アストンマーティンが開発を進める高性能モデル『ヴァンキッシュ S』が、ニュルブルクリンクで再び目撃された。チューニングが施されたV12エンジンを搭載するだけでなく、開発車両には思わず二度見してしまうような排気レイアウトが採用されている。

現行『ヴァンキッシュ』のハードコアモデルとみられるこのプロトタイプは、以前からテストが続けられており、5月にもニュルブルクリンクで走行する姿が確認されていた。今回も巨大なエアロパーツとともに、まるで“8本出し”にも見えるテールパイプが装着されており、その真意に注目が集まっている。

■本当に8本出しなのか? 開発車両が示した新たなヒント
プロトタイプを見ると、通常のヴァンキッシュと同じリヤホイール後方の左右2本に加え、ディフューザー中央付近にも左右2本、さらにバンパー上部にも左右2本が確認できる。見た目だけなら合計8本のテールパイプを備えているようにも映る。
もっとも、市販車へそのまま採用される可能性は高くない。現段階では、排気経路や熱対策を検証するためのテスト用レイアウトであり、一部はダミーである可能性も指摘されている。最終的には中央下部の排気レイアウトへ集約されるという見方も有力だ。
ただし、この大胆なレイアウトには理由がある。
■高い位置のマフラーが抱える課題とは?
フェラーリやマクラーレンでは、高い位置に排気口を配置するレイアウトは珍しくない。しかし、それらの多くはミッドシップモデルであり、荷室をフロント側へ配置できるため、熱対策を比較的行ないやすい。
一方、ヴァンキッシュはフロントミッドシップレイアウトを採用するGTカーである。トランクはキャビン後方に位置するため、高い位置へ排気管を通せば、荷室スペースや熱処理との両立という新たな課題が生まれる。
実際、市販車として成立させるには、荷物への熱影響や積載性、さらにはオーナーが荷物を出し入れする際の使い勝手まで考慮しなければならない。今回のプロトタイプは、そうした課題を検証するためのテストカーという側面も強いのだろう。
■850ps級V12は“世界最強FR GT”を狙う
注目はエンジンにもある。現行ヴァンキッシュは5.2L V12ツインターボから824hp(835ps)と1000Nmを発生するが、“S”では限定モデル“ヴァレン(Valen)”譲りのチューニングが施され、最高出力は838hp(850ps)まで引き上げられるものと予想されている。これに合わせてシャシーやサスペンションも専用セッティングとなり、より鋭いハンドリングが実現される可能性が高い。
現段階で入手している情報では、0-100km/h加速は3.2秒前後、最高速度は345km/h近くまで向上する可能性もある。数値はあくまで予想ではあるものの、現行モデルを上回る動力性能を備え、“世界最強クラスのフロントエンジンGT”を目指しているものと考えられる。
トランスミッションは従来どおり8速ATを組み合わせ、後輪を駆動。デュアルクラッチではなくトルクコンバーター式ATを採用することで、圧倒的なトルクに対応しながら、GTカーらしい滑らかな走りも両立する狙いとみられる。
■“Speciale”や“Black Series”に対抗する存在となるのか?
近年、スーパースポーツメーカー各社は標準モデルをベースとしたハードコア仕様を次々と投入している。
フェラーリには“スペチアーレ”系モデル、ポルシェには“911 GT3 RS”、メルセデスAMGには“Black Series”が存在し、それぞれ空力性能やシャシー性能を極限まで磨き上げたフラッグシップとして位置付けられている。
今回のヴァンキッシュ Sも、アストンマーティンにとって同様の役割を担うモデルになる可能性が高い。単なる出力アップ版ではなく、空力、シャシー、熱対策まで徹底的に見直したサーキット志向のGTカーとして仕上げられることが期待される。
奇抜な“8本出し風”マフラーは確かに話題性十分だ。しかし、その本当の狙いは見た目ではない。850PS級へ進化するV12と、それを支える空力性能やシャシー性能こそが、このモデル最大の進化点なのである。正式発表では、どのような排気レイアウトへ落ち着くのかも含め、大きな注目を集めることになりそうだ。















