目次
Mercedes-AMG C 63 S E Performance Stationwagon
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BMW M3 Competition M xDrive Touring
新型C63SとM3コンペティションのワゴン対決
最新のメルセデスAMG C63S Eパフォーマンスに、セダンの約2ヵ月遅れでステーションワゴン(以下、ワゴン)が追加された。CとE共にセダンに加えてワゴンを用意するのはAMGのお約束である。
欧州では伝統的に、この種の超高性能ワゴンの確固たる支持基盤がある。休日ともなれば高速をぶっ飛ばして、ときには国境も超えてレジャーやアドベンチャーに出かけるのが、仕事にも遊びにも真剣なパワーエリートの典型だからだ。そのための移動手段にドンピシャな超高性能ワゴンの先鞭をつけたのが、アウディのRSアバントだった……。
AMGが早い段階から高性能ワゴン市場に目をつけたのとは対照的に、BMWはツーリングのM化に積極的ではなかった。Mのツーリングといえば、つい最近まで5代目(E60/61)をベースにしたM5ツーリングの一例だけだった。そこにはMなりの拘りがあったのだろう。
ところが、昨年に様相が一変する。まずM3に史上初のツーリングが追加されたと思ったら、近日発売の新型M5にもツーリングが存在することが明らかになった。まさに大転換。その背景には、電動化へ莫大な投資が必要な欧州メーカーの「売れるものはなんでも売って利益を確保したい」との危機感があるともいわれる。というわけで、今回の「新型C63SとM3コンペティション対決……ワゴン編」は、これまでできそうで、できなかった企画なのである。
追いかける立場のBMWには妥協がない
基本となるボディ骨格はそれぞれ、基本的にCクラスワゴンと3シリーズツーリングそのままである。ただ、ボディ後半にリチウムイオン電池を積むC63Sの場合、荷室フロアが凹凸してしまっているのが弱点といえば弱点だが、それ以外はAMGやMだからと荷室に特別なものはない。
ただ、リヤゲートのつくりはM3≒3ツーリングの方が良心的、というか骨太だ。Cクラスはゲートを開けた時にそれを支えるダンパーがむき出しとなる外付け式なのに対して、3シリーズはダンパーをルーフ内蔵式とすることで、ゲートを開けた時にすっきりと邪魔するものがない。リヤゲートダンパーは外付け式が一般的なので、これをもってCクラスを欠点というつもりもない。ただ、ダンパー内蔵式はそもそも、その昔の初代ミディアムワゴン(S123)が先鞭をつけた手法でもある。
当のメルセデスが2010年の4代目Eクラスから内蔵ダンパーをやめてしまったのに対して、BMWは1996年の5シリーズに内蔵式を初採用。一時は外付け式に戻ったものの、2009年以降の5ツーリングは一貫して内蔵式で、3のツーリングも現行型から内蔵式となった。なんだかんだいっても、上級ワゴン市場は今もメルセデスが中心的存在といっていい。BMWはいわば追いかける立場ということもあってか、細かなところまで妥協がないのか。
時代の流れで両車とも4WDに
閑話休題。話が横にそれてしまった。ご承知のように、最新のC63Sは476PSという超怪力の2.0リッター4気筒ターボに204PSのリヤモーターを組み合わせて、680PS/1020Nmというシステム出力/トルクを紡ぎ出す。対するM3は例の3.0リッター直6ツインターボから510PS/650Nmを絞り出して、それを混じりけなく使う。どちらもいつの間にか(?)4WDなのは時代の流れというほかないが、本来のパワーエリート的な使い方には、4WDが似合うのはいうまでもない。
パワートレイン単体のスペックならC63Sが圧倒するも、同時に車重も300kg以上重いので、実際のスピードはまさに互角といっていい。ただ、電動車らしく速度やギヤを問わず、間髪を入れずに強烈な加速を放つAMGの方がどこでも扱いやすく速い。M3でそれに追従するには、それなりに繊細かつ大胆なドライビングが不可欠となるだろう。
セダン同士なら「快適なC63SとスパルタンなM3」という構図だったが、ワゴンでは少し様相が異なる。ボディ剛性の差なのか、セダン比でわずかに突き上げが強まったC63Sに対して、M3ツーリングのフットワークは、逆にセダンよりマイルドな調律になっている。おそらく開発年次が新しいことに加えて、ツーリング独自の味を意識したのだろう。
ハイパワーワゴン市場は実にし烈だ。
しかも、今回のM3は拘りの販売店オプション「Mパフォーマンスパーツ」の数々をフルトッピングした個体で、今回装着されていたインチアップした21インチタイヤやスポーツサスペンションも、同オプションのひとつである。同スポーツサスペンションはノーマルよりしなやかな設定のようで、市街地や都市高速でのアタリは明らかにソフトだ。まあ、そのぶん上下動が増えるので、本格的なワインディングやサーキットまで含めると、ノーマルと一長一短といったところだろう。いずれにしても、M3の日常域の乗り心地を改善したいと思っているなら、試す価値はありそうなオプションだ。
というわけで、C63SとM3はセダン以上に甲乙つけがたく、乗れば乗るほど悩ましい2台になった。AMGのハイブリッドは文句なしの怪力だが、サウンドやフィーリングにドラマがあるのは、間違いなく純ストレートシックスのM3だ。より肉体的負担が少なく安心感もあるのは四輪操舵付きのC63Sである一方、接地感や乗り心地ではM3に軍配がを上げたい。また前記のように荷室の使い勝手はM3がリードするも、狭い路地や交差点での取り回しは車両感覚に優れて小回りもきくAMGが上手である。このように、最新パワーエリートワゴン市場は、セダン以上にし烈かもしれない。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 4月号
SPECIFICATIONS
メルセデスAMG C 63 S Eパフォーマンス・ステーションワゴン
ボディサイズ:全長4835 全幅1900 全高1475mm
ホイールベース:2875mm
車両重量:2200kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1991cc
最高出力:350kW(476PS)/6750rpm
最大トルク:545Nm(55.6kgm)/5250-5500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35R20 後275/35R20
車両本体価格:1711万円
BMW M3コンペティションM xドライブ・ツーリング
ボディサイズ:全長4805 全幅1905 全高1450mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1870kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2992cc
最高出力:375kW(510PS)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マルチリンク 後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
車両本体価格:1420万円
【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/
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