ジャイロXから8年。“屋根付き”という新たな答え【ホンダ・ジャイロキャノピー】

HONDA ジャイロキャノピー|1990年発売

ジャイロキャノピーの話をするなら、まずは「ジャイロ」の歩みを少しだけ振り返っておきたい。

シリーズの始まりは1982年(昭和57年)のジャイロX。車体を傾けて曲がれるスイング機構を持つ三輪車として登場し、1985年(昭和60年)には荷台を低く広く取ったビジネス向けのジャイロUPが仲間入りした。

そして1990年(平成2年)。ジャイロシリーズ第3のモデルとして登場したのがジャイロキャノピーだ。

最大の特徴は、見れば一発でわかるルーフ一体式の大型ウインドスクリーン。しかも、ただ屋根を付けただけじゃない。スクリーンには電動ウォッシャー付きダブルリンク式ワイパーまで備えている。

「スクーターにワイパー!?」とツッコミたくなる装備だが、ホンダが想定していたのは都市部で広がっていた宅配や巡回サービスなど。二輪車の機動性や省スペース性を活かしながら、雨や風の影響を減らして仕事を続けられるように考えられた、かなり真面目な“働く三輪車”なのだ。

エンジンは、49cc空冷2ストローク単気筒で、最高出力5.3ps。速さを追いかけるのではなく、ビジネス車として低・中速域で粘り強く走れる特性を重視している。無段変速のVマチックとの組み合わせで、ストップ&ゴーの多い街中でも扱いやすい。

さらに旋回時には、ディファレンシャルギアが左右後輪の回転差を調整。車体を傾けられるスイング機構と組み合わせることで、三輪ながらバイクのようにリーンして曲がれるのもジャイロならではだ。

仕事道具としてうれしいのが「ワンタッチ・パーキング機構」。ハンドル中央下のレバーを操作すれば、スイング機構と減速機を同時にロックでき、一般的なバイクのようにメインスタンドを掛ける必要がない。乗る、停める、荷物を渡す、また走る……。そんな配達仕事の繰り返しまで、ちゃんと考えられている。

【SPECIFICATIONS】
総排気量:49cc
エンジン:空冷2ストローク単気筒
最高出力:5.3ps/7000rpm
最大トルク:0.57kgm/6500rpm
全長×全幅×全高:1895×650×1680mm
重量:131kg(ワゴン)/128kg(デッキ)
タイヤ:4.00-12・130/90-6
発売当時価格:41万970円(ワゴン・税込)/39万5520円(デッキ・税込)

荷台にする? 62Lボックスにする?

初代ジャイロキャノピーには、「デッキタイプ」と「ワゴンタイプ」の2種類が用意されていた。

初代ジャイロキャノピーのデッキタイプ。後部はフラットな荷台となっており、載せる荷物や用途に合わせて自由に使えるのが魅力。屋根+ワイパーという基本装備はもちろん共通だ。

いっぽうワゴンタイプには、大容量62Lのキー付きトランクを車体一体型で装備。雨やホコリから荷物を守れて、しかもカギまで掛けられる。屋根付きの車体と組み合わせれば、宅配やサービス業にはかなり頼れる存在だ。

真横から見ると62Lトランクの大きさがよく分かる。それでも車体幅は650mm。大きな荷物スペースを確保しながら、街中で扱いやすいサイズに収めている。

燃料タンクも7.3Lと大容量。給油回数を減らせるのも、一日中走る仕事なら立派な性能のひとつだ。

屋根、ワイパー、荷物スペース、大容量タンク、そして停めやすいパーキング機構。ひとつひとつは地味でも、全部合わせると「仕事で毎日使いやすい」にきっちりつながっている。

2ストから4スト、そして電動へ。それでも“キャノピーらしさ”は変わらない

ジャイロキャノピーは、1990年に完成した基本コンセプトが、その後も長く受け継がれている。

1993年、1996年、1999年と改良を重ね、2008年(平成20年)には、それまでの2ストロークから水冷4ストロークOHC4バルブエンジンへ大きく変更。電子制御燃料噴射のPGM-FIも採用され、燃費や環境性能を高めながら、働く三輪車(スリーター)として進化を続けた。

さらに2021年(令和3年)には、交換式バッテリーを使う電動三輪スクーター「GYRO CANOPY e:」まで登場。動力源がエンジンからモーターに変わっても、大型スクリーンとルーフ、ワイパー、スイング機構、荷物を積むデッキという基本思想はしっかり受け継がれている。

1982年のジャイロXから始まり、ジャイロUP、ジャイロキャノピー、そして電動へ。40年以上にわたって三輪という個性を磨き続けてきたシリーズなのだ。

5色から選べる「カラーオーダープラン」も

2002年に設定されたカラーオーダープラン。レッド、イエロー、オレンジ、ブルー、ブラックの5色を設定。“働くバイク=白”だけじゃない、企業カラーにも合わせやすい楽しい展開だった。

長い歴史の途中には、こんなおもしろい展開もあった。

2002年(平成14年)、ジャイロキャノピーに「カラーオーダープラン」が登場。ブラック、ファイティングレッド、レインボーブルー、クリッパーイエロー、クロームオレンジという5色が用意された。

狙いは、多様化するビジネス用途や企業からの要望への対応。会社や店舗のイメージカラーに合わせれば、広い車体面を使った広告や店名表示とも相性がいい。

しかも、この時点でジャイロキャノピーの累計販売台数は6万2600台。登場から10年以上を経て、“変わった屋根付き三輪”ではなく、街で働く定番車としてしっかり根付いていたことが分かる。

初代登場から30年以上。形やエンジン、そして動力源まで変わってきたのに、「雨の日でも働ける」「街中で小回りが利く」「荷物をしっかり運べる」というキャノピーの役割はブレていない。

あまりに街に溶け込んでいるから普段は意識しないけれど、改めて初代を見ると基本スタイルは驚くほど完成されている。雨の日にジャイロキャノピーが横をスイスイ走っていったら・・・・・・やっぱりちょっと屋根が欲しくなりません?

※この記事は月刊モトチャンプ2025年12月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】