プロドライバーが教える、本気のドライビングレッスン

この走行会の大きな特徴は、TOYO TIRESからニュルブルクリンク24時間レースをはじめとする国内外のレースに実際に参戦しているプロドライバーたちが、ホストドライバーとして参加者にドライビングを指南してくれる点にある。今回、PROXESアンバサダーであり「TOYO TIRES with Ring Racing」からニュルへ参戦している中山雄一選手をはじめ、小山美姫選手、小高一斗選手、奥本隼士選手、塩津佑介選手、荒 聖治選手、阪口 良平選手、神 晴也選手らが指導にあたった。サーキット走行に不慣れな参加者はもちろん、普段からサーキットでスポーツ走行に勤しんでいるベテランドライバーも、レーシングスピードでコースを知り尽くしたプロの目線からアドバイスを受けられる機会は、市販タイヤブランドの走行会としては贅沢なタイミングであり、サーキットを走る前提としては僅かな参加費でそれが得られるというのは、極めてハイコスパなイベントだ。

参加カテゴリーはレベルに応じて複数用意されており、開催を重ねるごとにタイムアタックだけでなく、初心者向けカテゴリーやパレードラン的にゆっくり走るカテゴリーなどが増やされてきた。そして今回新たに設けられたのが「カテゴリー6」である。これは、サーキットを走ることそのものが目的ではなく、まずはサーキットがどんな場所なのかを見て、愛車とともにその場に身を置いてもらうことを目的とした、いわば「サーキット超ビギナー」のためのカテゴリーだ。走行会と銘打ちながら、あえて「走らない」参加の形を用意したという逆転の発想には、まさに目からウロコが落ちた気分だ。サーキットという特別な舞台に自分の愛車を置き、その景色を眺める――そんな体験からモータースポーツとの距離を縮めてもらおうという狙いである。

さらに、この走行会はTOYO TIRES製タイヤの装着車に限定されておらず、他メーカーのタイヤを履いた車両でも参加が可能という間口の広さも見逃せない。実際、今回の参加者のうちPROXES装着車はおよそ3割にとどまるという。あくまで多くの人にサーキットという場を体感してもらうことに主眼が置かれており、タイヤブランドの販促イベントという枠を超えた設計思想がうかがえる。
PROXESドライビングプレジャーの狙いを吉川部長に聞く
今回の走行会の狙いと、その背景にある考え方について、TOYO TIRES株式会社 商品企画本部 グローバルマーケティング部 吉川誠部長に話を聞いた。
――このイベントを始められた趣旨を教えてください。
吉川部長(以下:吉川)「我々はオンロードのPROXESも、オフロードのOPEN COUNTRYも、実際にタイヤを体感してもらうことをすごく大事にしています。クルマにそれらのタイヤをつけて走って、その感じ方の違いを参加者に体感してもらいたい。それが記憶だけでなく、体に染みつくものになる。その体感を大事にイベントを組み立てているんです」


――ファンミーティングならば小さなサーキットや広めの駐車場でもできます。本格国際コースを有するサーキットで開催する理由は?
吉川「鈴鹿や岡山国際、富士スピードウェイのような本格的なサーキットで、タイムアタックをするような上級者向けにも対応でき、初めてサーキットを走る方、パレードラン的に60km/hくらいでゆっくり走る方まで、幅広い層にプロクセスの性能を体感してもらいたい。カテゴリーをうまく分けることで、それができるようになっています」
――今回新設された走らないクラス「カテゴリー6」について、狙いを聞かせてください。
吉川「サーキットって、走ってみたいけれどハードルが高いじゃないですか。今日も、サーキットを走るのは初めてという方が結構いらっしゃいます。そういう方々にまずサーキットでタイヤを体感してもらう、そのハードルを下げていく。今回はさらに一歩進めて、走行すらしなくてもサーキットがどんな場所か見てもらう、そういうカテゴリーも作りました。少しでもハードルを下げながら、走る楽しみをより広げていければと考えています」

――他メーカーのタイヤでも参加可能にしている点も印象的です。
吉川「もちろん我々としてはPROXESを体感してほしいという思いはあります。ただ今日参加している方の中にはタイヤブランドがまだ固定されていない方も多い。そうした方々に新規のファンになってもらう可能性も込めています。次にタイヤを交換するとき、頭の片隅にPROXESというブランドを置いてもらえたら。初心者カテゴリー設定の狙いもそこにあります」
――はっきり言って、200台超が集まったとは言え、鈴鹿サーキットを一日貸し切るイベントでの収益化は無理ですよね?
吉川「正直、これ自体はまったく儲かっていません(笑)。ニュルに参戦しているドライバーたちに講師として来てもらうのも、TOYO TIRESがやるからこそ来てくれているようなもの。プロから直接レクチャーを受けられることで運転技術が上がり、それがサーキットの外で走るときの安全運転にもつながっていく。そういう意味では、一部社会貢献的な側面も備えたイベントになってきていると思います」
――他社のサーキット走行会との違いはどこにありますか。
吉川「他社さんは、がっつり本気の人向けというイメージが強い印象があります。我々の場合は、初心者のための下のカテゴリーを充実させているのが特徴です。普段の車で1回でいいから鈴鹿を走ってみたい、という方の受け皿になりたい。本気のタイムアタックに至るまでの間を埋めるようなカテゴリー設計を意識しています」
――今後の展開、発展などはどのように考えていますか。
吉川「まだまだPROXESの知名度を上げていくことですが、例えば九州のオートポリスや北海道の十勝サーキットなど、全国で展開していきたいですね。それに、これから発売されていくであろう新製品体験の場などにもしていけたらいいなと思っています」

