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Volkswagen Golf TDI R-Line
前期型からの変化は乏しく見えるが


フォルクスワーゲンの大看板にして欧州Cセグ・ハッチバックの指標、現行「ゴルフ」がマイナーチェンジによって8世代目から8.5世代目に進化し、都内でプレス試乗会が行われた。「eTSI」ことガソリン版は旧アクティブベーシックの1.0リッター3気筒を廃して1.5リッター4気筒エンジンに一本化し、48VのMHEVのアシストを活かし切るため、気筒休止の仕方やコースティング時のエンジン完全オフ、ミラーサイクル化に可変ジオメトリーターボなど、制御にあれこれ磨きをかけてきた。
その分、ディーゼル版「TDI」の150PS/3000〜4200rpm、360Nm/1600〜2750rpmというスペックは、前期型から変化に乏しく見えるが、アドブルーつまり尿素SCRを吸気側と排気側の双方に備えるツインドージングはそのままに、マッピングで攻める方向で、低温時から高速負荷時まで幅広くNOx分解の効率を保ちつつ、ドライバビリティを刷新しているという。
最新「MIB4」となったインフォテイメントシステム



第8.5世代のキャッチコピーは「大切なものだけでできている」。エッセンシャルなものを積み上げることは、50年間で累計3700万代以上も世界に広がり続けたゴルフらしさは、8.5世代ではデジタル化に強く表れている。パサートやティグアンら上位機種と同じくインフォテイメントシステムを最新の「MIB4」に改め、12.9インチもの大画面タッチスクリーン、そしてIDAという音声アシスタントをインターフェイスとする。前期型ことゴルフ8で操作しづらいと不評だった、エアコン温度設定や音量を上げ下げするタッチスライダーバーが、バックライトつきになったことは朗報だろう。
ドライバー正面のデジタルメーターパネルから中央のタッチスクリーンまでの収まりは、一体感の強かった前期型に比べて後者が大型化した分、アドオン風にはなった。だが画面が大きいことで圧倒的に見やすく、演算速度も向上して操作のサクサク感は増している。
今回の試乗車はR-ライン仕様で、外装ではヘッドライトが従来の4つ目から2つ目となり、500mものハイビーム照射距離をもつ「IQ ライト」に進化。このヘッドライト部のLEDと一直線に弧を描いて光るフロントグリルバー上端も同じくだが、中央のエンブレムもイルミネーション化された。リヤコンビランプのLEDもよりシンプルになり、前後バンパーのデザインも一新されているが、ブラック枠に艶があってアンダーグリルのパターンが専用となる以外は、GTIとほぼ共通といえる。ブラックルーフのツートン塗装もRラインとGTIにのみ許された仕着せだ。いかにも空力に優れそうな18インチホイール「Leeds(リーズ)」、そしてラグジュアリースポーツ感漂うRのロゴとパンチングが特徴的なホワイト&グレーのレザーシートもR-ライン専用装備だ。
素早いアクセル応答性と圧倒的に伸びやかなパワー感


大ぶりで、包み込まれるようなホールド感のスポーツシートは硬過ぎず柔らか過ぎず、調律の行き届いたクルマ特有の一体感が、最初の数mから味わえる。街乗りから高速まで、都内の限られた条件下とはいえ、走らせるほどに今次のゴルフ8.5のTDI R-ラインはグランドツアラー的なキャラを静かに主張してくる。だがそれは、どっしりしたステアリングフィールにモリモリの強大トルク、といった昔ながらのディーゼルの乗り味とは少し違う。じつは1430kgという車重は、前期型の1460kgより僅かとはいえ軽く、カタログ燃費も旧20.1km/Lから新20.8km/Lと、絞り出したような改善値も見られる。
プログレッシブステアリングの効きもあるのか、総じて曲がり始めからステアリングはごくニュートラルで、ゲインの付き方も自然で反力も重過ぎず、直進時に中立を探させることもない。VWが弱アンダーステアの権化だった時代はすっかり過去のものだ。だがこれらの味つけは脇役に徹しつつ、パワートレインから7速DSG(DCT)のマナーまで、あくまでスムーズさが際立つ。エキゾーストノートは決して艶っぽい音ではなく、ディーゼルであることを隠さないタイプだが、アクセル操作に対する応答性が素早く、そしてパワー感が圧倒的に伸びやか。プレミアムでこそないが、限りなくそれに近い質の高いロングツアラーかくあるべし、そんな調子だ。
ODOがまだ1500kmも距離を刻んでいないせいか、乗り心地面では低中速域で少し神経質なピッチングもあった。ただ、それも路面インフォメーションを忠実に伝えるがゆえの現象で、リヤの4リンクのサスがいい仕事をする証左でもある。もしかしてTDIの本命は今回乗らなかったヴァリアントかとも想像したが、あちらは+80kgの車重となるし、TDIハッチバックの燃料タンク容量は51Lもある。高速道路での航続レンジは1000kmを軽く超えながら、車両価格は475万3000円。やはりICEの実用主義ハッチバックとしてゴルフ8.5のTDIは、ヘビーユーザーのための究極の選択肢であり続けているのだ。
REPORT/南陽一浩(Kazuhiro NANYO)
PHOTO/南陽一浩(Kazuhiro NANYO)、GENROQ、Volkswagen AG
SPECIFICATIONS
フォルクスワーゲン ゴルフ TDI Rライン
ボディサイズ:全長4295 全幅1790 全高1475mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1450kg
エンジン:直列4気筒ディーゼルターボ
総排気量:1968cc
エンジン最高出力:110kW(150PS)/3000〜4200rpm
エンジン最大トルク:360Nm/1600〜2750rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後4リンク
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:225/40R18
環境性能:燃料消費率20.8km/L(WLTC)
車両本体価格:475万3000円