クラッチレバーなしで発進・停止できる!その秘密が自動遠心クラッチ

「エンストしない」「片手が空くので荷物が持てる」「ワタシにも運転しやすい!」。初代C100がデビューしたときに注目を集めたメカニズムのひとつが、クラッチレバー操作を不要にした「自動遠心クラッチ」だった。バイクという乗り物を思いきり親しみやすいものへと導いた画期的なメカニズムだった。

普通のMTバイクなら、発進するときは左手でクラッチレバーを握り、エンジン回転に合わせながら少しずつ繋ぐ。停車時もクラッチを切らなければ(もしくはニュートラル)エンストしてしまう。ところがカブは、その操作を自動遠心クラッチが自動で行ってくれるのだ。発進時にはエンジン回転の上昇に応じてクラッチがつながり、回転が落ちれば切れる。だから信号待ちで停車しても、クラッチ操作を忘れてエンスト……なんてことがない。

それでいて変速そのものは左足で行う。シフトチェンジを自分で選ぶ楽しさはちゃんと残す。でも、面倒なクラッチ操作はいらない。

初代C100は1958年の時点で、このなんとも絶妙なシステムを実現していたのである。

じつは「AT限定免許」があればカブに乗れちゃいます

そして、スーパーカブは左足でギヤを変えるから「MT車でしょ?」と思いがちだけれど、ライダーが操作するクラッチレバーを備えていない。そのため、たとえばスーパーカブ110ならAT小型限定普通二輪免許でも運転できる。

AT限定二輪免許でいう“AT”は、スクーターのように変速操作まで全部自動でなければダメ、という意味ではない。制度上は「クラッチ操作を必要とせず、クラッチ操作装置を持たない二輪車」が対象になる。

だからカブは、AT限定免許でも乗れるのに、左足では自分で1速、2速、3速……とシフトチェンジを楽しめる。ATの手軽さと、MTのようにギヤを選ぶ楽しさ。その両方を味わえるのがカブなのである。

発進だけじゃない! 変速時にもちゃんと仕事をしている

自動遠心クラッチそのものは1930年代から存在していた技術ではあったものの、カブに搭載されたそれは格段にシンプルかつ高性能だった。

発進時にはクラッチをなめらかに自動接続。ギヤチェンジ時にはシフトペダルの操作に連動してクラッチを切断し、さらに始動時やエンジンブレーキ時には動力をしっかり伝える。つまり、ただ「回転が上がったら勝手につながる」というだけの仕組みではない。

メーカーの技術資料でも、自動遠心クラッチは発進時の自動断接に加え、変速時にはペダル操作によってクラッチを強制的に切る構造を備え、手動クラッチ操作なしでシフトチェンジできることが説明されている。

自動遠心クラッチを分解したところ。発進時には自動で動力をつなぎ、変速時にはペダル操作に連動してクラッチを切る。クラッチレバーなしで走れるヒミツがこの中に詰まっている。

しかも、カブ系の自動遠心クラッチにはもうひと仕事ある。クラッチ部分には遠心力によってオイル中のスラッジを分離する機能も持たされていた。単に操作をラクにするだけでなく、毎日酷使される実用車らしく、耐久性やメンテナンス性まで考えられていたのである。

ここまで見ると、初代C100の発売時点で基本メカニズムがかなり高いレベルまで完成していたことにも納得できる。

2009年には“2段クラッチ”でもっと滑らかに!

完成度が高かったとはいえ、もちろん進化が止まったわけではない。その大きな節目が、2009年のスーパーカブ110で新たに採用された「2段クラッチシステム」だ。

クランク軸側には発進専用の遠心シュー式クラッチ、ミッション軸側には変速専用の多板クラッチを配置。発進と変速をそれぞれ別のクラッチに担当させることで、発進をより滑らかにするとともに、変速ショックも低減している。

2009年のスーパーカブ110で採用された2段クラッチシステム。クランク軸側の遠心シュー式クラッチが“発進”、ミッション軸側の多板クラッチが“変速”を担当。仕事を分けることで、スムーズな発進と上質なシフトフィーリングを実現した。

でも、根っこにある考え方は初代C100から変わらない。操作は手軽。でも左足ではちゃんとギヤを選べる。そして毎日の仕事にも耐えるタフさを備える。ATの手軽さとMTの楽しさ、そこにカブらしいタフネスまで欲張ってしまった。自動遠心クラッチは、スーパーカブを“誰でも付き合いやすいバイク”にした画期的な仕組みだったのである。

※この記事は月刊モトチャンプ2025年8月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】