吉川氏の言葉からは、単なるファンミーティングやプラクティスの場に留まることなく、ブランドとユーザーとの中長期的な関係づくりこそがこの走行会の核心であることがわかった。タイヤという自動車が発明されてから大きくカタチを変えていない数少ない種類のパーツメーカーという立場から、自動車の文化を育てていこうという意気込みも伝わってくる。
参加ドライバー陣によるトークショー
走行会の合間には、ドライバー陣によるトークショーも行われた。

PROXESアンバサダーの中山選手は、東洋タイヤのスリックタイヤ開発について「去年はスローパンクチャーに苦しむ場面も多かったが、冬の間のこの半年でエンジニアが上のクラスであるGT3でも走り切れるタイヤに仕上げてくれ、タイヤを信頼してプッシュしながら走り切ることができた」と明かした。今年はニュル24時間レースを17位で完走し、その後のレースでは目標であるシングル(一桁の順位)を達成する9位でゴール。順調に順位を上げてきた。「ニュルは1周25km、標高差300mで、一般道に当てはめれば3000km分に相当する負荷が1周でかかる過酷なコース。それを100周以上走る中で鍛えられたタイヤの進化が、市販タイヤの性能向上にもつながっていく」と、レースで得た知見が製品にフィードバックされていく手応えをリアルに語った。

ニュルブルクリンクに参戦する小山選手は「ニュルは怖い。1周25km、アップダウンも激しくコース幅は狭いのにハイスピード」としながらも、「怖ければ怖いほど、走り切った後のやり切った感は他では味わえない」と語った。

参加者にも身近なテーマであるサーキットでの怖さについて、同じくニュルに挑む小高選手は「確かに最初は怖くて攻められなかったが、コースを理解していくうちに怖さが楽しさに変わっていく」と自身の経験を語った。

奥本隼士選手は「初めて走った時から楽しさの方が勝っていた。子供の頃グランツーリスモで最初に選んだのがニュルだった」と夢の舞台への思いを語り、そのうえで「事前にコースを覚えて準備することの大切さも学んだ」と付け加えた。

そしてTOYO TIRES社員ドライバーの宮園拓真選手は「プロクセスドライビングプレジャーは2023年、この鈴鹿で産声を上げたイベント。タイヤを全開走行で走らせるという日常ではなかなか味わえない機会と我々とのコミュニケーションを楽しんでほしい」と、eスポーツ出身ドライバーならではの、リアル体験の魅力と大切さを語っていた。

TOYO TIRESが目指すもの ―― タイヤブランドを超えた文化づくり
今回の取材を通じて見えてきたのは、TOYO TIRESがPROXESの走行会を通じて目指しているのは、単なる商品の販売促進ではないということだ。プロドライバーとの距離の近さ、走らないという選択肢すら用意する懐の深さ、そして他社タイヤユーザーにも開かれた門戸。そのすべてが「サーキットという特別な場所を、もっと多くの人にとって身近なものにしたい」という一貫した思想に貫かれている。吉川氏が語った「儲かっていない」という言葉こそ、このイベントが商売の論理だけで動いていない何よりの証だろう。

この姿勢は、SUVタイヤ「OPEN COUNTRY」においても共通している。TOYO TIRESがユーザーとの繋がりを重視するのは、単にファンに愛されるブランドでありたいという思いだけではない。走行会やトークショーといった場は、ユーザーが日々の走行でどんな不満を感じ、何を求めているのかを直接受け止める貴重な接点でもある。中山選手が語ったように、レースの現場で得た知見が着実に市販タイヤへとフィードバックされていくように、ユーザーの声もまた次の製品開発を支える大切な材料となっているのだ。

やや業界裏話のようになってしまうが、この広い国際サーキットである鈴鹿を舞台にしたこのイベントは、大手代理店やイベント会社に丸投げすることなく、TOYO TIRES社員たちが汗をかきながら運営しているのを筆者は知っている。そんな姿勢からも、これまでTOYO TIRESは「小回りが効く会社」「開発者も一緒になって戦ってくれる」「ユーザーとの接点を大事にしてくれる」という声をプロドライバーからユーザーまで幅広く聞いてきた。「PROXESドライビングプレジャー」は、まさに、それを絵に描いたようなイベントだと思った。そんな暖かな手の温もりを感じられるようなタイヤメーカーの走行会に、次は参加してみてはいかがだろうか。きっとたくさんのことを体感でき、何かを得られること間違いない。
