連載

あのコンセプトカー、どうなった?

2007年、トヨタが提案した「プリウスとは違うハイブリッド車」

Hybrid-X

2007年3月、スイス・ジュネーブで開催された第77回ジュネーブモーターショー。トヨタのブースには、鮮やかなブルーのコンセプトカーが展示されていた。

「Toyota Hybrid X(トヨタ・ハイブリッドX)」である。

フロントからリヤまで滑らかにつながる独特のシルエット。大きく傾斜したフロントウインドウ、長く伸びたルーフ、大径ホイール。ひと目で未来的なハイブリッド車とわかるスタイルだった。

Hybrid-X

しかし、当時のトヨタのハイブリッド車といえば、プリウスである。1997年に初代が登場し、2003年には2代目へと進化。2007年には、2代目プリウスがトヨタのハイブリッド技術を象徴するモデルとなっていた。

そのプリウスとHybrid Xを並べてみると、同じメーカーのハイブリッド車とは思えないほどプロポーションが異なっている。

では、トヨタはHybrid Xで何を提案しようとしていたのだろうか。

2代目プリウスと比較すると、Hybrid Xの狙いが見えてくる。

2代目プリウスとHybrid Xのサイドビュー比較

まず、2003年に登場した2代目プリウスとHybrid Xを真横から比較してみよう。

2代目プリウスは、空力性能と室内空間を両立させた特徴的なトライアングルシルエットを採用していた。

フロントウインドウからルーフへとつながるラインは滑らかだが、ルーフの頂点からリヤへと下降する形状によって、全体として三角形に近いシルエットを形成している。

一方のHybrid Xは、フロントウインドウの傾斜がさらに強く、ルーフがリヤエンド近くまで長く伸びている。ャビン全体を前後に引き伸ばしたような形状だ。

ボディサイズを比較すると、その違いはさらに明確になる。

2代目プリウス
全長×全幅×全高:4445mm×1725mm×1490mm ホイールベース:2700mm
Hybrid X
全長×全幅×全高:4500mm×1850mm×1440mm ホイールベース:2800mm

全長の差はわずか55mm。しかし、Hybrid Xは全幅が125mm広く、全高は50mm低い。ホイールベースも100mm長い。つまり、ほぼ同じ全長でありながら、まったく違うプロポーションを実現していたのである。

Hybrid-X

さらに、タイヤとボディの関係も異なる。

2代目プリウスは比較的小さなタイヤと背の高いキャビンによって、室内空間を効率よく確保した実用車という印象を与える。

一方、Hybrid Xは大径ホイールをボディの四隅に配置。低い全高と長いホイールベースを強調し、伸びやかでスタイリッシュなプロポーションを実現している。

Hybrid-X ドアはいわゆる観音開きタイプである。

ただし、Hybrid Xは4人乗りのコンセプトカーであり、5人乗りの量産車であるプリウスとは設計上の条件が異なる。

それでも、トヨタが2007年の時点で、従来のプリウスとは異なるハイブリッド車のデザインを模索していたことは明らかだ。

ハイブリッドは、燃費をよくするためだけの技術ではない

Hybrid-X

Hybrid Xを開発したのは、フランスにあるトヨタの欧州デザイン拠点ED²(Toyota Europe Design Development)である。

2007年のトヨタの公式発表では、Hybrid Xは将来のハイブリッドモデルに向けた新しいデザイン言語を提案するとともに、将来技術を紹介するコンセプトカーと位置づけられていた。

特定の次期量産車を予告するモデルではなかったのである。

ここで、2007年という時代を振り返っておきたい。

トヨタが初代プリウスを発売したのは1997年。Hybrid Xが登場した2007年は、プリウス誕生からちょうど10年にあたる。

初代プリウスの登場時、ハイブリッド技術は環境性能を高めるための革新的な技術だった。

しかし、10年が経過した2007年、トヨタはハイブリッド技術を、単に燃費を改善するためのものではなく、新しいクルマの価値を生み出すための基幹技術として捉えるようになっていた。

そのことを象徴するのが、同じジュネーブモーターショーに展示された、もう1台のハイブリッドコンセプトカーである。

「FT-HS(Future Toyota Hybrid Sports)」だ。

FT-HS(Future Toyota Hybrid Sports)

FT-HSは2007年1月のデトロイトショーで世界初公開されたFRスポーツカーで、3.5L V型6気筒エンジンと次世代ハイブリッドシステムを組み合わせ、約400hpの最高出力を目標としていた。

