日本で運転免許を取り、日常的に運転している人は、アメリカでも運転しようと思えばできる。右側通行か左側通行か、日本と異なるデザインの標識、交通ルールの違いなど、慣れない要素があっても日本での運転経験があれば応用はきく。ウェイブの自動運転AIも同じようにさまざまな都市に適応している。ロンドンで運転を身につけたあと短期間で、北米やドイツ、日本でも次々に高い性能で走ってみせた。

 今までの自動運転AIとは何が違うのか。ウェイブテクノロジーズジャパンでプロダクトアーキテクチャ&セーフティディレクターを務める亀山将亮氏に聞いた。

ウェイブテクノロジーズジャパン プロダクトアーキテクチャ&セーフティディレクターの亀山将亮氏

フィジカルAIとは? ブラックボックスにはならない?

Q:エンボディードAIやフィジカルAI(いずれも身体を持ったAIと訳す)と、これまでの自動運転AIの違いは? 従来も車両という身体を持っていたことになるのでは?

A:「AV(自動運転)1.0」と呼ばれる従来型のアプローチでは、人間が作ったたくさんのルールに基づいて行動することを基本としてきた。車両や白線、信号を認識するためにラベルをつけていき、〇〇を検出したらこうすると決まっている。高速道路のような、ある程度管理された空間であれば「ルールベース」でカバーできたが、複雑な状況が絡み合う一般道では、ルールだけで対応するのは難しい。というのは、認知、判断、操作のプロセスにおいて、中間に人間が作成したルールが介在すると、重要な情報が欠落する可能性があるからだ。

 これに対し、ウェイブはいち早く「End to End」という自動運転AIのアプローチを採ってきており、単一のネットワークで複数のタスクを解かせるように設計している。この新しいアプローチは「AV2.0」と呼ばれている。運転中の人間は何が起きるか、一瞬一瞬で予測し続けている。フィジカルAIは、リアルタイムに遅延が許されない中で、人間と同じように自分の運転によって他の対象物がどう動くかを予測しながら運転している。

 ウェイブはクルマを作っていないので、車両に依存せず、AIが走行軌跡などの行動計画を生成し、その裏で制御器が実行するアーキテクチャになっている。その上で、自動車メーカーは、運転操作についてそれぞれのブランドが持つ独自の味付けを行うことができる。

街中を実際に走っているウェイブの開発車両。東京都内の拠点には、写真のフォード以外にも複数の自動車メーカーの製品がベース車両として置かれていた。異なるメーカーの車両にも迅速に搭載できるのが強み。開発車両の内部は大幅な設備搭載や改造はされておらず、市販車とさほど変わらない。

Q:E2Eの自動運転はブラックボックス化が懸念されている。それをどう解消する?

A:われわれとしてはブラックボックスだとは思っていない。AIがなぜこの判断をしたのかが見える化できる設計にしている。

 システムから出力される実際の挙動を十分に理解・評価・検証し、その安全性を客観的に実証できるかが非常に重要。ウェイブでは高度なシミュレーション、クローズドコースでの走行、そして公道試験でのセーフティオペレーターによる走行などを多層的に組み合わせ、モデルの性能を一貫して継続評価している。この検証プロセスを通じて、現実の様々な制約下でも予測可能で、再現性があり、安全に動作することを実証している。

 E2Eの自動運転は「これだけの状況を評価したので安全」ではなく、(設計段階から安全性を組み込んだ)「セーフティバイデザイン(Safety By Design)」でなければいけない。設計的に問題がなく安全だということを、自動車メーカーと協力しながら設計に取り組んでいる。

「スクールバスを認識しなさい」の限界

Q:ADASとロボタクシーの間にはどんなギャップがある?

A:運転性能や安全性能という意味では、レベル2までのADASの先にレベル4以上の無人運転がある。レベル2で多くの台数を出すことでデータが多く得られ、より高いレベルに進める面もある。レベル4では、人間の有無の差が大きい。ADASであれば万が一システムに問題があってもドライバーに運転を戻せるが、レベル4ではシステムとして冗長化が必要だ。また、乗務員がやっていたドアの開閉や忘れ物のチェックなどの動作を車両側で担うための開発も多くある。法整備や社会受容性も重要になってくる。

Q:他社のロボタクシーでは、「スクールバスを追い越してはいけない」といった場面をなかなか学習できなかった……などのトラブルがあると聞く。工事現場の誘導に従うことも難しいようだ。ウェイブでも同様の課題はあるか。

