3シータースーパースポーツカー「GMA T.50」に同乗試乗

ゴードン・マレーが造り上げた3シータースーパースポーツカー「T.50」に同乗試乗して分かった「負のスパイラルからの脱出」

マクラーレンF1の再来と言われる「T.50」。
マクラーレンF1の再来と言われる「T.50」。
ゴードン・マレーが自らのスーパーカー哲学を注ぎ込んだT.50。マクラーレンF1の再来と言われるこの1台に、大谷達也が同乗試乗する機会を得た。果たしてその印象は?(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

GMA T.50

ボディサイズはボクスター級

ゴードン・マレーが自らのスーパーカー哲学を注ぎ込んだT.50。マクラーレンF1の再来と言われるこの1台に、大谷達也が同乗試乗する機会を得た。果たしてその印象は?
モントレー・カーウィークでデモ走行を行う「T.50」。

GMA T.50に乗ると、従来とはまったく異なるスーパースポーツカーの価値観が存在することに気づくだろう。

私がT.50に同乗したのはモントレー・カーウィークでのこと。ドライバーはインディ500で3度優勝した元レーシングドライバーのダリオ・フランキッティ。彼はいま、ゴードン・マレー・オートモーティブ(GMA)の“ディレクター・オブ・ブランド&プロダクト”という要職についている。

T.50はとにかく驚きに満ちている。ボディはボクスターと変わらないほどコンパクトで、車重は軽自動車並みの997kg。おかげで3速1000rpm(約26km/h)からでもスロットルペダルを踏み込めば、まるでモーターサイクルのような軽快さで加速していく。しかも乗り心地はしなやかで快適である。

そしてスーパースポーツカーの概念を完全に打ち崩すのがグランドクリアランスが大きなことで、フロントリフトを装着していないのに高さ10cmはありそうなスピードバンプを苦もなく乗り越えるし、急な下り坂から水平に勾配が変わっても鼻先を路面に擦ることがない。これまでスーパースポーツカーを扱う際に気をつけなければいけなかったことが、T.50では一切、不要になっているのだ。フランキッティによれば、いずれもゴードン・マレーの強い要望で実現したものだという。

マニュアルギヤボックスを選んだ理由

センターシートを採用するT.50。フォーミュラマシンのような運転感覚と3名乗車の実用性を両立する。
センターシートを採用するT.50。フォーミュラマシンのような運転感覚と3名乗車の実用性を両立する。

1万2100rpmまで回る自然吸気V12エンジンを積んだ理由は、スロットルペダルを踏み込めばたちどころにして理解できる。それは柔軟で滑らかな加速感を炸裂させると同時に、強烈なエネルギー感を備えたサウンドマシーンとしての役割も果たすのだ。その音色は、弦楽器を思わせるフェラーリ・ミュージックとはまったくの別物で、敢えていえば1990年前後のF1エンジンが奏でる超高回転サウンドに近い。「このエンジン音を聞かせるために、ゴードンはルーフ上にインダクションボックスを設けたんだ」とフランキッティ。「しかも内部でサウンドが適切に共鳴するように、カーボンの厚みまで綿密に計算したのさ」

モントレー周辺のワインディングロードは、道幅が狭いうえに、曲率の小さなコーナーが少なくない。きっと、既存のスーパースポーツカーなら、その強大なパワーを持て余してしまうことだろう。けれども、全幅が1850mmしかないT.50は、そのタイトなワインディングロードを縫うように駆け抜けていく。おまけに、フランキッティの腕前のおかげでもあるのだろうが、コーナーの脱出ではテールが流れるような素振りを見せることさえあった。

「タイヤサイズの選定は、かなり慎重に行った」とフランキッティ。つまり、サーキットだけでなくワインディングロードでもドライビングの歓びを味わえるように考え抜かれて造られたスーパースポーツカーがT.50なのである。

そう考えると、T.50が敢えてマニュアルギヤボックスを採用した理由も理解できる。パフォーマンスだけでいえばパドルシフトのほうが上。しかし、低い車速域でもドライビングを満喫したいならマニュアルギヤボックスのほうが有利だ。

パワー競争に明け暮れるスーパースポーツ界に

T.50の「左側の助手席」に収まる大谷達也氏。助手席での体験でもT.50の素晴らしい資質は理解できたという。
T.50の「左側の助手席」に収まる大谷達也氏。助手席での体験でもT.50の素晴らしい資質は理解できたという。

つまり、コンパクトなボディも徹底的にウエイトを絞り込んだ車重も、さらにいえば美しい歌声のV12エンジンを積んだのも、すべて車速を問わず運転の醍醐味を味わうためには欠かせないことだったのだ。

スーパースポーツカー市場は相変わらずパワー競争に明け暮れている。そして高額な価格を正当化するために立派で堂々としたデザインを追い求めた結果、ボディサイズは大きくなり、車重は重くなった。そしてそのパフォーマンスをフルに引き出そうとすれば、サーキットに行かざるを得ない状況を生み出している。

ゴードン・マレーは、そうした負のスパイラルから抜け出すためにT.50を造り上げた。そのトレンドに背を向けた姿勢はいかにもマレーらしく、そして清々しい。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/GMA、大谷達也(Tatsuya OTANI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年11月号

SPECIFICATIONS

ゴードン・マレー オートモーティブ T.50

ボディスペック:全長4352 全幅1850 全高1164mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:フロント1586mm リヤ1525mm
車両乾燥重量:957kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHC自然吸気
総排気量:3994cc
最高出力:663PS/11500rpm
最大トルク:467Nm/9000rpm
レブリミット:1万2100rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後カーボンセラミックディスク

着脱式ルーフを備えた「ゴードン・マレー・オートモーティブ T.33 スパイダー」のエクステリア。

ゴードン・マレー最新作「T.33 スパイダー」のルーフは着脱式「なお例によって100台限定」【動画】

2023年4月4日、ゴードン・マレー・オートモーティブ(GMA)は、時代を超えたデザインと、オープンエアによる爽快なドライビングエクスペリエンスを備えたニューモデル「T.33 スパイダー」を発表した。T.33 スパイダーは、2分割式着脱ルーフパネルと展開可能なリヤウインドウを備え、気軽にオープンエアドライブを楽しめるスーパースポーツカーだ。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…