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経済低迷の中でBEVの普及は難しい
あけましておめでとうございます。2025年もゲンロクWebをよろしくお願いします。
さて、2024年は、ホンダと日産の提携話や、合従連衡の末に誕生したステランティスの社長交代など、自動車業界にとって激動の一年でした。振り返ると、1990年代に「400万台クラブでなければ生き残れない」と言われた時代が再び巡ってきたように感じるのは、私だけではないでしょう。
当時と共通するのは、戦争や経済低迷による世界の混乱です。1990年代には、イラクのクウェート侵攻に端を発した湾岸戦争があり、多国籍軍としてアメリカが参戦しました。現在では、ロシアのウクライナ侵攻と、それに対するNATOの支援が類似しています。エネルギー供給の不安定さに起因する経済低迷も共通点と言えるでしょう。その後、2000年代に入り中国のWTO加盟が進み、グローバル経済は一見発展したように見えましたが、中国を巨大市場と見なした戦略が、民主主義国家ではなく、独裁的な大国を形成する結果となり、新たな火種を生み出しています。
こうした背景の中で、合従連衡然り、今後自動車業界がどのように変化していくのでしょう。この数年、複数のメーカーが2035年までの完全電動化を掲げつつ、すぐさまその方針を覆したことは記憶に新しいです。この流れは、現在進行中の戦争や紛争が収束してもなお、止まることはないかもしれません。ただし、経済低迷が続く中で、大規模な投資を要するBEVの普及は容易ではないでしょう。
自由な移動が本旨のモビリティの名折れ
重苦しい見通しはこの辺りにして、ここでは直近の2025年に焦点を当ててみたいと思います。電動化への邁進が頓挫した現状は、守旧派にとって「それ見たことか」と溜飲を下げるものでした。革新的なバッテリーが登場しない限り、現状の高価なバッテリーでは課題が山積みです。ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシア産天然ガスに依存した脆弱な欧州のエネルギー供給体制が露呈した結果、電力が安価なエネルギーである時代は過去のものとなりました。
さらに、安価なバッテリーが開発されても、航続距離の短さという課題は依然として解決が必要です。自宅で充電できたとしても、それは初めにバケツに水を多めに貯めるだけの話であり、外出先での給水(充電)に制約があれば、そこから先の走行は不安そのもの。自由な移動が本旨のモビリティの名折れというほかありません。加えて、少ない充電設備がPHEVによって占有される現状を考えると、日本におけるBEVの夜明けはまだ遠いと感じられます。
こうした不透明な状況の中、スーパーカーやラグジュアリーカーに注目して情報を発信する「ゲンロクWeb」として、自動車業界の未来を予測し、2025年に何が起こるのかを考えてみましょう。まず予測ではありませんが、フェラーリとランボルギーニからBEVが登場するでしょう。フェラーリは昨年、マラネッロでe-ビルディングという新施設を公開し、今年から本格稼働を予定しています。その際、フル電動車の投入を予告しました。一方のランボルギーニは主要モデルのハイブリッド化を進めており、2023年のモントレーでは2+2GTコンセプト「ランザドール」を発表し、2026〜2030年のBEV導入を宣言しました。これらは公式発表済みのため予言ではありませんが、改めて認識しておくべき事実です。
かつてのコーチビルダーのように
ただし、現在の不安定な情勢を踏まえると、予定通りに発売されるかどうか、あるいは販売自体が中止される可能性すらあります。その一方で、メーカーごとの思想の違いが、用途に応じたバッテリー運用を通じて鮮明になるでしょう。実際に、スーパースポーツでは2~4kWhの極小容量バッテリー搭載車(フェラーリ F80、マクラーレン W1、ランボルギーニ テメラリオ)や7〜8kWhの小容量バッテリー搭載車(フェラーリ 296GTB、マクラーレン アルトゥーラ)など多彩です。一方で15~30kWhの中容量バッテリーを搭載したSUVやセダン(メルセデスAMGのP3ハイブリッド、ポルシェ ターボEハイブリッド、ベントレー ウルトラパフォーマンス ハイブリッド)など、こちらも多様な電力量の電動車がすでに登場しています。
前述のスーパースポーツカーはいずれも少量生産なので、ある意味ビスポーク的専用開発ができます。一方で後者のSUVなどはある程度の量を生産する(ことで利益を確保する必要がある)ので、開発の効率化が求められ、共通プラットフォーム化が進みそうです。小規模体制が多いスーパーカーは、市場やカスタマーの動向に合わせて機敏に方向性を変えられますが、SUVではかつてのコーチビルダーのように、同一プラットフォームでありながら、ボディデザインで差別化を図る動きが見られるかもしれません。守旧派としては、そういった共通化でも各メーカーが趣向を凝らして、新たな価値を提案し、クルマ本来が持つ魅力を引き出すような、クルマ作りが続くことを期待します。