A:既存の手法で対応するのが難しくなっている例だと考えられる。これまでのやり方では、大量のスクールバスの画像を用意して、ラベリングし、個別のシーンを一つ一つ想定して学習させてきた。

 これに対し、ウェイブでは、「スクールバスを認識しなさい、そしてこう動きなさい」というルールではなく「スクールバスがいたら追い越しをしない」という挙動を覚えさせている。つまり、状況全体を理解した上で、最適な行動を学ぶというアプローチだ。

 ウェイブでは厳格に訓練されたドライバーが世界中で動作を教えている。実走行でのデータ収集だけでなく、新たなシーンを作るなど擬似データによるシミュレーションも行なう。このほかにもさまざまなピースを組み合わせて開発スピードを上げている。最先端の研究から量産に向けた開発まで、噛み合って動いている会社だと思う。

ウェイブの車両に搭載されているセンサー

Q:技術的な課題が残るシーンの共通点は?

A:実際の運転環境でまれにしか発生しない状況への対応が挙げられる。たとえば、落下物や動物を認識するという課題ではデータがなかなか集まらない。こうした分野で、ウェイブでは、予測の技術を活用している。人間も次に起こることを予測していて、一瞬見えてクルマの陰に入った自転車は、その後飛び出してくるというリスクを想定できる。予測技術があれば過去のコンテキストを持って捕捉できる。

 われわれの開発では、ドライバーがその道をどう通ったかがそのまま学習データとして使える。従来は正解をつけるためにオフラインで処理が必要で、データがたくさん集まっても一旦ラベリングしてから学習するので、使えるデータの規模が限られていた。「セーフティードライバー」としての運転の仕方や交通ルール遵守を管理しながら日々の開発を進めている。

1カ月でも性能は変わる

Q:イギリスでトレーニングした後、短期間で他国の都市に展開してきた実績がある。最近の状況は?

A:違う都市に適応するだけでなく、車両の違いにも適応できている。これまでは、同じシステムを違う車両に搭載するのは数カ月かかるのが一般的だったが、2〜3週間ほどで構築し、短期間で十分に走れるようになったケースもある。

Q:AI開発企業として、車両側のハードウェアへの期待や要望は?

A:設立当初から、どんな車両にも、どんなところにも普及させることをミッションにしてきたので、自動車メーカーが決めたどのハードウェアにも合わせて載せられるのがウェイブの強み。個別のカスタムチップも必要なく、周囲360度の監視ができるセンサーと、必要な演算能力やメモリがあればソフトウェアは載せられる。

 また、継続的に進化できる車両になっていると、われわれとしてもうれしい。データを吸い上げてシステムを賢くし、車両に戻していくことで、新機能や性能向上に繋げられる。クルマの売り切りではもったいない。開発車両に毎月乗ってもらうと、進化が肌でわかる。以前なら1カ月という短期間で何が変わると思われたかもしれないが、データが増えれば増えるほど、性能改善は加速的に進む。進化のスピードは本当に速い。

Q:制限速度と実際の交通の流れのスピードが一致しないなど、ルールと現実にギャップがある中、ロボタクシーはどうあるべきか。

A:日本は法定速度と実際の速度のギャップが大きい。海外では法定速度を少しでもオーバーすると違反になる国もある。レベル2までのADASであれば、高速道路でもドライバーの決定に従って流れに乗った速度にすることはできるが、ロボタクシーの場合はどのような運転があるべきなのか議論が必要。社会受容性や法整備を含む一体とした議論を社会として進められるよう、ウェイブとして関係各所と取り組んでいきたい。

E2Eの自動運転で飛び交う用語を整理したい。よく耳にするLLMやVLM、VLAは深層学習の設計手法の1つで、データの関係性を学習するのが得意なTransformerという汎用的なアーキテクチャが使われることが多い。VLAは行動まで出力できるため、自動運転で期待されている。CNNも用途によっては強力な手段だし、ルールベースも役目が終わったわけではない。
 
「認知・判断・操作」「走る・曲がる・止まる」は共通だが、対応範囲を広げるために構成は変わっていく。AV(自動運転)1.0とAV2.0はウェイブの資料から引用。AV1.5の概念図は、モジュラー型E2Eを提唱するティア1サプライヤーの資料を参考にした。高速道路など限定された場所であればAV1.0で対応できたが、複雑な一般道では難しい。