新型エルグランドは『アクティブ・ノイズ・キャンセリング(ANC)』を採用
日産は、新型エルグランドに新しい『アクティブ・ノイズ・キャンセリング(ANC)』技術を採用すると明らかにした。ANCそのものは高級車では珍しい技術ではないが、新型エルグランドはロードノイズとハイブリッドパワートレーン由来のノイズを同時に低減する“統合型ANCシステム”を採用する初のモデルになるとしている。

新型エルグランドといえば、第3世代“e-POWER”の搭載や大胆なデザイン刷新が注目されている。しかし今回の日産の発表を見ると、それ以上に重視しているように見えるのが“静けさ”である。
高級ミニバン市場では、静粛性そのものが商品価値を左右する重要な要素となっている。最大のライバルであるトヨタ アルファードに対抗するうえでも、この新しい静粛化技術は新型エルグランドの大きな武器になる可能性がある。

『アクティブ・ノイズ・キャンセリング』とは?
では、日産が「他車にはない」とアピールするANCとは、どのような技術なのだろうか。
まず誤解してはいけないのは、ANC自体は決して新しい技術ではないという点である。すでに多くの高級車で採用されており、車内へ入り込む騒音を低減する技術として広く知られている。
仕組みは、ノイズキャンセリングヘッドホンとよく似ている。騒音とは逆位相の音をスピーカーから発生させ、互いの音を打ち消し合うことで、乗員が感じる騒音を低減する仕組みだ。

新型エルグランドでは、車体各所に配置した加速度センサーが振動を検知し、その情報をもとにパナソニック オートモーティブシステムズが開発したANCシステムが逆位相の制御音を生成。不快な音が耳へ届く前に打ち消すことで、より静かな車内空間を実現するとしている。
ここで重要なのは、日産がアピールしているのは「ANCを採用したこと」ではなく、その制御内容である。
一般的な車載ANCは、タイヤが路面を転がる際に発生するロードノイズを低減することが主な役割だ。一方、新型エルグランドではロードノイズに加え、第3世代e-POWERから発生するノイズも統合的に制御するという。つまり、新しいのはANCという技術そのものではなく、異なる種類の騒音を一括して制御するという考え方なのである。

実は、この技術は第3世代e-POWERとも深く関係している。パワートレーンが静かになるほど、これまでエンジン音に隠れていたロードノイズや細かな振動音が耳につきやすくなる。そのため、エンジンだけを静かにするのではなく、車内全体の音環境までトータルで整えることが、高級ミニバンの商品力を左右する時代になりつつある。だからこそ日産は、この統合型ANCシステムを新型エルグランドの大きなセールスポイントとして打ち出したのだろう。
もっとも、「他車にはない」という表現は、そのまま受け取るべきではない。ANC自体はすでに多くの高級車で採用されている技術だからだ。日産が強調しているのは、ロードノイズとハイブリッドパワートレーン由来のノイズという異なる特性を持つ騒音を統合的に制御する点にある。ロードノイズは路面状況や速度によって周波数や振幅が絶えず変化するため、エンジンノイズより制御が難しいとされる。この難易度の高い制御を実現できることこそ、新システム最大の特徴と言える。ただし、その効果については実際の試乗で確認する必要がある。

この技術を支えるパナソニック オートモーティブシステムズは、これまで60車種以上へANCを供給してきた実績を持つ。今回の技術も新型エルグランドだけでなく、将来的には他の日産車へ展開される可能性がありそうだ。
ライバルのトヨタ・アルファードに対して有利になるか?
では、なぜ日産はここまで「静けさ」にこだわるのか。その答えは最大のライバルであるアルファードの存在にある。
アルファードも高い静粛性を誇るが、その多くはボディ剛性の向上や遮音材・吸音材の最適化など、車両そのものの性能を高めることで実現している。一方、新型エルグランドは電子制御によって車内で聞こえる音そのものを積極的にコントロールするという、新しいアプローチを採用する。静けさという同じ価値を目指しながらも、その実現方法は大きく異なるのである。

もちろん、静粛性だけでアルファードに対抗できるわけではない。しかし、第3世代e-POWERによる滑らかな走行フィールと統合型ANCシステムが高いレベルで融合すれば、「乗れば違いが分かる静けさ」は新型エルグランドならではの商品価値になる可能性がある。
エルグランドはかつて、高級ミニバンというカテゴリーを切り開いたパイオニアであった。しかし現在は国内販売でアルファードに大きく差を付けられている。日産は新デザインや第3世代e-POWERに加え、「快適な移動空間」という価値そのものを進化させることで、再び存在感を取り戻そうとしているのだろう。

アルファードとの差を縮めるには、デザインやパワートレーンの刷新だけでは十分とは言えない。日産が「他車にはない」と自信を見せる統合型ANCシステムが、実際の走行で「乗れば違いが分かる静けさ」を実現できれば、それはアルファードにはない新たな武器になる可能性がある。
高級ミニバンの競争は、広さや豪華さだけで決まる時代ではない。どれだけ上質で快適な移動空間を提供できるか。その新たな勝負に、日産は「静けさ」という切り札で挑もうとしている。

