戦闘力アップは扱いやすさの向上!  2023年型ヤマハYZ125Xは勝つため・愉しむためにフルモデルチェンジを果たした!!

スポーツランドSUGOモトクロスコース(宮城県柴田郡)にてヤマハが開いた「2023年オフロードコンペモデル YZシリーズプレス試乗会」。注目のひとつは、2ストロークエンジンを搭載するクロスカントリーモデル『YZ125X』です。キーワードは“扱いやすさ”。開発陣が徹底追求しました!

REPORT●青木タカオ(AOKI Takao)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ一筋”でオフロードが楽しめる

ヤマハが展開するオフロードコンペティションモデル(公道走行不可)のラインナップは、モトクロッサー最高峰の『YZ450F』をはじめ、体重25kg以下を想定したキッズ向けファンバイク「PW50」まで充実し、年齢・レベルに応じて幅広いユーザーにステップアップ構造でオフロードライディングの魅力を提供して続けています。

写真は2023年型『YZ450F』。こちらのレポートはまた後日に!

子どもから大人まで、ビギナーから上級者まで、“ヤマハ一筋”でオフロードを楽しめる製品展開には目をみはるものがありますが、なかでもクロスカントリー競技車は技量や用途に合わせきめ細かくモデル設定がされ、海外仕様の「WR」も含めれば“よりどりみどり”と言ったところ。2023年式では『YZ125X』がフルモデルチェンジしました。

ヤマハYZ125X……748,000円(消費税込み)


日本のクロスカントリーのために開発されたエントリーモデルが『YZ125X』。『YZ125』をベースに、山間を駆け抜ける耐久レース向けに各部を最適化。スプリンターであるモトクロスレーサーをクロスカントリーマシンに仕上げるのにあたって、エンジンの出力特性や足まわりの味付けはもちろん、細部に渡ってきめ細かい部分で専用開発がされています。


ベース車両となる『YZ125』は、昨年17年ぶりにフルモデルチェンジを果たし、2ストロークエンジンを刷新しました。令和の時代に、まさかの2ストエンジン新作、しかもキャブレター仕様とあって、バイクファンらの間で話題となりましたが、ついに『YZ125X』も23年式でクロスカントリー向けに最適化された新パワーユニットを獲得。足まわりも日本専用セッティングが施されるなど、グレードアップされています。

実車をまず見て感じるのは、ヤマハYZシリーズらしいスタイリッシュさ。ブルーを基調に異なる色域の青を組み合わせた「トーン on トーン」のカラーリングで、フォークガードとラジエタールーバーには新色の濃紺(ダークブルーイッシュグレーメタリック7)が配され、アクセントとなっています。


ライダーアクションによって擦り傷がつきやすいシュラウドには、高品位で経年劣化も少ないインサートグラフィック工法が用いられているなど、見た目にも所有感を満たすもの。ただし競技車であるから、オーナーたちの目的のひとつは“レースで勝つ”こと。さぁ、乗ってみましょう!

求められるのは“扱いやすさ”


一般的にはクロスカントリーのコースは山野、夏場のスキー場などが使われ、スタートこそひらけた場所ですが、コースのほとんどは山間で入り組んだ地形の中、難セクションが続きます。

しかもコースの全長はかなり長く、ぬかるみ、急坂、がれ場、走り抜くだけでもハードで、転倒してしまえば体力を激しく消耗してしまいますから、いかにロスなく、スタックなどせず走行できるかがキモとなるのです。

そこで求められるのが“扱いやすさ”。2ストロークエンジンといえば、高回転域での伸びを持ち味としますが、ウッズセクションを『YZ125X』で走ると低中回転域から“粘り強くトルク”があり、ゆっくりと確実に森の中を駆け抜けられるではありませんか!

