20年以上見てきても、中国自動車産業はわかりにくい

筆者は20年以上前から、北京モーターショー、上海モーターショーを取材してきた。21世紀初頭には数年間、中国・広州に駐在した経験もある。

その頃の中国自動車市場では、Volkswagen、GM、トヨタ、ホンダ、日産といった海外メーカーの存在感が現在とは比較にならないほど大きかった。00年代初頭では広州の中国人の知人から「早く広州ホンダのアコードを手に入れるにはどうしたらいいんだ?」とよく聞かれたものだ。

もちろん中国メーカーも存在した。しかし、いまのように中国ブランドが世界の自動車市場で大きな存在感を示す時代が、これほど早くやってくると当時どれほどの人が想像していただろうか。

2026年の北京モーターショーを歩いても、その変化を実感する。

巨大なBYDのブースがある。その周囲には紅旗、長安、BAIC、GAC、SAIC、Geely、NIO、XPeng、Xiaomi……。
我々はこれらをひとまとめに「中国メーカー」と呼んでいる。しかし、実際にはその成り立ちはまったく違う。

中央政府が直接管理する巨大国有企業がある。地方政府を背景に発展した国有企業がある。民営企業もある。そこへ新興NEVメーカーが登場し、さらにIT・テクノロジー企業まで参入してきた。

そして国有企業について調べ始めると、「央企」「一級」「二級」といった、日本の自動車産業では馴染みの薄い言葉が出てくる。

長年、中国の自動車産業を取材してきた筆者にとっても、これらの企業の成り立ちや関係を正確に整理するのは簡単ではない。

だからこそ、中国自動車産業が世界を大きく動かす存在となったいま、一度基本に立ち返って整理してみたい。
そもそも「中国の自動車メーカー」とは何者なのだろうか。

中国メーカーを理解するなら、まず地図を見よう

主要な中国車自動車メーカーの本拠地マップ

主要メーカーの本拠地を地図上に示した。中国の自動車産業は特定の地域に集積して発展してきた。

中国の自動車産業を理解するとき、最初に見ておきたいのが地図である。

中国は広い(なにせ日本の約26倍だ)。そして主要自動車メーカーは、それぞれの都市や地域と強い結びつきを持ちながら発展してきた。

中国第一汽車(FAW)は吉林省・長春。
東風汽車(Dongfeng)は湖北省・武漢。
中国長安汽車(Changan)は重慶。
上海汽車(SAIC)は上海。
広州汽車(GAC)は広東省・広州。
北京汽車(BAIC)は北京。

さらに奇瑞汽車(Chery)は安徽省・蕪湖、江淮汽車(JAC)は同じ安徽省でも合肥、BYDは広東省・深圳、Geelyは浙江省・杭州、長城汽車(Great Wall Motor)は河北省・保定を本拠とする。

これは単なる「本社所在地」の一覧ではない。

とくに国有メーカーの場合、自動車会社はその地域の工場だけでなく、雇用、税収、部品メーカーなどの産業集積とも密接に結びついている。

どの都市から生まれた会社なのかを知ることが、その会社の成り立ちを理解する第一歩になる。

だから、中国自動車産業を理解するなら、まず地図を見るのがいい。

中国自動車産業の原点、長春の第一汽車

なかでも特別な存在が、中国第一汽車集団、FAWである。本拠地は中国東北部、吉林省の省都・長春だ。

筆者も以前、長春を訪れたことがある。中国の近代史と深い関わりを持つ都市であり、実際に街を歩いてみると、ここに巨大な自動車産業が形成されたことを、単なる「本社所在地」という以上の重みをもって感じる。

第一汽車製造廠の建設が始まったのは1953年。1956年には「解放」ブランドのトラックを生産。1958年には乗用車を生み出し、その後、中国を代表する高級車ブランドとなる「紅旗」が登場する。

つまりFAWは、現在の中国に存在する巨大自動車メーカーのひとつというだけではない。

中華人民共和国成立後の自動車産業をつくる国家プロジェクトとして生まれた会社なのである。

この出自を知ると、現在もFAWが中国自動車産業で特別な位置を占める理由が見えてくる。

「二汽」から生まれた東風汽車

東風汽車no最新のEVコンセプトSUVである「EQ-Reborn」。伝説的な軍用トラック「EQ240」(1975年)の系譜を受け継ぎ、レトロなミリタリーテイストと最新のスマート電気駆動技術を融合させたSUVだ。

FAWと並んで、中国の国有自動車産業を代表するのが東風汽車である。

東風汽車のルーツは「第二汽車製造廠」。中国では長く「二汽」と呼ばれてきた。第一汽車が「一汽」なら、その次に国家プロジェクトとして建設された自動車メーカーが「二汽」というわけだ。

