モーターの冷却を水冷ではなく油冷にした理由

スズキ e SKYのeアクスル

スズキは軽規格の電気自動車e SKY(イー・スカイ)を開発するにあたり、軽自動車のコンパクトなモータールームに入るeアクスルを自社開発することにした。eスカイが搭載するeアクスルはモーターとインバーター、減速機を一体化した、いわゆる3 in 1のユニットだ。生産も自社で、湖西工場で行なう。

eアクスルの前後方向の寸法をできるだけ詰めたい。そのためにはモーターの軸とデフの軸の距離をできるだけ短くしたい

限られたサイズのなかで衝突安全性を担保するためにもeアクスルの前後方向の寸法はできるだけ詰めたい。そのためにはモーターの軸とデフの軸の距離をできるだけ短くしたい。スズキがeアクスルを自社開発するにあたりコンパクト化を実現したキー技術は、モーターの冷却を水冷ではなく油冷にしたことである。水冷を採用した場合はモーターケースにウォータージャケット(冷却水路)を設けなければならず、そのぶんスペースが要る。オイルをモーターにかけることで熱を奪う油冷ならウォータージャケットを設ける必要はなく、そのぶんモーター軸とデフ軸の間を詰めることができる(モーター軸とデフ軸の間にカウンター軸を設けている)。

ちなみに日産サクラ(モーター+インバーター)もホンダN-ONE e:(3 in 1)も、BYDラッコ(モーター+減速機)も水冷である。小型乗用SUVタイプのEV、スズキeビターラが搭載するBluE Nexus製のeアクスル(3 in 1)は油冷。油冷のeアクスル自体は特段めずらしくないが、軽EV用としては希有な存在だ。

体格が小さいとトルクを出せない……だからスズキはこうした

10月6日に都内で行なわれたe SKYの発表会場には、eアクスルのカットモデルが展示されていた。現地にいた説明員によると、「見てもらいたいところをカットした」とのこと。モーターが収まる部分は大胆にカットされており、電磁鋼板やステーターコイルに向けてオイルを噴きつける噴射口が見えるようになっている。

巻線は、丸線ではなく平角線を使う。

ステーターコイルは平角線。eビターラのBluE Nexus製eアクスルのモーターはBluE Nexusの一翼をになうアイシンがインドの拠点で生産。現地に新たに設備を設ける必要がないこと、またコストの観点からステーターコイルに丸線を採用している。e SKYのモーターに高効率・出力密度アップにつながる平角線を採用したのは、「現在のモーターのトレンドを見て。今使える一番安くていいものを選んだ」とのこと。インバーターのパワー半導体にSiCを使わずIGBTとしたのも同様の理由だという。

モーター自体も小ささにこだわった。前後長を短くしたいので径を小さくしたい思いもあるが、左右方向も短くしたい。電磁鋼板の積み厚を増やせば磁力が発生する面積が増えてトルクが増える道理だが、これをやるとモーターが長くなってeアクスルの左右方向が長くなってしまい、タイヤ切れ角が犠牲になる。e SKYのウリは軽EV最小の最小回転半径4.4mである。取り回しのしやすさを死守するためにも積み厚は増やしたくなかったそう。

しかし体格が小さいとトルクを出せないので、大きな減速比としてタイヤ軸でのトルクを確保する考えだ。最高回転数は1万5000rpm、減速比は12.421。最大トルクは133Nmだ。競合する軽EVの最大トルク/減速比はサクラが195Nm/8.153、N-ONE e:は162Nm/11.001、ラッコは160Nm/10.48である。

車種最大トルク減速比計算上のトルク
スズキ e SKY133Nm12.421≒1652Nm
日産サクラ195Nm8.153≒1590Nm
ホンダ N-ONE e:162Nm11.001≒1782Nm
BYD ラッコ160Nm10.48≒1677Nm

モーターの軸、ベアリングの横に「ばね」の役割を果たすウェーブワッシャーが見える

カットモデルを見ると、モーターの軸、ベアリングの横に「ばね」の役割を果たすウェーブワッシャーが見える。モータの偏芯を抑えてモーターノイズを低減する狙いだ。ノイズ対策はインバーターのカバーにも施されている。裏面に施されているのでカットモデルではっきり確認するのは難しいが、ハニカム構造として剛性を高めるとともに、吸音材を貼って対策している。

左側面もきれいにカットされており、ギヤトレーンが良く見える。左(車両前方側)からモーター軸、カウンター軸、デフ軸の順に並んでいる。左下に見える黒い部品は電動オイルポンプだ。この部品でモーターを冷却するオイルを循環させる。モーターの熱を奪って熱くなったオイルを冷やすのは、eアクスル前面に設置されたヒートエクスチェンジャー。インバーターは水冷(IGBTは直接水冷式)で、役目を終えた冷却水は直接ラジエーターに向かわず、ヒートエクスチェンジャーでオイルを冷やした後にラジエーターに向かう。

軽自動車規格で充分な室内空間を確保し、衝突安全性を担保するには「自社開発でなければ無理だった」とeアクスルの開発を担当した技術者は話す。スズキの知恵と技術を結集した結果、コンパクトで高効率なeアクスルができあがった。