Hybrid Xが新しいデザインと快適な室内空間を追求したのに対し、FT-HSはハイブリッド技術によってスポーツカーの走る楽しさを高めようとしていた。

性格の異なる2台を並べたことに、当時のトヨタの考え方が表れている。

ハイブリッドは低燃費車のためだけの技術ではない。ハイブリッド技術によって、さまざまな種類のクルマをつくることができる。

Hybrid Xは、その可能性をデザインの面から示したモデルだったのである。

直6+FR、ロングノーズ・ショートデッキ。スポーツカーの文法通りでA90スープラへ結実したあのクルマ | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

FT-HS→FT-1→これがA90スープラに FT-1は”よりエモーショナル”なスポーツカーデザインを模索するなかでその可能性のひとつを示すべくデザインされたクーペコンセプトだ。 デザインを担当したのは、当時、創立40周 […]

https://motor-fan.jp/article/1394788/

3代目プリウスにはならなかったHybrid X

3代目プリウス
3代目プリウス

Hybrid Xの発表から約2年後、2009年に3代目プリウス(30系)が登場した。

では、Hybrid Xは3代目プリウスのデザインを予告していたのだろうか。結論からいえば、少なくとも外観を見る限り、そう単純な関係ではなさそうだ。

3代目プリウスは、2代目で確立したトライアングルシルエットを継承しながら、空力性能と室内空間を進化させたモデルだった。

全長4460mm、全幅1745mm、全高1490mm、ホイールベース2700mm。

Hybrid Xと比較すると、全幅は105mm狭く、全高は50mm高い。ホイールベースも100mm短い。

つまり、3代目プリウスはHybrid Xのようなワイド&ローのプロポーションではなく、従来型プリウスのパッケージングを発展させる道を選んだのである。

2015年に登場した4代目プリウス(50系)も、全高を1470mmまで下げるなどプロポーションを変化させたものの、基本的には従来からのモノフォルムを継承していた。

Hybrid X、3代目、4代目、5代目プリウスのサイドビュー比較(3代目プリウスは写真を左右反転しています)

こうして4台を並べてみると、Hybrid Xは3代目、4代目プリウスとは異なる方向性を持っていたことがわかる。

ただし、Hybrid Xのデザインが量産プリウスの開発にまったく影響を与えなかったと断定することもできない。

両者のデザイン開発の具体的な関係については、確認できる資料が限られているからだ。

リヤまわりには、プリウスαとの共通点も

Hybrid-X
プリウスα

Hybrid Xのサイドビューやリヤビューを眺めていると、別のプリウスも思い浮かぶ。

2011年に登場したプリウスαである。

プリウスαは、3代目プリウスをベースに室内空間を拡大したワゴンタイプのモデルだ。

Hybrid Xとプリウスαを比較すると、リヤまで伸びたキャビンと、大きなリヤクォーターのボリュームに共通する雰囲気がある。

Hybrid Xは、後席より後方にも長くルーフを伸ばし、キャビン全体の広がりを強調している。

一方、プリウスαは実用的な室内空間を確保するため、ルーフを後方まで延長した。

両車の狙いは必ずしも同じではないが、空力を意識したモノフォルムと広い室内空間を組み合わせようとした点では、共通するものがある。もちろん、Hybrid Xがプリウスαのデザインに直接つながったという証拠はない。

しかし、Hybrid Xが描いたハイブリッド車の未来像には、後年のプリウスファミリーと重なる要素が見られるのである。

Hybrid Xとプリウスαのリヤ斜め後方比較

15年後の5代目プリウスに、Hybrid Xの面影がある

5代目現行プリウス

そして、Hybrid Xのサイドビューを改めて眺めると、もう1台、思い浮かぶクルマがある。

2022年11月に発表された5代目プリウスである。

5代目プリウスは、従来型からプロポーションを大きく変えた。

トヨタの発表資料によると、全高を40mm下げ、ホイールベースを50mm延長。タイヤ径は53mm拡大し、19インチの細幅大径タイヤを採用した。

さらに、ヒップポイントを50mm下げながら、前後席間距離は8mm拡大している。

低く、スポーティなプロポーションを実現しながら、室内空間にも配慮していたのである。

トヨタは、このデザインの狙いを「よりスタイリッシュなプロポーションへの進化」と説明している。

ここで、Hybrid Xと5代目プリウスを真横から比較してみよう。

Hybrid Xと5代目プリウスのサイドビュー比較

両車のボディサイズを並べると、興味深いことがわかる。

Hybrid X
全長×全幅×全高:4500mm×1850mm×1440mm ホイールベース:2800mm
5代目プリウス
全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm ホイールベース:2750mm

