至れり尽くせりではないけれど。ツーリングも十分に楽しめる2代目ヤマハXSR900|1000kmガチ試乗3/3

第1/2回目を読んでいただければわかるように、2代目XSR900は独創的なルックスとスポーツ性重視したモデルである。とはいえ、ツーリングが楽しめないわけではないのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ヤマハXSR900……1,210,000円

メインフレームはMT-09と共通だが、シートレールは専用設計。サイドカバーの装着には、かつての耐久レーサーの定番だったDリングを使用。

ライディングポジション ★★★★★

アップライトなMT-09シリーズ/初代XSR900と比べると、コーナリング重視のロードスポーツ感が強くなっているものの(写真ではそう見えないが、乗り手としては上半身が適度に前傾し、下半身はややタイトになった印象)、ライポジのバランスは非常に良好。ただしシートのウレタンが薄くて硬いため、撮影を兼ねた約500kmツーリングの帰路では尻に痛みを感じた。なお初代XSR900のステップ位置はMT-09と同じだったが、2代目は低めのハンドル+シートと歩調を合わせるため、現行MT-09に対して、やや後方に移設されている。

近年のミドル以上のネイキッドの基準で考えると、シート高は低めの810mmなので、足つき性はなかなか良好。身長が160cm台のライダーでも大きな不安は感じないようだ(筆者の身長は182cm)。ちなみに開発陣がシートを低めに設定した背景には、安心感抜群のハンドリングを実現することに加えて、1980年代のGP500レーサーにライダーが跨った際の雰囲気、両足がべったり地面に接地している様子を再現しようという意図もあった模様。

タンデムライディング ★★★☆☆

車両のキャラクターから推察すると、タンデムライディングはあまり考慮していない……かと思ったが、運転手としての違和感は意外に少なめ。その印象は、タンデムライダーを務めた富樫カメランも同様様だったようだ。「タンデムステップ+ブラケットがワイドでも、見た目から想像したようなガニマタにはならなかったし、着座位置が高くても、加減速で身体が揺すられる感は希薄で、それどろこか前方視界が良好というメリットがあった。でもルックスを重視した座面は硬くて小さいから、ロングランはちょっと厳しいかな……」

取り回し ★★★☆☆

900cc前後のスポーツネイキッドとしては車重が軽い193kgだから、押し引きは決して重くないのだが、最小回転半径は初代XSR900+0.5mの3.5mに増加しているので、取り回しやUターンではそれなりに気を遣う。この感触はホイールベースを1440→1495mmに延長した弊害かと思いきや、ホイールベースがシリーズ最短の1430mmになった3代目MT-09も、先代+0.4mの3.4m。2代目XSR900と3代目MT-09は、単純にハンドル切れ角が減っているのだろうか。ちなみに、MT-09とXSR900の兄弟車となるトレーサー9GTは3.1m。

ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

前後位置が調整できるハンドルは、現代のスポーツネイキッドの定番になっているアルミ製テーパータイプで、グリップ位置は低く、絞り角は少な目。バーエンド式のバックミラーは、幅広さだけではなく、後方確認時の視線の移動量の多さも気になった。フロントフォークは突き下げが可能な構成。ラップッタイマー機能を備えるフルカラーTFTメーターはMT-09と共通で、視認性は非常に良好。ライディングモードやトラクション/スライド/リフト/ブレーキコントロールの設定変更は、すべてこの画面を通して行う。

左右スイッチ/レバー ★★★★☆

左右スイッチボックスはMT-09SPやトレーサー9GTと共通。クルーズコントール用ボタンが備わる左側は、ちょっと煩雑な印象。左右レバーホルダーには、オーソドックスなバックミラーが装着できそうな雌ネジが存在。

ブレーキマスターはYZF-R7や現行MT-10などと同様のブレンボラジアル。純正ブレンボの定番になっている“セミ”ではなく、アフターマーケット用と同じく、マスターシリンダー内のピストンとハンドルが90度で直交。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★★

