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612 SCAGLIETTI
12気筒狙いなら2+2など不人気モデルを
とりあえずフェラーリは12気筒を作り続けるようだ。ひと安心。これでV12に対する飢餓感も薄れる……と思った人はヨミが少々浅いかも。逆だ。フェラーリがそこまでこだわって作り続けるのだから、やっぱり一度は跳ね馬の12気筒に乗っておきたい、とその思いを改めて強くする人が増える。安心したから買わない、とはならない。かえって注目が集まると思う。
とはいえ新車は夢のまた夢。たとえ運よくオーダーの列に並べたとしても、乗り出しのお値段はオプション込みで1億円に近づく。新車価格が上がった、というよりも世界並みになった。そのせいでしばらくは年式の新しい12気筒モデルの中古車相場も強含みになるだろう。それでも欲しいとなれば、さらに年式を下るしかない。そして、2+2などの比較的不人気なモデルを狙う。
今なら断然「612 スカリエッティ」だ。筆者もしばらく乗ったことがあるけれど、シングルクラッチのフィールがマニュアルに近く、それゆえ乗り方にコツが必要だったとはいうものの、かなり実用性の高い跳ね馬だった。スタイリングも今見るとクラシックで美しい。
流通量は少ないが……
フロントミドに収まるのは同時代のV12 2シーターの「599」と同じ……ではない。エンツォ直系のF140ではなく、575M系の5.75リッター、つまりF133を搭載する。そこが、いざ買うとなると実に惜しい気分になってしまうのだけど、だからといってF133の12気筒フィールがダメかというとそうではない。れっきとした跳ね馬12発であった。
試しにカーセンサーで検索してみる。流通台数は14台。「456GT」系よりは多いが、「FF」「ルッソ」系よりかなり少ない。まずは順当な台数だが、注目すべきは価格相場だ。近頃じわじわ人気のFFに比べて500万円以上安い。つまり多くの個体が今時の中古跳ね馬としては珍しく、特に12気筒としては異例に1000万円を割っている。1000万円を割った跳ね馬12気筒など今では456のGTAか612しかない。
実用フェラーリだからこそ赤を選びたい
流通する個体を一つひとつチェックする。今回も気になる1台が見つかった。ボディカラーは鮮やかな赤、インテリアも赤という、ある意味“レア”な1台。612に限らず4シーターフェラーリというと、リヤミドシップなどスポーツモデルと共にガレージに収める傾向も強く、赤の多いスポーツモデルに対して地味な色合いが多い。実際、マーケットでよく見かける612は黒や紺、白、ガンメタといった“実用カラー”だ。赤や黄といったスポーツモデルに似合う色を見つけることは難しい。真っ赤な612スカリエッティ、欲しいなぁ。岐阜か〜、見に行きたい!
実用フェラーリだから地味目の色で──、新車オーダーする顧客がそう思うのもよくわかる。けれども、本当は実用フェラーリだからこそ赤を選ぶと面白い。逆にスポーツモデルは地味にキメる。大体からしてリヤミド2シーターなんてスタイルは見た目がすでに派手なので、赤や黄にしなくてもフェラーリだとわかってもらえる。そうではない612など4シーターモデルこそ、跳ね馬らしい色にして正解だ。ハズしの美学でもあった。
のちのマクラーレン12Cコンビが
612スカリエッティのデザインは、ご存知ピニンファリーナの奥山清行とフランク・ステファンソンで、のちのマクラーレン12Cコンビである。モチーフは名車「375MM」のワンオフモデルで、映画監督のロベルト・ロッセリーニが女優イングリッド・バーグマンに送った跳ね馬として有名だ。その時のカラーが、グリジオ・イングリッド。それゆえ612を好んでグリジオ・イングリッドでオーダーするオーナーが多かった。
確かに612にはシャンパンゴールドが似合う。似合うのだけど、どうも中古で安く買うというイメージと精神的に合わない。新車でパリッとキメる色だと思う。だからこそ逆をついて、ロッソの612。最高じゃないか。なんならFFだってロッソで乗ってみたいものだ。