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Aston Martin Vantage
ボディパネルはすべて刷新
欧州でのサーキット試乗は、クルマの限界特性が見極められるよう、全開に近いペースで走れることが一般的だが、それにしても先導車つきの“カルガモ走行”かインストラクターが助手席に座るケースがほとんど。つまり、なんらかの形で制約を受けるわけだが、新型ヴァンテージの国際試乗会では、最初のセッションのみ慣熟走行として先導車が入るものの、そこから先の3セッションは自由に走って構わないという。
「ご希望であればトラクションコントロール・オフも試してみてください。ただし、タイヤが磨り減ってしまうので、1回だけにしていただけると助かります」 アストンマーティンの名物広報マンであるケヴィン・ウォターズは冗談めかしてそう語ったものの、「どんな走り方をするかは自由。ただし、ご自身のスキルの範囲内に留めてください」と、あくまでもこちら側の判断に委ねるとの姿勢を崩さない。つまり、すべては自己責任というわけだ。
実にイギリス的だし、アストンマーティン的なスタイルだと感じ入りながら、私はヘルメットをかぶり、コースインの時を待った。
最近はマイナーチェンジやフルモデルチェンジの概念があいまいになりつつあるが、新型ヴァンテージに限っていえば、完全なフルモデルチェンジと言って構わない。なにしろ、シニア・ビークル・エンジニアリング・マネジャーのジェイムズ・オーウェンによれば、すべてのボディパネルを作り直したというのである。その最大の目的はボディ幅を30mm広げてトレッドを拡大し、シャシー性能を高めることにあるが、一方でドアミラーを含んだ全幅を旧型より狭くすることで取り扱い性にも配慮したという。古い施設では1台あたりのスペースが限られていることが少なくないイギリスの駐車場事情に即した設計思想といえるだろう。
アルミ押し出し成型材を接着して骨格を形成するアストンマーティン独自のボディ構造は最新世代に進化するとともに、大きな応力がかかる箇所は板厚を増して剛性を強化。さらにフロントのクロスメンバーはその位置を見直したほか、リヤには新たにストラットタワーバーを追加。この結果、リヤ周りのボディ剛性は実に250%も向上したという。
高いボディ剛性を実感
そうした成果は一般道を走っただけでも明確に感じられた。新たにビルシュタイン製DTXダンパーを備えた足まわりは、グリップ性能を改善するため、よりフラットな姿勢を保つ方向にセッティングを改めたが、その結果としてスプリングレートもいくぶん引き上げられた模様。にもかかわらず、スペイン・セビリア地方の荒れた公道を走ってもあまり不快に思えなかったのは、前述したDTXダンパーの効果とともに、剛性が強化されたボディ剛性の恩恵であることは間違いない。
しかも、この頑強なボディのおかげでステアリングやシートから豊富なロードインフォメーションがもたらされるようにもなったのも嬉しいポイント。このためワインディングロードではクルマとの強い一体感や安心感に包まれながらコーナーを駆け抜けることができたが、その本領が発揮されるのがクローズドコースであることもまた事実。そこで私は期待に胸を膨らませながら、サーキット試乗が行われるモンテブランコを目指したのである。
ここで自由な試走が認められたことは冒頭で申し上げたとおり。そこでいざ走り始めてみれば、専用チューニングを受けたというミシュラン・パイロットスポーツS5は、クレルモンフェラン製ラバーの伝統に従い、限界のかなり手前からスキール音などで警告を発してくれることがわかった。ただし、そこからスロットルペダルをさらに踏み込んでリヤタイヤをブレイクさせようとしても、トラクションコントロールが利き始めて期待どおりのエンジンパワーが得られない。「ケヴィンが言っていたのは、このことだったのか……」 このとき、彼の言葉の真意を初めて理解した私は、頭のなかでアジャスタブル・トラクションコントロールの操作方法を反復し始めた。
トラクションコントロールを8段階で選択可能
新型ヴァンテージの新機軸であるアジャスタブル・トラクションコントロールは、ドライバーがその効き方を8段階で設定できるというもの。具体的には、センターコンソール上のトラクションコントロール・スイッチを長押しすると、「トラックモード」に続いて「アジャスタブル・モード」に入ったことがメーターパネル上に表示されるので、あとは同じくセンターコンソール上に設けられた大型ダイヤルを回すだけでTC1からTC8まで任意に設定できる。ちなみにTC1はシステムが完全に作動している状態で、TC8では完全にオフとなる。
なるほど、TC1ではテールがスライドする傾向はまるで見られない。これはTC2に切り替えても同様。ただし、TC3ではスロットルペダルの踏み方次第でかなりのドリフトアングルまで許容してくれることがわかった。それでも目に見えない部分でシステムはしっかり作動しているので、スピンする恐れはなさそう。したがってビギナーがカウンターステアの練習をするにはうってつけのモードといえるだろう。
しかし、TC4より上ではスピンすることもありうる。事実、私はTC4に切り替えた直後にハーフスピンを喫したが、これはトラクション・コントロール頼りで乱暴なスロットルワークをしていたのが原因。この点を反省し、その後は基本に立ち返ったドライビングに徹したところ、完全オフのTC8でも難なくテールスライドを引き出せるようになった。
そんなとき威力を発揮するのが、最高出力が665PSへと引き上げられた4.0リッターV8ツインターボエンジンである。これがメルセデスAMG製であることは従来どおりだが、アストンマーティン社内でチューニングを行った結果、大幅に性能が改善されるとともにレスポンスが向上。さらにリニアリティの高さも手に入れて扱いやすさが格段に高まったのである。
新型ヴァンテージがフルモデルチェンジと呼ぶに相応しい進化を遂げたことは、これで皆さんにもご理解いただけたはず。しかし、それを声高に主張することなく、ひっそりと控えめに行うあたりが、いかにもイギリス人らしい、そしてアストンマーティンらしいセンスだといえる。
REPORT/大谷達也(Tatsuya Otani)
PHOTO/ASTON MARTIN LAGONDA
SPECIFICATIONS
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディサイズ:全長4495 全幅1980 全高1275mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:1745kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4.0リッター
最高出力:449kW(665PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35ZR21(9.5J) 後325/30ZR21(11.5J)
0-100km/h加速:3.5秒
最高速度:325km/h
車両本体価格:2690万円
【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja