深川はマツダのモータースポーツ活動の原点の場所
MAZDA HERITAGE SPACE FUKAGAWAは、クルマを売り、整備するための店ではない。マツダがレースで積み重ねてきた挑戦の歴史に触れ、専門知識を持つスタッフに相談し、同じ趣味を持つ人と出会う。そうした時間を過ごすうちに走る歓びに近づいてもらう、というのが施設の狙いだ。
その狙いは空間づくりにも表れている。天井を走るラインタイプの照明は、サーキットでレーシングカーをチューニングするピットの要素を取り入れた設えだという。

展示の中心は「ヒストリーウォール」。1974年の世界三大レース「ル・マン24時間」初参戦から、1982年の初完走、1991年の787Bによる日本車初の総合優勝まで、マツダの挑戦の軌跡を年表形式でたどることができる。道路側の柱の裏には、1991年の787Bで実際に使用されたホイールナットを組み込んだモニュメントがあり、記念撮影に使うのにピッタリだ。
体験型コンテンツとしては、プレイステーション5用ソフト「グランツーリスモ7」の試遊コーナーを用意。マツダ787Bや「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」など、数々のマツダ車の走行性能をバーチャルで体感できる。グッズコーナーではマツダ787Bなどのオフィシャルグッズを展示し、店頭予約またはオンラインショップでの購入が可能だ。
MAZDA HERITAGE SPACE FUKAGAWAで注目なのは、専門知識を持ち、クルマとマツダを深く愛するスタッフによる相談対応だ。そのために関東マツダでレースサポート経験を持つスタッフ2名が新たに着任し、通常の店舗では踏み込めない深度で、ドレスアップやチューンナップ、さらにはモータースポーツ参戦に関する相談に応じてくれるそうだ。店内にはオートエクゼ製のチューニングパーツがずらりと展示されており、パーツ購入時には取り付け先の紹介も行ってくれるのもうれしい。


また、毎月第1土曜日には、広島のマツダミュージアムとの中継イベントを予定している。開発担当者やチーフデザイナーによる講演をリアルタイムで配信し、カタログやウェブサイトには載らない車両開発の裏話を共有するという。地域とのコラボレーションイベントや、パートナー企業と連携したポップアップストアの開催も計画されている。


「ここがマツダのチューニング発祥の地」──寺田陽次郎氏が語る深川
では、なぜ「深川」なのか。その問いに答えてくれたのが、ミスター・ル・マンこと、オートエクゼ 代表取締役社長の寺田陽次郎氏だ。
寺田氏は、22歳でマツダ車のディーラーであるマツダオート東京に就職。その後、マツダからスポーツアドバイザーに任命され、八重洲にあった東京支社のショールームに常駐していた。そして、クルマにスポーツキットを組み込む作業を実際に行っていた場所が、現在の関東マツダ深川店だったという。

「ここは、マツダが正真正銘、初めてチューニングを開始した場所」。寺田氏は深川をモータースポーツの聖地と呼んだ。その後、マツダオート東京はマツダスピードへと発展して、その流れがル・マン参戦につながっていった。そして寺田氏が興したオートエクゼには元マツダスピードの従業員も在籍しており、マツダとロータリーのファイティングスピリットを今でも受け継いでいるという。
「モータースポーツがクルマの販売を完全に支えるものではないかもしれない。けれども、支えていることもまた事実です」。モータースポーツファンが持つ「濃さ」を関東マツダの運営にも役立ててほしい。その思いから、寺田氏自身がこのショールームの開設を依頼したことを明かした。
寺田氏は「深川店には駐車場がなく、便利な立地とは言い切れない」とも率直に述べた。それでも、都会におけるモータースポーツの象徴として、クルマ好きが自動車談義を交わせる場として活用してほしいと期待を語った。
『しあわせの黄色いハンカチ』のロケ地でもあった深川店
関東マツダは1965年に設立され、2026年4月現在で98店舗を東京・埼玉・神奈川・群馬の1都3県に展開している。その関東マツダで社長を務める東堂一義氏は、深川店にはモータースポーツ史とは別の、もうひとつの物語があることを紹介した。

それが、1977年公開の映画『しあわせの黄色いハンカチ』だ。武田鉄矢演じる主人公が赤いファミリアを購入するシーンのロケ地が、この関東マツダ深川店だったという。黄色いハンカチが象徴する「人を信じて待つ気持ち」「応援する気持ち」「やり直すことへの希望」になぞらえ、東堂氏は「この施設も、人の輪が広がり、前向きな気持ちを応援する場所にしたい」と述べた。
MAZDA HERITAGE SPACE FUKAGAWAの対象は、既存のマツダ車オーナーやモータースポーツファンに限定しない。定年を機にロードスターを楽しみたい人、レースに挑戦してみたい人など、これから興味を持つ層も含めて新たな挑戦を応援する場にしたいと東堂氏は語った。
“遠くても行きたくなる店”をつくる
この店舗の試みは、マツダの国内販売網再編の一例でもある。マツダで国内ブランドビジネス統括本部 本部長を務める三浦 忠氏が、その位置づけを説明した。
マツダは2025年6月に公表した国内ビジネス構造変革の方針で、都市圏への集中投資を打ち出している。人口減少で国内の自動車需要そのものは縮む一方、需要に占める都市圏の比重は上がっていく。マツダが重点市場とする北海道、東京、神奈川、千葉、埼玉、静岡、愛知、大阪、兵庫、福岡の10都道府県の割合は、2018年度の約50%から2050年度には約60%へ高まる見通しだという。

ただし三浦氏が強調したのは、建物を新しくすることだけが答えではないという点だった。販売・整備以外の価値、つまり体験を提供することで、”遠くても行きたくなる店”をつくる。すでに用品装着車を展示して相談会を開く関西マツダ守口店、歴代ロードスターを並べる東海マツダ大慶橋店、アウトドアに特化した東海マツダ緑店といったユニークな店舗が存在するが、深川はその系譜の最新形というわけだ。
MAZDA HERITAGE SPACE FUKAGAWAは7月30日オープン。深川という土地に眠っていた記憶を掘り起こし、それを未来の顧客との接点に変えられるか。国内販売20万台という目標に向けたマツダの店舗改革は、都市圏への集中投資と、深川のような個別店舗の取り組みを両輪で進めることになる。
関東マツダ 深川店 「MAZDA HERITAGE SPACE FUKAGAWA」
■住所:東京都江東区冬木21-25
最寄り駅:門前仲町駅(徒歩10分)
・都営大江戸線をご利用の場合:6番出口より徒歩10分
・東京メトロ東西線をご利用の場合:1番出口より徒歩10分





