ホンダ・シティにモトコンポを積んでみた。|クルマと完全合体する原チャリ「モトコンポ」の魅力をおさらい

バイク好きなら一度は聞いたことのある、折り畳みバイク、ホンダ・モトコンポ。いまでは超プレミア価格のついたこのオンリーワンな80S原付を、登場した時代背景とともに、具体的な車載方法まで紹介しちゃうぞ!
PHOTOS●奥隅圭之

ホンダ×ヤマハの販売合戦から生まれた名車&珍車たち

ヤマハ・JOG。1983年に登場。それまで主に主婦層の足として認識されていたスクーターを全年齢に広めた立役者。速い、安い、軽いと三拍子そろったパッケージングの良さはその後のスクーターの基本コンセプトに大きな影響を与えた。スクーターでスポーツする、という概念はJOGから生まれたといっても過言ではない。

気軽で便利な乗り物として、80年代に国内バイク市場を席捲した50ccクラスの原動機付自転車、いわゆる原チャリ。一時は年間100万台以上を出荷するという、とんでもない勢いを持った「便利な乗り物」だった。80年代後期に免許を取った筆者は、友人知人で、原付に乗っていないヤツを探すのが難しかったほど普及していた記憶がある。

当時、ホンダ、ヤマハは日本国内の出荷台数一位を激しく競い合う中だった(世にいうHY戦争)。このため、80年代はライバルに先駆けるため、新しいコンセプトの原付が多数登場、数々の名車&迷車が生まれた時期でもあった。

ホンダ・DJ-1、ヤマハ・JOG、スズキ・Hiなどの名車のほか、水冷エンジン&排気デバイスを備えたホンダ・ビートや、超近未来的デザイン&ハイパー横置きシリンダーを採用したスズキのモードGTなどの迷車をご存じの方も多いだろう。

スズキ・モードGT。1987年に登場。当時のスクーターで主流だった縦置きシリンダーを横置きに変換。高いスペース効率と低重心化を実現し、90年代のスクーターエンジンレイアウトに大きな影響を与えた。足回りものちのスポーツスクーターでスタンダード化するテレスコピックフォークと油圧ディスクを装備。スタイリングも斬新。国内の旺盛な原付需要により、このような野心的なマシンの販売が可能だったのだ。

さて、当時のホンダは、ライバルのヤマハにないアドバンテージを持っていた。それは「クルマを生産している」ということだ。ホンダはこの利点を最大限に活用し、売れ筋の安い2ストモデルのほかに、クルマの持つ快適性や上質感、高級感をイメージした原付をリリースしていった。

それらには、80年代当時乗用車の分野で流行していた、デジタルメーターやリトラクタブル・ヘッドライト(スペイシー125ストライカーに装備)など、原付にはオーバークオリティかと思われる装備が投入された。ヤマハとの区別をより顕著なものとしていたのだ。

そんな豪華&乗用車ライクな原付をリリースしつつ、ホンダはさらに差別化の手を緩めることなく、車に積んでレジャーシーンを楽しめる小型の原付を開発。これをもって車とバイク、両方を持って生活を楽しんじゃおう、というライフスタイルを掲げた。これが世にいう「六輪生活」というコンセプトだ。いろんなものを開発できる、なんとも贅沢な時代だったといえる。

ホンダ・ストリーム。1981年登場。ホンダはエンジンスイングユニットを二輪化し、通常の2輪車にない安定性を手に入れた。ボンネット風のデザインと車のようなコンビライト、背もたれ付きシート形状を持ち、乗用車のイメージを持たせライバルとの差別化を図っていた。

ライバルがまねできない、二輪四輪同時開発

クルマに積める原付というと、真っ先に思い浮かぶのが同社モンキーだろう。折りたためるハンドル、車体が傾いても燃料が漏れにくい燃料タンクやキャブレター、マフラーとサイレンサーが極力車体からはみ出ないような設計など、車載に対しさまざまな配慮がなされていた。

しかし、そこでとどまるホンダではなかった。なんと車とバイクを同時開発し、「車載用」の原付を作ってしまったのだ。それがご存じ「モトコンポ」である。FF5ドアハッチバック、シティのラゲッジにぴったりとはまる超小型マシンを一から作り上げたのだ。

