ANTHONY JANNARELLY
CHIEF DESIGNER

「ケータハム プロジェクトV」は、ケータハムらしいシンプルでミニマルなスポーツカー目指したフル電動スポーツカーだ。カーボンファイバーとアルミニウムの複合シャシーは、2+1仕様で車重1190kgを目標としている。200kW(272PS)を発揮するシングルモーターをリヤアクスルに搭載し、55kWhのリチウムイオンバッテリーが組み合わされ、0-100km/h加速4.5秒未満、最高速度230km/h、WLTP航続距離400kmを謳う。そんなプロジェクトVのチーフデザイナーを務めるアンソニー・ジャナレリ氏に、プロジェクトVに込めた思い、自身のデザイン哲学のことを訊いた。
──プロジェクトVのローンチが近づいてきました。
正式なローンチは2026年で、生産開始は2027年頃になるでしょう。軽量で楽しいクルマにするため、パッケージの選定に時間がかかっています。昨年発表したヤマハのeアクスルが非常に高いポテンシャルを持っています。バッテリーを車両中央に搭載して、これはハンドリングや重心も有利です。電気モーターの組み合わせや、ソフトウェア次第でクルマの挙動を細かく調整でき、楽しさを引き出せるでしょう。
──クラシカルでありながらとても美しいデザインです。心がけたことは?
ケータハム・セブンの基本はシンプルでミニマリズムにあり、軽量で運転が楽しいという本来の機能のためにデザインされます。このプロジェクトVでは、この哲学をスポーツクーペのアーキテクチャーに応用し、魅惑的で時代を超越したシルエットを生み出しました。ただしクルマの下部は非常に技術的です。そこに電気自動車だということが現れています。それ以外はとてもクラシカルです。EVの場合、空力的に優れたデザインができます。例えばホイールの位置を自由に決められます。エンジンを積むための大きなスペースが必要ないため、非常に丸みを帯びた、美しいプロポーションの自由度が高くなります。



──このスタイリングは新しい時代を感じさせるものですが、一方で古くからのケータハムのファンの中には、オープンホイールのフォーミュラカーのようなスタイリングを期待する人もいます。
「ケータハム セブン」は現在も生産されています。だからこそケータハムとして、セブンと競合しない新たなラインナップが必要でした。他の自動車メーカーも用途に合わせて複数のラインナップを持っていますよね。このプロジェクトVは、日常使いができるスポーツカーという位置付けです。例えば「ポルシェ 911」のように。セブンは用途が限られているので、もっと日常的にケータハムを楽しめるようにしたかったのです。
──近年のEVに対する逆風をどのように考えますか?
たしかに日本やイギリスで現在EVがあまり売れていませんが、これは技術がまだ十分成熟していないからでしょう。都市型コンパクトカーやスポーツカーには向いています。特にスポーツカーの場合、EVはトルクが豊富で楽しい走りを実現できます。長距離移動は難しいですが、スポーツカーのように楽しさを重視した用途ならば問題ありません。20分の充電も休憩なら許容できます。メンテナンスも安価で、サーキットでの使用にも向いていると思います。
──このプロジェクトのデザイン契約をしていますが、次のプロトタイプの製作予定はありますか?
私はケータハムのメインデザイナーとして活動していますが、自分のデザイン会社も持っています。次のデザインを考えるにはまだ早いですが、プロトタイプ段階でプロジェクトVの進化版を作っています。ただし基本的なスタイルは変わりません。まずはこのクルマを生産に乗せることが先決です。私はガソリンエンジン車も好きですが、選択肢としてEVもあるべきだと思います。現代の4気筒エンジン車は静かすぎて楽しさが減っていますから、電気でもそれほど差はないと思います。個人的には音楽を聴きながら走るのも好きですし、室内が広く実用的な点も魅力です。



──ドバイでケータハム セブンを所有しているそうですね。
はい。私がドバイに移って、初めて買った車が1996年型セブンでした。ドバイでは珍しく、10台ほどしかありません。雨が降らないので駐車も困りません。バイクのように楽しめ、運転そのものが楽しいですね。
──Wモーターズの「ライカン ハイパースポーツ」もデザインしました。
その通りです。私は個人的にケータハムのような軽量で楽しいクルマが好きなので、その発想から妻でも快適に乗れるクローズドキャビンのライカン・ハイパースポーツをデザインしました。それが現在のプロジェクトVにつながっています。他にもプロジェクトVの前にデザインしたのが、フェラーリ 360モデナをベースとした「アエラ60」があります。これはプロジェクトVとはまったく異なるコンセプトです。


プロジェクトVは、EVであってもケータハムらしく軽量でシンプルであることを趣旨として、最低価格帯は8万ポンド(約1500万円)未満を目標に開発中だという。