2スト125ccなのにある粘り強いトルク


2スト125ccクラスでは到底感じることのできなかった低中回転域での粘り強いトルクは、プロジェクトリーダー白井利幸さん(ヤマハ発動機PF車両ユニット PF車両統括部)によると、「燃焼室形状を変更し、圧縮比を見直したことで実現した」とのこと。


注目は、バルブ全開時に圧縮比を8.2→7.8に落としているのに対し、全閉時には10.1→10.2に若干上げているところ。YPVS(ヤマハパワーバルブシステム)のバルブ形状を最適化したことでポートタイミングが見直され、排気を遅らせたことによって粘り強いトルクを引き出すことを達成したのでした。

■圧縮比変更
バルブ全開時 YZ125:8.2→YZ125X:7.8
バルブ全閉時 YZ125:10.1→YZ125X:10.2

もちろん、2ストらしい伸びやかな高回転域もそのままで、菅生の大坂もいとも簡単に登るパワフルさも健在。低いギヤのまま引っ張り上げても高回転域のオーバーレブ特性に優れ、頭打ちすることなくパワーが引き出せます。

日本専用セッティングが嬉しい


扱いやすいと感じるのは、エンジンだけでなく、初期荷重からしなやかに動くスムーズなサスペンションの作動性もなくてはなりません。低速域から高速域まで、より幅広く対応する減衰特性が、乗りやすい、扱いやすいと感じさせてくれるのでした。

プロジェクトリーダー白井さんによると、「日本専用セッティングを施し、YZシリーズの中でもっとも柔らかいスプリングを使っています」とのこと。前後サスがよく動くため車体の挙動がわかりやすく、トラクション性にも優れます。


扱いやすいエンジンと日本専用セッティングが施された足まわりで、クロスカントリーのあらゆるシチュエーションに対応するマシンとなっていて、乗り手の技量を問わないのが秀逸としか言いようがありません。ライディングを学ぶにもうってつけです!

『YZ125X』ディテール解説

ウッズ、ガレ場、マディ、ダートなどで低中速度域を多用する走行シーンを想定。KYB製のフロントフォークには、日本仕様専用セッティングとしてソフトスプリングが組み込まれました。ブレーキキャリパーのピストンサイズはφ22.65mm→φ25.4mmに大径化。φ270mmのディスクローターはパッド接触面を約30%拡大しています。

競技専用車ならではのシンプルなハンドルまわり。従来どおりセルスターターは未搭載のため、あるのはクラッチレバー側にあるエンジンストップスイッチのみ。ブレーキレバーはストローク量を従来比で5mm増やし、コントロール性を高めました。

高回転域でのパワフルさをそのままに、低中回転域での扱いやすさを徹底追求した水冷2ストロークエンジン。シリンダーヘッドやYPVS(ヤマハパワーバルブシステム)、CDIユニットは専用パーツを用いています。

『YZ125』同様の後方ストレート吸気としたことで、高回転域での伸び感、優れたオーバーレブ特性を発揮するエンジン。実績があり、信頼性の高いアルミ製セミダブルクレードルフレームに搭載されます。

日立Astemo製のKEIHIN PWK38Sキャブレターもクロスカントリーモデルとして最適化を図った専用セッティングが施されました。低い速度域でも粘り強いトルクを発揮します。


リンク式のモノショックもKYB製で、日本仕様ではソフトスプリングを入れた専用セッティングが施されています。『YZ125』より前後ピッチが少なく、しなやかな減衰特性を実現することで、路面追従性に優れ、さまざまな過酷なセクションに対応。長丁場のレースでも疲れにくい足まわりとしました。

2次減速比3.846(スプロケット50/13T)は従来型『YZ125X』と変わりませんが、トランスミッションのギヤ比は『YZ125』に対し、5速と6速をロング化。スプロケットは軽量化され、バネ下重量の軽減を達成しています。

前後ともブレーキを刷新しているも見逃せません。リアディスクは形状が見直され、φ240mmに小径化されています。ストッピングパワーを維持したまま、システム全体で従来比約90gの軽量化を実現。前後タイヤはダンロップ製MX33を採用しました。

張り出しを抑えたマフラー。サイドカバー後方からフレッシュエアを直線的に導入するダクトがサイレンサーの上、シートエンドに見ることができます。

テスター:青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。最新バイク情報をビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説し、休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持されている。現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアにて執筆中、バイク関連著書もある。モトクロス専門誌「DIRT COOL」(三栄書房、現在休刊中)では、元ワークスライダーに走りを学ぶライテクコーナー生徒役としてもお馴染みだった。

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著者プロフィール

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青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。最新バイク情報をビギナーの目線に絶えず立ち返…