2.4L水平対向4気筒ターボとシンメトリカルAWDは有力な候補に
スポーツカー市場では、マニュアルトランスミッション(MT)の選択肢が年々減少している。なかでもAWD(四輪駆動)のホットハッチは希少な存在となり、「MT×AWD×高性能ハッチバック」という組み合わせを選ぶことは難しくなった。
その象徴がフォルクスワーゲン「ゴルフR」だ。従来は6速MTを選択できたが、2024年モデルを最後にMTを廃止し、現在は7速DSGのみとなっている。一方、トヨタ「GRカローラ」は1.6リッター直列3気筒ターボに6速MT、スポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を組み合わせる。ライバルが相次いでMTから撤退するなか、MTで操れるAWDホットハッチとしてGRカローラの存在感は一段と高まっている。

そんな状況に、スバルが新たな選択肢を送り込もうとしている。
2026年6月、富士スピードウェイで開催された「富士24時間レース」で、スバルは「スポーツ車両企画室」の取り組みを紹介。2027年までに「WRX with TY85 Transmission」「SUBARU BRZ Complete Car」「5-door Hatchback」という3台のスポーツモデルを投入する計画を明らかにした。

なかでも注目したいのが「5-door Hatchback」である。これは単純な「WRXのハッチバック版」ではなく、JAPAN MOBILITY SHOW 2025で公開された「Performance-B STI concept」の市販版として開発が進められているモデルだ。
スバル自身もWRXやBRZとは異なる新たな個性を持つモデルと位置付けている。かつてのWRXハッチバックがそのまま復活するわけではないが、水平対向エンジンやシンメトリカルAWDといったスバル独自の技術を生かした高性能5ドアとなれば、GRカローラのライバルとして気になる存在である。
提携するCGアーティスト、Nikita Chuicko氏が制作した予想CGでは、現行WRXを思わせるシャープなフロントマスクにワイドフェンダー、大型リアスポイラーを組み合わせた。正式なデザインではないものの、Performance-B STI conceptの市販化をイメージさせる仕上がりとなっている。
パワートレインの詳細はまだ発表されていない。ただし、スバルが現在持つ技術を考えれば、2.4リッター水平対向4気筒ターボとシンメトリカルAWDは有力な候補だ。そしてGRカローラと真正面から競うのであれば、もうひとつ気になるのがMTの存在である。
その可能性を感じさせる動きはすでに始まっている。スバルは2026年4月、600台限定のSTIコンプリートカー「WRX STI Sport♯(シャープ)」を発表。2.4リッター水平対向4気筒直噴ターボ「FA24」に6速MTとシンメトリカルAWDを組み合わせ、最高出力275ps、最大トルク350Nmを発揮する。現行WRXの日本仕様として初めて6速MTを採用したことでも注目された。
さらに2027年までには、かつてWRX STIにも採用され、高い耐久性と信頼性を持つ「TY85」型6速MTを搭載する「WRX with TY85 Transmission」をカタログモデルとして投入する計画もある。
ここから見えてくるのは、スバルが単にWRXへMTを復活させるだけではなく、再び「自分で操るスポーツカー」を強化しようとしていることだ。
もちろん、新型5ドアにTY85型6速MTが搭載されると決まったわけではなく、エンジンを含めた具体的な仕様も明らかになっていない。ただ、Performance-B STI conceptの市販化と並行して、WRXにも本格的な6速MT搭載車が準備されていることを考えれば、新型5ドアへのMT採用は十分に期待できる。
もし2.4リッター水平対向ターボ、6速MT、シンメトリカルAWDという組み合わせが実現すれば、1.6リッター3気筒ターボ+GR-FOURで武装するGRカローラに対し、水平対向エンジンの低重心とAWD技術を武器とする、異なる個性のホットハッチが誕生することになる。
日本市場への投入についても注目したい。Performance-B STI conceptは日本で披露され、スポーツ車両企画室の商品計画も富士24時間レースという国内イベントで発信された。日本導入やMT設定など未確定な部分は残るものの、スバルが再び「MTで操るAWDスポーツ」を強化し始めていることは確かだ。
MT×AWDという希少なカテゴリーで存在感を強めるGRカローラに対し、スバルはどのような回答を用意するのか。Performance-B STI conceptから生まれる新型5ドアは、その答えを示す重要な一台となりそうである。




