Q:最近、押し歩きしていると前輪あたりから「シャーシャー」と擦れるような音がするようになりました。これってブレーキの故障でしょうか?
東京都/YCシンスケさん
結論から言えば、軽い擦過音なら故障ではない。ディスクブレーキは、レバーを離したあともパッドとディスクのすき間がごく小さいため、ホイールを回したときに軽く触れて音が出ることがある。ただし、以前は気にならなかったのに急に音が大きくなった、押し歩きが重くなった、ブレーキ周りが異常に熱を持つ、といった変化まで出ているなら話は別だ。
ブレーキを離しても、パッドは大きく離れない
ディスクブレーキは、レバーを握るとブレーキフルードの圧力でキャリパー内部のピストンが押し出され、パッドが回転するディスクを挟んで減速する。いっぽう、レバーを離すと油圧が抜け、変形していたピストンシールが元の形へ戻ろうとする。その力でピストンもほんの少し引き戻されるため、パッドとディスクの間にはごくわずかなすき間ができる。
そのため、ホイールを手で回したときに「シャー……」と軽く擦れる音が聞こえること自体は珍しくない。「音がする=故障」ではないわけだ。ただし今回のように、前は気にならなかった音が最近になって出始めたなら、単なる擦過音なのか、それとも何かが強く当たっているのかを判断したい。

走行中はディスクが回転し、そのすぐそばにパッドがある。ブレーキを離しても両者のすき間はごく小さいため、軽い擦過音が聞こえることもある。
本当に問題なら、“音以外”にもサインが出る
ブレーキを掛けていないのにパッドがディスクへ強く当たり続け、制動力が残ってしまう状態を一般に「引きずり」と呼ぶ。軽い擦過音とは違い、押し歩きが以前より明らかに重い、ホイールを浮かせて回してもすぐ止まる、走行後に片側のブレーキだけ異常に熱を持つ、焦げたような臭いがする、といった症状が重なるなら点検したい。
ここで「ホイールが何回転すれば正常?」と数字で決めるのは難しい。パッドとディスクの接触だけでなく、ベアリングやオイルシール、リヤならチェーンや駆動系などの抵抗も車種によって違うからだ。大事なのは以前より明らかに重くなっていないか、ダブルディスク車の場合、左右で大きな差が出ていないか。いつもの状態からの変化を見るほうが分かりやすい。
引きずっているなら、“どこが戻れていない?”を見る
本当に引きずりが起きているなら、「どこかがスムーズに戻れていない」と考えると分かりやすい。まず見たいのがキャリパーピストン。ブレーキを使うたびに出入りするため、露出した部分に汚れがたまると動きが渋くなることがある。ピストンがスムーズに戻れなければ、パッドがディスクへ当たり続けやすくなる。

画像はブレーキを使うたびに出入りするキャリパーピストン。露出部に汚れやサビがたまると、動きが渋くなる原因になることもある。
普段のメンテでは、まずキャリパー周りの汚れや状態を確認したい。ピストン周辺を清掃するなら、シールを傷めるような強い溶剤や無理な作業は避ける。ピストンにサビや傷がある、動きが明らかに渋い、シール周りからフルードがにじむといった場合は、清掃だけで済ませず点検が必要だ。

ピストン周りの汚れを落としておくのもメンテのひとつ。力任せにこすらず、周辺の状態も一緒に確認したい。

画像は清掃後のピストン。表面の汚れを落とすと、サビや傷などの状態も確認しやすくなる。
片押し式のフローティングキャリパーでは、キャリパー本体がスライド部を動くことで反対側のパッドもディスクへ押し付ける。この部分がサビたりグリス切れで渋くなったりすると、片側だけ戻りにくくなり、パッドの偏摩耗や引きずりにつながることがある。ゴムブーツの破れやピンの腐食も見ておきたい。

片押し式キャリパーではスライド部の動きも重要。ここが渋いとキャリパーがスムーズに動かず、偏摩耗や引きずりにつながることがある。ブレーキ専用グリスを塗布する。
さらに油圧側にも原因はある。レバーやマスターシリンダー側がきちんと戻らなかったり、油圧が正常に抜けなかったりすれば、ピストンを押す力が残ることがある。レバーの戻りが悪い、タッチが以前と違う、ブレーキフルードが漏れているといった症状まであれば、音だけの問題とは考えないほうがいい。
パッドが減ったから“引きずる”わけではない
ここも誤解しやすいところ。ブレーキパッドが減ったこと自体が、引きずりの直接原因になるわけではない。パッドが摩耗すれば、そのぶんピストンは少しずつ外へ出るが、正常に作動していればブレーキを離したときには必要なだけ戻る。
ただし摩擦材が使用限度まで減れば話は別。摩擦材がなくなった状態で使えば、金属部分がディスクへ直接当たり、強い異音が出たり、制動力が落ちたり、ディスクまで傷めることがある。シャーシャー音がしても、パッドの摩耗だけが原因とは限らない。まず残量を確認し、左右や内外で減り方に大きな差がないかを見る。偏って減っているなら、ピストンやスライド部の動きが渋くなっていないかも確認したい。
“シャーシャー”だけで怖がらなくていい。でも変化は見逃さない
ディスクブレーキは、レバーを離した瞬間にパッドが大きく離れる仕組みではない。だから軽い擦過音なら、それだけで故障とは限らない。
でも今回のように、今まで気にならなかった音が最近になって聞こえるようになったなら、押し歩きの重さ、レバーの戻り、パッドの減り方、異常な発熱や臭いまで気にしたいところ。そこまで変化が出ているなら、ブレーキが正常に戻り切っていない可能性を考えたい。
軽いシャーシャー音なら、それだけで慌てなくても大丈夫。でも「前と違う」に気づけたなら、それは愛車を見直す良いタイミング。音をきっかけに状態を確認して、必要なら手を入れる。そんな積み重ねも、バイクと長く付き合う楽しさのひとつなんですよね。
【モトチャンプ編集部】
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