ホンダ・シティに積まれたモトコンポ。無駄な隙間なくラゲッジに収まっているのが分かるだろう。
ボディは極小ながら、保安部品も含め走行に必要な性能はきちんと確保されている。オーナーは平野さん。今年5月に埼玉県秋ヶ瀬公園で行われた「モトコンポミーティング」にて取材させてもらった。この組み合わせ、貴重です。

その作りは徹底していた。
まず車高。ハンドル、シートを折りたたみボディ内に収納すると、ちょうどシティのリヤシートバックと同じ高さになり、ドライバー後方視界を妨げない構造となっていた。
幅、長さはシティのラゲッジとほぼ同じ。テールデザインに至っては、シティのテールレンズの切り欠き形状と合わせるという徹底ぶりだった。
車体固定にはモトコンポ左サイドにある2か所の荷掛けフックを使用するが、当然ながらそのフックから伸ばしたタイダウンにぴったりと合う位置に、シティ側のフックが用意されている。
また、シティのリヤハッチを閉めると、リヤウインドウの右側に、モトコンポの車名ロゴがちらりと見えるようにデザインされているのもポイントだ。なぜ右側かというと、シティのリヤワイパーに被らない位置だからだ。このように、車と同時に、徹底的にデザインされた原付はモトコンポをおいてほかにない。

モトコンポのサイド部分にあるフックには、きちんと英語で「キャリング・ポイント」と記載されている、その位置に対応するシティ側のフックがある。
シティのハッチを閉めると、モトコンポのサイド上部にあるロゴがちらりと見えるように設計されている。クルマと同時開発だからできたデザインだ。

今なら「これで十分」と思わせる性能

モトコンポは走行の用意も手軽。覚えれば簡単至極だ。
まずモトコンポの車体上部のパネルを取り外して折り畳んでおく。次にハンドルを引き出し上部のノブを回し固定する。右のみに装備されたミラーを引き起こす。さらにシート前側についたレバーを操作しをポップアップさせ、最初に外したパネルを固定しステップを出せば完成だ。ちなみに、シートをポップアップさせないとエンジンがかからないという安全装置も備わっている。慣れれば3分かからず走りだせるだろう。

下ろした状態。なんだかラジカセみたいな外観。
キーで上部パネルを外す。中にハンドルが格納されている。
ハンドルを引き出し上部のノブを回しハンドルを固定。
シートをポップアップ。ミラー、ステップを引き出し、パネルを付けたら完成。簡単!

エンジンは子供用オフロード車、QR50ベースの横置きシリンダータイプ。平地で最高時速は40km/hにも満たない。しかしレジャー施設の周りをチョイ乗りする程度なら十分だ。いま街中を走っている、電動自転車や電動キックボードなどの低速モビリティよりもよっぽどスピードが出るので、一昔前よりも一般道での走行環境は向上しているはずだ。

モトコンポユーザーは、まずエンジン形状やサイズが似ているホンダの「カレン」エンジンにスワップし、パワーアップを図るのが通例だという。そこから先はオーナーのこだわり次第。これはいずれカスタム特集を組んでお伝えしたい。

1979年発売のホンダ・カレン。主婦向けのソフトバイクで横置きシリンダーの2ストエンジンを搭載。モトコンポの2.7PSに対し3.1PSを発揮する。現代まで使われるベルト駆動方式のオートマチックミッション。
1982年発売のホンダ・QR50(写真は海外仕様)。このエンジンがモトコンポのベースだが、ミッションが通常のベルト駆動ではなく、ケース内にチェーンを装備する1段ミッション。最高速が伸びない。
ステップコンポ。中央にヒンジがあり折りたたむことができる。

ちなみにホンダは、20数年前の2001年に「ステップコンポ」という、折り畳み式の電動アシスト自転車を販売した。新型ステップ ワゴンへの収納や車載中の充電を可能としており、その名の通りモトコンポの後継扱いだったのだ。原付が日常の足としての役目を終え、電動低速モビリティメインになった2023年の現在なら、結構需要があるのではないだろうか。


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