魅力的なコースで911を試せる好機

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京は4周年を迎えた。

ポルシェ・エクスペリエンス・センター東京(PEC)を走るのは今回で2回目。都心から1時間もあればアクセスできる千葉県木更津市という立地の良さに加えて、欧州のカントリーロードをイメージして設計された1周2.1km、高低差30~40mのコースは、ニュルブルクリンクのカルッセルやアメリカのラグナセカのコークスクリューなどのコーナーを一部にレイアウトし、路面も昔のニュルブリンク同様に一般舗装に近い。

ポルシェ・ファンならずとも自分の腕を試したくなるような、チャレンジングで魅力的なコースで、個人的にもここを走れることを密かな楽しみにしていた。

しかも、今回は主役の911の試乗である。一般来場者同様に隣にインストラクターが同乗するため、インカーカメラからの情報を発信できないのは残念だが、専門家がいてくれるおかげで、コースのことはもちろん、試乗車の性能把握もしやすく、ありがたい。

911初のハイブリッドモデル「GTS」

最新のポルシェ911を最高の舞台で思い切りドライブできる。これは最高の機会だ。

このカレラGTSはポルシェ911初のハイブリッドモデルだ。HEVシステムを組み合わせるためにエンジン高を110mm低くし、3.0Lから3.6Lにスケールアップした水平対向6気筒ユニットは、世界耐久選手権で培われたポルシェ919ハイブリッド技術を組み合わせることで、システム総合出力では実に541ps、610Nmのパワースペックを誇る。最高速度は312km/h・0-100㎞/h加速3.0秒だ。

注目すべきポイントは電動化の徹底だ。8速PDKに組み合わせた電動モーターは400Vのリチウムイオン電池と組み合わせることでおよそ54psのパワーと300Nmのアシストとエネルギー回収を実現。モーターアシストの効果を期待できることで、ターボは高回転域のサポートに集中させてタービン軸に最大20kWの出力と11kWの電力回生を可能にした電動シングルターボを採用。PDK一体化モーターとeターボユニットによって全回転域で電動化による恩恵を受け、環境性能と同時に高い動力性能を両立させた。

その効果もあってか、走りは従来同様にダイレクト感があって力強い。低速域での切れ味や回転落ちの鋭さはやや薄く感じられるものの、実用域でのトルク感は太くてスタートダッシュからズシリと背中を押す。リヤ荷重がしっかりとかかっていることから、ウエットコンディションにもかかわらず、わずかなスリップを許容した直後には、グリップを回復させて一気に加速体制に入る。

モーターアシストの効果もあって、太くて滑らかなトルクを中速域近くまでキープしつつ、モーター領域の一線を越えると、フラットシックスの切れ味が目を覚まして、一気にピークパワーへと飛び込んでいく。

待ちに待った本命ポルシェ911でのコーストライは、滑りやすい路面にもかかわらず、このパワーフィールが大きな助けとなり実に心地よい。前半は鈴鹿を模したというのぼりのS字コーナーが続くが、低中速域の粘り強さと滑らかさによって、旋回速度を維持しやすい。コーナー後半で絞り込まれているようなラインでも、右足の力をスッと抜くだけで繊細にパワーが抑えられレコードラインをキープ。エンジン車の燃焼行程をモーターがマイルドにしてくれているようなスムースさが助けとなる。

ポルシェ911 カレラGTS(992.2 Carrera GTS)車両価格:2379万円

もちろんコーナー脱出時の加速は大いに刺激的だ。3500rpmを超えるあたりからは、すべてのデバイスを振り切るかのようにエンジン回転は弾ける。7000rpmオーバーまで一気に上昇し、PDKは間髪入れずにシフトアップ。ショックが少ないのはモーターが介在している効果もあろう。滑らかでありながらピークパワーをキャッチし続ける。

そんな時もボディはフラットで安定している。パワーの蹴り出し感によってフロントの接地感を低減させることなくフラット感をキープ。加速旋回中の安定感は従来よりも増している印象で、操舵に対する不安感はいささかも感じられない。どこまでも踏み続け、遠慮なくコーナーに飛び込んでいけるのだ。

カルッセルもコークスクリューも本場のレイアウトとは逆向きながらも飛び込みから立ち上がりまでラインに自由度がないことに変わりはない。そんな状況でも安心して操舵できる。スケール的には現地と同寸と聞くが、ややコンパクトなラインでトレースしていっても不安定さは微塵も感じられなかった。

本来であればダイナミックなコースゆえに多少のためらいがあってしかるべく環境ながら、即座にポテンシャルを試すことができたことが基本性能の高さを如実に表している。電動化によるパワーの引き出し易さと、わずか50kg増に抑えられたボディは正確なハンドリング性能をそのままに安定感を一層向上させたことが大きい。

滑りやすい路面での体験もできる。

もっとも滑りやすい特設環境下でカウンターステアのメニューやリヤを強制的に滑らせる極限体験シーンにおいては、急な滑りに対してドライバーが対応しきれない経験をし、リヤ駆動、大パワーモデルの牙を向けられたことも確か。それでもゆっくりとスピンモードに入っていってくれたり、接地性は常に感じ取れるなど、過渡領域の穏やかさには感心した。タイヤのサイズアップやリヤ操舵の効果が大きい印象で、ドライバーに寄り添うアップデートは大きなサポートとなった。

街中でも過酷なサーキットシーンでもドライバーがいつでもご機嫌でいられるハイパフォーマンスカー。最新911カレラGTSをひと言で表すならこれに尽きる。911初のHEVモデルは環境性能ばかりではなくドライバーにとっても広いレンジで対応してくれる万能モデルとして、価格以外は距離感がグッと縮まった。もっと乗っていたい。そんな911である。

ポルシェ911GTS
全長×全幅×全高:4555mm×1870mm×1295mm
ホイールベース:2450mm
車重:1620kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rマルチリンク式
駆動方式:RWD
エンジン
形式:水平対向6気筒DOHCターボ+モーター
型式:
排気量:3591cc
ボア×ストローク:97.0mm×81.0mm
圧縮比:13.9
最高出力:485ps(357kW)/7500rpm
最大トルク:570Nm/2300-5000rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:63L
モーター出力:41kW
システム出力541ps/610Nm
トランスミッション:8速DCT+モーター
車両価格:2379万円