ホールド感が抜群のガソリンタンク+カバーは、1980年代のワークスレーサーYZR500や、レーサーレプリカのTZR/FZRなどを思わせるデザインで、シングルシートカウル風のシートもYZR500風。なおシートに関しては、前述したように快適性はいまひとつだったものの、スポーツライディング中は適度な硬さが好感触だった。

左右ステップは、量産車では珍しい高さ調整機能を装備。ワインディングロードに的を絞るなら上位置がよさそうだが、フレンドリーさや守備範囲の広さを考えると、下位置を標準にしたのは正解だと思う。

積載性 ★★☆☆☆

荷かけフックの類は一切ないけれど、その気になればシートバッグを搭載できなくはない。とはいえ、タンデムシートの座面が小さいので安定性はいまひとつだし、何よりもルックスが残念なことになるので、ツーリング派はサイドバッグの装着を検討するべきだろう。純正アクセサリーとしてワイズギアが販売する、ソフトサイドバッグ+専用キャリアは2万9150+1万9250円(片側)。

シート下に空きスペースはほとんど存在しないものの、ETCユニットを収納することは可能。ガソリンタンクとシートの間にスキマが存在した1980年代のレーサーの雰囲気を再現するため、サイドカバーは前端で左右を連結するかのような、独創的な形状を採用。

ブレーキ ★★★★★

車体寸法やフロントマスターシリンダーの変更が功を奏しているのだろうか、フロントφ298mmディスク+ADVICSラジアルマウント式4ピストンキャリパー、リヤφ245mmディスク+ニッシン片押し式1ピストンキャリパーのブレーキは、同様の構成を採用するMT-09よりコントーラブルな印象。ABSはIMU(慣性計測ユニット)の介入ナシとアリの2種が存在し、どちらも作動感は至ってナチュラルだった。

サスペンション ★★★★☆

前後ショックの設定は、スポーツライディングにベストマッチ。豪華な雰囲気でフルアジャスタブル式のφ43mm倒立フォークだけではなく、ルックスは質素なリアショック(プリロードと伸び側減衰力が調整可能)もいい仕事をしてくれた。もっともツーリングでは少々硬さを感じたので、マニュアルに従ってソフトなセッティングにしてみたら……。何となく中途半端な印象で、好感触は得られなかった。

車載工具 ★★★☆☆

シートの裏面に備わる車載工具は、L型六角棒レンチ、、両口スパナ。差し替え式ドライバー、リアショックのプリロードを調整するフックレンチ+エクステンションバーの4点。奇しくも前回の当記事で取り上げたカワサキZ650RSと同じ点数だが、改めて考えると今どきの車載工具はだいたいこんな感じである。

燃費 ★★★☆☆

約1000kmを走っての平均燃費は、WMTCモードの公称値よりちょっと良好な21.3km/ℓ。ネットで調べると初代も2代目も、このバイクの燃費は20~25km/ℓ前後が一般的なようである。ガソリンタンク容量は14ℓで、①④から算出できる航続可能距離は280~319kmだが、メーター内の燃料警告灯は残量が2.7ℓになった時点で点灯が始まるので、250km以上の走行は勇気が必要。

エンジン下のボックスで完結する超ショートタイプのマフラーは、元を正せばドゥカティが2012年型1199パニガーレで先鞭を付けた機構。ただし当時の日本では騒音規制をクリアできなかったため、ドゥカティはサードマフラーを装着して販売していた。

主要諸元

車名:XSR900
型式:8BL-RN80J/N718E
全長×全幅×全高:2155mm×790mm×1155mm
軸間距離:1495mm
最低地上高:140mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/108mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列3気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:888cc
内径×行程:78.0mm×62.0mm
圧縮比:11.5
最高出力:88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.571
 2速:1.947
 3速:1.619
 4速:1.380
 5速:1.190
 6速:1.037
1・2次減速比:1,680・2.812
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:193kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.1km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…