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AUDI TT
デザインには正解がない
クルマは工業製品だ。その宿命として“進化”が常に求められる。とはいえクルマの方で勝手に進化すればいいというものではない。買ってもらわなければ意味がない。だから社会の情勢やユーザーの志向を把握してカスタマーの興味を引くことが重要になる。
そのため多くの場合、フルモデルチェンジごとに“デザインを変えること”が注目を浴びるための有効な手段となる。あなたの好きなこのクルマ、新しく生まれ変わりましたよ、とはっきり意思表示しなければならない。
ところがデザインには正解がない。好き嫌いは人それぞれ。ブームになるほど支持されるデザインもあれば、そうでないデザインも生まれる。傑作を敬遠する人もいれば、駄作を好む人もいるというわけだ。結果、クルマにはさまざまなデザインがあって、クルマ好きを楽しませてくれる。
カーデザインがありとあらゆる可能性を孕みつつ、デザイナーの創造性のままに実現できた時代は1950年代までで終わっているけれども、工業製品として大量生産が本格化する1960年代以降においても、時代を代表するカタチは生まれ続けた。“タイムレス”なデザインというものは確かに存在する。
タイムレスでヒエラルキーフリー
ベストセラーやロングセラーは多くの人に支持されたが故にタイムレスとなりやすい。「フォルクスワーゲン ゴルフ」や「ポルシェ 911」のそれぞれ初代モデルなどはわかりやすい例だろう。一方で、それほど大量には生産されなかったにも関わらず、その高いデザイン性によってタイムレスなモデルとして密かに注目されているモデルもある。今回の主役「アウディ TT」などはその際たる例だ。
衝撃のデビューを飾ったのは1995年。まずはコンセプトカーとして登場し、1998年から生産が始まった。高速走行時のフロントリフトによる不安定化というネガティブな事件にも関わらずデザインカーとしての評価はまるで下がらず、モデルライフをまっとうし、2006年に2代目へとバトンタッチ。正直に言って、2代目、そして3代目とモデルチェンジするたび、クルマとしての完成度は格段に上がったけれど、デザイン的には初代の個性をどんどん失って、常識的なモデルになっていく。これまた工業製品の進化としては真っ当であったが……。
初代TTは今見ても新鮮なデザイン性を保っている。それゆえヒエラルキーフリーで、本体価格20万円(!)から流通する激安モデルとはまるで思えない。ゴルフやアウディ A3といった実用車がメカニズムのベースとなっているため、距離が伸びた個体も多く、それでも価値が残存し中古車として流通するあたり、デザインの勝利であるというほかない。ちなみに2代目もすでにほぼ同じ相場観。ついつい新しい方を選んでしまいたくなるけれども、タイムレスなのは初代なのでお間違えなく。2代目もアシとしてはいいクルマだけど!
探せば3.2リッターV6も
また、クーペのみならずロードスターの存在も大きい。特に初代のロードスターは野球のグローブのような縫い目のレザーシートを用意するなど洒落っけも満載だ。もちろんタイムレスなデザイン性という意味ではクーペが勝るけれども、お尻を丸く落としたオープンカーという個性も捨てがたい。そして、1.8リッターターボの4気筒モデルの流通が多いけれど、探せば3.2リッターV6も見つかる。MTにこだわって探すというのもありだろう。
末長く大事に乗ってほしいタイムレスなデザインカー、初代TT。それなりに安心して乗り続けるためには、できるだけ距離の少ない個体を探したい。5万km以内で3ペダルミッションとなると、それなりに高くなってしまうが、2ペダルで5万km以内であれば乗り出し100万円でも十分見つかる。セカンドカーとしてタイムレスなデザインカーを長く持ってみるというのは、クルマ好きとしてなかなかの見識になると思う。