、厳選されたカーボンパーツからなるブラバス・マスターピースインテリアだ。特にブラバスらしいシェル(貝殻)柄ステッチに、ダブル“B”エンブレムは息を飲むほどに美しい。高級家具などを手がける一流のマイスターがハンドメイドで構築するという。
ボード・ブッシュマンの遺志を称える記念碑的モデルは、ブラバスの創業年(1977年)にちなんだ77台のみが生産される。ドイツ国内での販売価格は100万ユーロとされたが、この妖艶な肉体に潜む狂気を前にすれば、妥当かもしれない。ブラバス正規販売代理店がしっかり整った日本であれば、愛車として手に入れられる可能性は十分にある。
もし、ボード・ブッシュマンが77本のキーのうちひとつを手にしたら、きっと満面の笑みを浮かべながら、いつまでもステアリングを握り続けていたのだろう。やがてキーを手にする77名のオーナーたちは、そんな彼に想いを馳せながら、夢の続きを走らせることになる。


REPORT/中三川大地(Daichi NAKAMIGAWA)
PHOTO/BRABUS
SPECIFICATIONS
ブラバス・ボード
ボディサイズ:全長5062 全幅2027 全高1305mm
ホイールベース:2885mm
車量重量:1774kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
圧縮比:9.31
最高出力:735kW(1000PS)/6400rpm
最大トルク:1200Nm(885lb-ft)/2900-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:FR
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35ZR21(9.5J) 後325/30ZR21(11.5J)
車両本体価格:100万ユーロ~