ただし、その生まれ方は第一汽車とは異なる。

第二汽車製造廠の建設が本格化したのは1960年代末。当時の「三線建設」のなかで、沿岸部から離れた湖北省・十堰を中心に巨大な自動車生産拠点が形成された。

その後、東風汽車は湖北省の省都・武漢へ本社機能を移し、現在では武漢を本拠とする巨大自動車グループとなっている。

長春の第一汽車と湖北の東風汽車。
どちらも現在は中央政府系の巨大自動車企業だが、成立した時代も背景も異なる。

ここでも、地図と歴史を重ねることで企業の姿が見えてくる。

重慶の長安は、FAW、Dongfengとは出自が違う

そして現在、FAW、東風汽車(Dongfeng)と並ぶ中央国有自動車グループとなったのが中国長安汽車集団である。

本拠地は重慶。長安の歴史を遡ると、その源流は自動車会社ではなく兵器産業に行き着く。この点が、国家の自動車産業育成を目的として建設された第一汽車や第二汽車とは異なる。

そして長安を理解するうえでもうひとつ重要なのが、2025年にその位置づけが変わったことだ。

それまで長安の自動車事業は中央企業である中国兵器装備集団の傘下にあったが、2025年7月、同集団から自動車事業を分離して「中国長安汽車集団有限公司」が設立された。

国務院国資委が国務院を代表して出資者としての職責を履行する独立した中央企業となったのである。現在の国務院国資委の中央企業リストにも、中国長安汽車集団は73番目の企業として掲載されている。

これによって、中国の完成車メーカーでは、
中国第一汽車集団
東風汽車集団
中国長安汽車集団

という「三大央企自動車グループ」の体制となった。国務院国資委もこの3社を「三大央企汽车集团」と表現している。
では、そもそも「央企」とは何なのか。

「央企」とは何か?

日本から中国企業を見ていると、「国有企業」というひとつのカテゴリーにまとめてしまいがちだ。しかし中国では、同じ国有企業でも、誰が国有資本の出資者としての職責を履行しているのかによって位置づけが違う。

まず「央企」。
「中央企業」の略称である。
自動車分野では先ほどの、
FAW(中国第一汽車集団)
Dongfeng(東風汽車集団
中国長安
中国長安汽車集団
の3グループがこれに該当する。

いずれも巨大企業だから「央企」なのではない。

中央政府の国有資本管理体系に直接属しているから央企なのである。

国務院国資委は国有企業について、国務院または地方人民政府が国家を代表して出資者としての職責を履行する国有独資・国有控股企業などを含む、と説明している。

ここを理解すると、同じ「国有自動車メーカー」であるFAWとSAICが、実は異なる系統の企業であることが見えてくる。

SAIC、GAC、BAICも国有。しかし「央企」ではない

上海汽車(SAIC)、広州汽車(GAC)、北京汽車(BAIC)も、中国を代表する巨大国有自動車グループである。しかし、FAW、Dongfeng、中国長安とは国有資本の系統が違う。
SAICは上海、GACは広州、BAICは北京。

それぞれ地方政府の国有資本体系を背景に発展した地方国有企業である。
したがって、中国の国有自動車メーカーを最初に理解するときには、
中央政府系=央企
と、
地方政府系=地方国有企業
というふたつの系統がある、と考えるとわかりやすい。

ただし、地方国有企業だから央企より企業として「下」という意味ではない。これは企業規模や技術力の格付けではなく、国有資本の所属・管理体系が違うという話である。

そして、この中央と地方の違いとは別に、もうひとつ「一級」「二級」という分類がある。

「一級」「二級」は会社の格付けではない

ここが中国の国有企業を理解するうえで少々ややこしいところだ。「一級国企」「二級国企」という言葉を最初に聞くと、「一級メーカーの方が二級メーカーより格上なのか?」と思ってしまう。

そうではない。
これは売上高、技術力、生産台数、ブランド力などを評価したランキングではなく、国有資本の出資・管理上の階層を示す言葉である。

今回、中国在住の自動車ジャーナリストにこの記事を読んでもらったところ、この点について非常にわかりやすい説明を送ってくれた。

その資料では、一級国有企業を、国務院国資委、あるいは省・市の国資委が直接、出資者としての職責を履行するグループ企業、二級国有企業を、その一級企業が直接支配する傘下企業として整理している。

つまり重要なのは、「中央か地方か」と「一級か二級か」は別の話だということである。
中央にも一級、二級がある。
地方にも一級、二級がある。

中国側の資料では、中央ではFAW、Dongfeng、中国長安を一級央企、地方ではSAIC、広汽工業集団、BAIC、江汽控股、奇瑞控股集団などを一級地方国有企業として整理している。

一方、その傘下に置かれる完成車会社や事業会社が二級企業になる。

国務院国資委も、中央企業の傘下企業について「产权级次(産権級次)」という情報を公開しており、企業が国有資本の階層のどこに位置するのかを確認できる仕組みを設けている。

この構造を図にすると、中国の国有自動車メーカーはずっと理解しやすくなる。

同じ安徽省でもJACとCheryは違う

地方国有企業の仕組みを理解するうえで、面白い例が安徽省にある。

JAC(江淮汽車)とChery(奇瑞汽車)だ。
JACの本拠は省都・合肥。
Cheryの本拠は蕪湖。
どちらも安徽省を代表する自動車メーカーである。

では、同じ安徽省の国有系自動車メーカーなのだから、同じ系列なのだろうか。
そうではない。

中国側から送られてきた資料では、JACの上位にある江汽控股は安徽省国資委が直接監督する省属一級国有企業。一方、奇瑞控股集団は蕪湖市を基盤とする市属一級国有企業として整理されている。