5代目プリウス

全長は5代目プリウスのほうが100mm長いが、全高の差はわずか10mm。ホイールベースも50mmしか違わない。

サイドビューを見ると、両車ともノーズが低く、フロントウインドウが大きく傾斜している。

そして、ルーフからリヤへと滑らかにつながる、伸びやかなシルエットを持っている。

ただし、よく見ると違いもある。

Hybrid Xはルーフを後方まで長く伸ばし、キャビンの広さを強調している。一方、5代目プリウスはルーフ後半をより強く下降させ、スポーティな印象を際立たせている。

同じような全高でありながら、Hybrid Xは室内空間の広がりを、5代目プリウスはスタイルの美しさを、より強く表現しているように見える。

しかし、2007年のコンセプトカーと2022年の量産車が、これほど近いディメンションを持っていることは、やはり興味深い。

「HYBRID REBORN」が目指したもの

5代目プリウス 全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm ホイールベース:2750mm

5代目プリウスの開発テーマは「HYBRID REBORN」。

トヨタはその車両コンセプトを「HEVを変えるために、自身が生まれ変わる」と説明した。

そして、商品に込めた思いとして掲げたのが、「一目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」である。

従来のプリウスは、環境性能や燃費のよさが大きな商品価値だった。しかし5代目プリウスは、デザインや走りの魅力をより強く打ち出している。

環境性能だけではなく、クルマそのものの魅力によって選ばれるハイブリッド車を目指したのである。

ここで思い出したいのが、2007年のHybrid Xだ。

当時のトヨタは、ハイブリッド技術を単なる燃費改善のための技術ではなく、新しい車両コンセプトを実現するための技術として位置づけていた。

Hybrid Xは、その考え方をデザインによって表現したモデルだった。

Hybrid-Xのインテリア
5代目プリウスのインテリア

そして15年後、5代目プリウスは「HYBRID REBORN」を掲げ、スタイルと走りを重視する新しいハイブリッド車へと生まれ変わった。

両車の間に直接的なデザイン上の継承関係があったかどうかはわからない。

しかし、ハイブリッド車を環境性能だけで語らず、美しいプロポーションや新しい価値を持つクルマとして提案しようとした点では、両車の思想には共通するものがある。

Hybrid Xは、結局どうなったのか?

Hybrid-X
Hybrid-X

2007年のジュネーブモーターショーで発表されたHybrid Xは、その姿のまま量産車になることはなかった。

2年後に登場した3代目プリウスは、従来からのトライアングルシルエットを継承した。2015年の4代目プリウスも、その基本的な方向性を引き継いだ。

しかし、2022年に登場した5代目プリウスは、従来とは大きく異なるプロポーションを採用した。

低く、伸びやかで、スタイリッシュなハイブリッド車。

その姿は、2007年にHybrid Xが描いた未来像と、どこか重なっている。

もちろん、Hybrid Xが5代目プリウスの直接の原型だったわけではない。

15年という時間のなかで、ハイブリッド技術も、車両の設計技術も、そしてクルマに求められる価値も変化している。

それでも、Hybrid Xが2007年に提示した「ハイブリッド車は、もっと魅力的なデザインを持つことができる」という考え方は、15年後のプリウスにも通じるものがある。

Hybrid Xは量産車にはならなかった。しかし、その提案は決して時代外れのものではなかった。

2007年にトヨタが描いた未来のハイブリッド車。その答えのひとつが、15年後の5代目プリウスの姿に見えてくるのである。

Hybrid-X

連載 あのコンセプトカー、どうなった?

by MotorFan
カーデザイン 2時間前

2007年のトヨタ「Hybrid X」は未来のプリウスだった? 15年後の5代目プリウスと比較してわかった意外な共通点

by MotorFan
カーデザイン 2026.10.11

フィットがあったのに、ホンダはなぜ作った? 幻のコンセプトカー「GEAR」が示したもうひとつの未来

by MotorFan
カーデザイン 2026.10.04

新型BMW 3シリーズはなぜi3と同じ顔なのにプロポーションが違う? Vision Neue Klasseから見えてきたBMWの次世代戦略