【BMW Mの軌跡】上質で高性能なハイパフォーマンスサルーン3代目「M5」

上質で高性能なハイパフォーマンスサルーンとしての地位を一気に高めた3代目「M5」を解説する【BMW Mの軌跡】

3代目となるE39型M5。
3代目となるE39型M5。
鮮烈な印象を与えるBMWのスポーツイメージ。その源流はモータースポーツ、ひいては現在の「BMW M社」にある。本連載では、BMWとM社が築き上げてきた歴史を振り返り、象徴的なモデルとともにその軌跡を辿る。M5の名声を高めた3代目「M5」を紹介しよう。

M5

ボディは拡大するも軽量化

ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェでは8分20秒と、当時のスポーツサルーンとして驚異的なタイムを記録した。
ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェでは8分20秒と、当時のスポーツサルーンとして驚異的なタイムを記録した。

2代目となるE34型「M5」が生産を終えた1995年にE39型「5シリーズ」がデビューしてから、しばらくの間ラインナップから姿を消していたM5だったが、1998年のジュネーブ・ショーで満を持して発表された。

日本人デザイナーの永島譲ニがエクステリアデザインを手掛けたことでも知られるE39型5シリーズは、フロントストラット式、リヤインテグラルアーム(マルチリンク)式のサスペンションをはじめ、アルミ製部品の使用率を増やしているのが特徴だ。それはM5にも受け継がれ、全長4783mm、全幅1801mm、全高1412mm、ホイールベース2830mmとボディがひと回り大きくなっているにも関わらず、車重は50kg増の1795kgに抑えられている。

ノーズに収まるエンジンは5シリーズのアルミ製M62型V8をベースに、圧縮比を10.0:1から11.0:1へ上げ、電子制御式個別スロットルボディ、セミドライサンプシステム、そしてBMWとして初となるダブルVANOS(可変バルブタイミング)を装備した4.9リッターV8DOHC“S62“ユニット。その最高出力は400PS、最大トルクは500Nmを記録する。

DSCを標準装備

M5として初のV8搭載車となったE39型は、容量を拡大したゲトラク製「420G」6速MTを介して0-100km/h加速5.3秒(最高速は250km/h電子リミッター)というパフォーマンスを発揮。またリミッター解除したモデルが最高速300km/hを記録したほか、ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェでは8分20秒と、当時のスポーツサルーンとして驚異的なタイムを記録したことでも話題となった。

シャシーは基本的にスタンダードの5シリーズをベースとしたもので、専用のショック、スプリングによってローダウンされているほか、スタビライザーの径も太くなるなどファインチューンが施されている。

もうひとつの特徴は、ABSやASC+T(オートマチック・スタビリティ・コントロール+トラクション)と車速、ステアリング操作を連動させ、常にトラクションを維持するDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)が標準装備されていたことだ。ギヤ比が速められたステアリング・ギヤボックスと相まって、シャープかつスタビリティの高いハンドリングを実現していた。

ボディ形状は4ドアセダンのみの設定(ワゴンのツーリングをベースとしたプロトタイプも製作されているが、市販化には至らなかった)で、控えめなフロントエアダム、サイドスカート、リヤスポイラー、専用の18インチホイールなどを装備。そのCd値は0.29に抑えられる一方、140km/h走行時に15kg、250km/h走行時には50kgものダウンフォースを発生していた。

M5史上最高のセールスを記録

そして2001年モデルでE39型がマイナーチェンジを行うと、M5もコロナリングと呼ばれたヘッドライト、LEDテールランプ、内装のアップデートなどを採用した後期型へと進化するが、機関的な内容およびパフォーマンスに変化はない。

なおE39型M5の生産はBMW M社のガルヒング工場ではなく、BMWのディンゴルフィング工場でスタンダードの5シリーズと一緒に行われた。また先代とは違い、メジャーレース以外でもM5がモータースポーツ活動を行うことはなかった。

しかしながら、それがM5の価値を価値や神話性を損ねることは一切なく、全世界で約2万台という、M5史上最高のセールスを記録することとなった。それはまたモータースポーツ由来ではなく、上質で高性能なハイパフォーマンスサルーンとしてのM5キャラクターが、多くのユーザーに浸透していることの証明でもあった。

E34型BMW M5。

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鮮烈な印象を与えるBMWのスポーツイメージ。その源流はモータースポーツ、ひいては現在の「BMW M社」にある。本連載では、BMWとM社が築き上げてきた歴史を振り返り、象徴的なモデルとともにその軌跡を辿る。今回は「5シリーズ」ベースの2代目「M5」を紹介する。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…