つまり、
JAC=安徽省レベル
Chery=蕪湖市レベル
という違いがある。同じ安徽省に本拠を置く国有系自動車メーカーでも、国有資本の系統は異なるのである。

さらにCheryは資本構成も多様化している。2025年9月には奇瑞汽車股份有限公司が香港証券取引所に上場した。中国証監会の上場届出資料からも、蕪湖市投資控股集団など複数の国有系株主だけでなく、さまざまな投資主体が株主として存在することが確認できる。

この例だけでも、中国メーカーを単純に「国有/民営」のふたつに分けるだけでは、実態を十分に説明できないことがわかる。

BYD、Geely、Great Wall――民営企業も中国自動車産業の主役

一方、現在の中国自動車産業を語るうえで欠かせないのが民営企業である。
その代表格がBYDだ。

本拠地は深圳。もともとバッテリー事業を中心に成長し、そこから自動車産業へ進出した企業である。
Geely(吉利汽車)も重要だ。

浙江省を基盤に成長した民営企業であり、自動車事業への参入後、急速に規模を拡大した。
さらに河北省・保定を本拠とする長城汽車(Great Wall Motor)も、中国を代表する民営自動車メーカーである。

20年以上前、中国自動車産業を見る際に中心となっていたのは、巨大国有メーカーと海外メーカーが組んだ合弁会社だった。現在は違う。

BYD、Geely、Great Wallといった民営メーカーが、中国自動車産業の重要な主役となっている。

NIO、XPeng、Li Auto……「新勢力」は別の分類軸

そこへ2010年代以降、新しいプレイヤーが登場した。
中国で「造車新勢力」などと呼ばれる新興自動車メーカーである。

NIO(蔚来)、XPeng(小鵬)、Li Auto(理想)、Leapmotor(零跑)などが代表例だ。

BEVやレンジエクステンダーEVなどの電動車を軸に、ソフトウェア、ADAS、スマートコックピット、OTA、ユーザーとの関係などを重視してきた。

ただし、ここで注意したい。
「新勢力」と「民営企業」は同じ分類ではない。
国有か民営かは、
「誰が所有・支配しているのか」
という資本・所有の分類である。

一方、新勢力か伝統的OEMかは、
「いつ、どのような背景から自動車産業へ参入したのか」
という企業の出自による分類だ。

このふたつを混ぜてしまうと、中国メーカーの分類は途端にわかりにくくなる。

そしてXiaomiとHuaweiまでやってきた

さらに現在の中国自動車産業を複雑に、そして面白くしているのがIT・テクノロジー企業の参入である。
象徴的なのがXiaomi(小米)だ。

スマートフォンや家電で知られるXiaomiが自動車へ参入し、中国のモーターショーでも大きな存在感を示すようになった。
さらにHuaweiがある。

ただしHuaweiは、Xiaomiと同じ意味で完成車メーカーと考えると実態を見誤る。Huaweiは自動運転支援、スマートコックピット、通信、電動化技術などを提供しながら、既存の自動車メーカーと組んで自動車ビジネスを展開している。

MAEXTRO(尊界)S800

筆者が2026年北京モーターショーで見たMAEXTRO(尊界)S800も、その象徴的な存在だった。

ここまで来ると、「中国には自動車メーカーが何社あるのか」という問い自体が、以前ほど単純ではなくなる。

中国自動車産業を見るための「四つの視点」

ここまでを整理してみよう。中国自動車産業を見るときには、四つの視点を分けて考えるとわかりやすい。

誰が所有・管理しているのか。中央政府系なのか、地方政府系なのか、民営なのか。

国有企業なら、国有資本の体系のどこにいるのか。一級なのか、二級なのか。

どこから自動車産業へやってきたのか。伝統的自動車メーカーなのか、新興NEV企業なのか、IT・テクノロジー企業なのか。

そして、
どこを本拠としているのか。長春なのか、武漢なのか、重慶なのか、上海なのか、広州なのか。

資本、階層、出自、地理。この四つを重ねると、複雑に見える中国自動車メーカーの姿がかなり見えやすくなる。

そして、この基礎構造を理解しておくと、現在中国で起きている自動車メーカー同士の提携や再編のニュースも、ずっと読みやすくなる。ただし、その話はもう少し先にしよう。

その前に、もうひとつ理解しておかなければならないことがある。
海外メーカーとの合弁関係である。
なぜトヨタは第一汽車と広州汽車なのか。
なぜホンダは東風汽車と広州汽車なのか。
なぜVolkswagenは上海汽車と第一汽車なのか。

そこには、中国が自動車産業を育成してきた歴史と、海外メーカーの中国進出をめぐる独特のルールがあった。
次回は、中国メーカーと日本をはじめとする海外メーカーとの合弁関係を、基本から整理してみたい。

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