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Cadillac Escalade
金庫のようにズシリと重いドア
街に住んでいてつくづく感じるのは、静かさに勝る贅沢はないということだ。利便性の高い生活環境とは相対するものであり、それがゆえの、ないものねだりであることは承知している。が、そこに暮らす人々が、なかなか得られないものを知らぬ間に精神安定のために求めているのではないだろうか。ノイズキャンセリングのイヤホンを耳に差し込んで電車に乗る人をみると、そういうことかなぁと思うこともある。
そういう点でクルマはちょっぴり優遇された存在だ。日々の生活を共にしながら、いつでも静寂への扉が迎えてくれるだけでもラグジュアリーなものに思えてくる。自動車税はたんまり払っているのだから、そんな効能があってもバチは当たらない。
その扉が、ちょっとした金庫や冷蔵庫のようにズシリと大きく厚く感じられるのが、エスカレードのキャデラックたる所以だろうか。車格的には街中ではちょっと持て余すものの、そのぶん外界との隔絶感は他車とは一線を画する。ドアを閉めると広がるしんとした室内、その空気感は、いにしえのフリートウッド・ブロアムのようなショーファードリブンたちともちょっと似ている。
伊東のグランピング施設を目指す
乗ればそこがノイズキャンセリングと化すような、そんなクルマに乗ると目指したくなるのは、さらなる天然の静寂だ。たとえ都会のど真ん中が活動拠点だったとしても、そこから1〜2時間走るだけでもそんな空間を探すことは難しくはない。
東京から東名道を下って厚木から小田原厚木道路へ。業務車両も減って流れのタクトも緩くなってきたところで、ACCを効かせて車窓に合わせてお気に入りの音楽を流す。
スタジオモニターなどで定評のあるオーストリアの音響機器メーカー、AKGが初めてプロデュースしたエスカレードの36スピーカープレミアムオーディオは、純正の車載オーディオとしては高評価を専門筋からも得ているが、素人の耳にも他のプレミアムオーディオとは一線を画する明晰で広がりのあるサウンドは、素直に特筆に値するものだと思う。
リンクしたスマホのようなシリコン系の音源でも的確に痩せどころを持ち上げつつ、白々しくは聞かせない。そして、そのままフルボリュームまで持っていっても音割れなどの破綻もない。車中をリスニング空間として重視するなら、エスカレードのそれは走ってナンボと同じくらい検討に値する。ちなみに直近で追加されたベースグレードのプレミアムでも、AKGの19スピーカーオーディオが標準で奢られている。
自然吸気エンジンならではの余裕
エスカレードが搭載するエンジンはコルベットのベースモデルと同じ、6.2リッターのOHVだ。伝統のスモールブロックは幾度となく改良が加えられているものの、その骨格寸法の源流は70年近く前まで遡る。GMが80年代に繰り広げていたブランドキャンペーンのコピーを借りるなら、「ハートビート・オブ・アメリカ」というフレーズがぴったりのエンジンといえるだろう。
さすがの巨体ゆえピークパワーを競って頼るようなことはないが、そのぶんエスカレードに備わるのは潤沢な気筒数や排気量からなる、どこからでも柔軟に応答する濃厚なトルクだ。そこはやはり過給ものとはリニアリティに少なからず違いがあって、アクセル操作だけで滲むようにも沸き立つようにも推進力をコントロールできる。100km/h巡航時の使用回転数は1300rpm前後と低く、そこからはさすがに即応的なレスポンスは期待できないが、それでも変速にビジーさはなく、求める加速力を最低限のシフトダウンで息長く伝えてくれるのがいい。ゴルフでいえば短く刻むリズム感が今日びのクルマの過半だとすれば、エスカレードはロングを狙って大振りで伸ばす気持ちよさがある。それもこれも、伝統のOHVならではの特性のおかげといえるだろう。
東京方面からみれば、伊豆半島への玄関口ともいえる箱根を越えてもう少し、伊豆スカイラインを使って伊東の辺りまで足を伸ばせば、市中では拝むことのできない夜空を眺めることができる。
その行程も道幅の狭いワインディングはあるが、エスカレードはそういう場面でも運転が苦にならない。スクエアなボディや抑揚あるボンネット形状による見切りの良さもさることながら、ビルトインフレーム構造よってドライバビリティが大きく改善されたことによるところが大きい。加えて、前後重量配分も50対50に限りなく近く、操舵の応答性はキビキビとはいわずともすこぶる素直だ。思わぬロールで乗員を余計に揺すってしまわないかという気遣いも最小限に留められるだろう。
SUVに求められるのは“包容力”
そんなエスカレードを大きなテントに横付けしながら、バーベキューや温泉などを野外で思い切り体験できる。グランピングの嬉しさは、そういうシチュエーションのバックヤードにホテルステイのような環境が用意されていることなのだと思う。自ら場所を見つけていちから切り拓く達成感もまたキャンピングの醍醐味だが、思い立ってクルマを走らせれば、ほど近い体験を事前準備の必要なく楽しむことができる。そういう選択肢があること自体、有り難い。
空気の澄んだ満天の星空のもと、青々しい薪の匂いと共に、ほの明るい焚き火のゆらめきを見つめながら、無になれるその場所を楽しむ。街中ではなかなか見当たらないゆったりとした時間の流れが心地よい。そして朝日に促されるように目覚めれば、再びお湯に浸かりながら変わりゆく景色を眺めて、心身ともにほぐれたら、街へと戻る時間を迎える。
後ろ髪を引かれるようにクルマを走らせる、短い気分転換の余韻を慈しむように距離を刻んでくれるのもまたエスカレードの美点だ。心地よく走り続けられるゾーンが低速域から幅広く、クルマのもつリズム感がアウトドアで流れるスローな時間とシンクロする。そういう包容力こそがSUVに求められる真の性能ではないかと思う。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
SPECIFICATIONS
キャデラック・エスカレード・プラチナム
ボディサイズ:全長5400mm 全幅2065mm 全高1930mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2470kg
エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:306kW(416PS)/5800rpm
最大トルク:624Nm(63.6kgm)/4000rpm
トランスミッション:10速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後275/50R22
車両本体価格:1740万円
【車両問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/
8mのドーム型テントが自慢「グランアイラ伊豆高原」
今回訪れたのは静岡県伊東市にある「グランアイラ伊豆高原」。全国でも希少な直径8mのドーム型テントは全室オーシャンビューで、各棟にバーベキューグリルや源泉かけ流しの露天風呂を併設。夜は天気次第で満天の星空が望むことができる。
〒414-0051
静岡県伊東市吉田952-19
TEL 0557-52-4088
https://www.glamping-izu.com/