【フェラーリ名鑑:25】近代V8フェラーリの変革期「360モデナ」「430」

近代V8ミッドシップを盤石とした「360モデナ」「F430」(1999-2005)【フェラーリ名鑑:25】

【フェラーリ名鑑:25】近代フェラーリの基礎となった360&430シリーズ
V8エンジンをミッドに搭載するフェラーリ 360 モデナ。後継車のF430とともに現代フェラーリの礎を築いた名シリーズだ。
「V12エンジン搭載車こそフェラーリを名乗れる」という時代はとうに過ぎ、むしろ今ではV8エンジンをミッドに搭載するシリーズが人気の中心。V8ミッドシップシリーズの人気を盤石のものにした記念碑的なモデルこそ、「360モデナ」「430」シリーズだ。

Ferrari 360 Modena / F430

すべてを一新して誕生した360シリーズ

フェラーリのV8ミッドシップレンジをになってきた355シリーズに代わり、1999年に発表されたのが360 モデナだ。

フェラーリのF1チームであるスクーデリア・フェラーリが、まさに連戦連勝を重ねる中で誕生した新型8気筒ミッドシップモデルが「360 モデナ」だ。ワールドプレミアが行われたのは1999年春のジュネーブ・ショー。そこでアンヴェールされた360 モデナを見て、まず驚きを隠し得なかったのは、ボディデザインのコンセプトが大きく改められていたことだろう。

それはもちろんピニンファリーナによって行われものだが、フェラーリのミッドシップ車に伝統的に用いられてきたトンネルバック・スタイルは廃止され、リヤウインドウがボディのテール近くまで滑らかに続くファストバック・スタイルへと変更されているのが大きな特徴だった。これはF40からアイデアを得たデザインと考えられる、このニュースタイルによって、カスタマーはミッドシップされるエンジンの姿を外部から見ることが可能になった。

モデナとは、言うまでもなくフェラーリが本社を置くマラネッロに属する県の名前であり、イタリア車ファンにとっては聖地ともいえる場所。それを堂々とネーミングに掲げるあたり、フェラーリがこのニューモデルに対する自信が表れている証しのようだ。確かにこの360 モデナをドライブしてみると、あらゆる部分で画期的な進化を遂げていることが確認できる。前身となったF355が硬派な昔ながらのフェラーリをイメージさせる完成形ならば、この360 モデナはすべてが近代化されたモデルと評するべきだろう。

最高出力400PSを発揮し、空力と軽量化策も強化

3.6リッターV8は最高出力400PS、最大トルク373Nmを発揮。トランスミッションは6速MTと同じく6速のF1マチックが用意されていた。

ミッドに搭載されるエンジンは、3586ccの排気量が設定されたV型8気筒。これはF355用のV8からストロークを2mm延長して得た排気量で、DOHC40バルブヘッドはそのまま継承されているものの、吸気管長の切り替えやカムシャフトの作用位相切り替え、排気側の作用位相切り替えとバルブタイミングなど、可変機構はさらに進化している。

最高出力は400PS。トランスミッションは6速MT、もしくは6速のF1マチック(セミAT/2ペダル仕様)の選択ができた。軽量化を目的にアルミニウム製のスペースフレームを採用したほか、エアロダイナミクスへのアプローチは355時代よりもさらに進化を遂げ、シャシー下面をフラットボトム化し、ダウンフォース量を増加させる策を取り入れるなど徹底した姿勢を見せ始めたのもこの360 モデナからだ。それによって、355と360とでは、走りの印象もまったく異なると話題となった。

電動開閉が可能となった「360 スパイダー」

2000年に発表された360 スパイダー。ルーフはソフトトップを採用し、電動でオープン/クローズが可能になった。

2000年のジュネーブ・ショーでは、360シリーズにフルオープンモデルの「360 スパイダー」が追加設定された。メカニズムは基本的に360 モデナと共通で、ソフトトップの開閉は、この360 スパイダーに至って、ようやくフルオートマチックに至った。

そのスタイリッシュな佇まいやオープンスポーツとしての性能は、360 スパイダーの人気を支えた大きな理由だった。ウエイトはソフトトップや、その開閉システム、そして補強のためにクーペ比で60kgほど増加したが、実際の走りには不満を感じることはまったくなかった。そして360 スパイダーはアメリカ市場を中心に、フェラーリの狙いどおり爆発的なヒット作となったのである。

現在に続くモダン・フェラーリの基礎となった「F430」

現代フェラーリの礎ともいえるほどエポックメイキングな装備(マネッティーノ、E-Diff、他)をもつF430。

この360 モデナが「F430」にマイナーチェンジされたのは2004年のことだ。最大のトピックスは、もちろんミッドに搭載されるV型8気筒エンジン。4308ccへと排気量が拡大されたこのV型8気筒自然吸気エンジンは完全新設計で、それまでの5バルブから4バルブ式に変更されたことも注目された。

最高出力は490PSを発揮し、トランスミッションは6速MTと6速F1マチックからチョイスが可能だった。ステアリングに走行モードを選択するロータリースイッチ「マネッティーノ」や、電子制御ディファレンシャルの「E-Diff」が搭載されたのもこのF430からである。

F430に設定されたオープンモデル、F430 スパイダー。そのスタイリッシュなエクステリアデザインによって世界中で大ヒットとなる。

その意味では、F430は現在に続くモダン・フェラーリの基礎となったモデルとも表現することができる。2005年にはオープン仕様の「F430 スパイダー」も追加。後に誕生する高性能モデルの「430 スクーデリア」や「スクーデリア・スパイダー 16M」も、F430、そしてF430 スパイダーをベースに製作されたモデルだ。いずれもミッドのV8エンジンは510PSにまでチューニングされ、クーペのスクーデリアでは最高速度320km/h以上に達すると発表された。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 360 モデナ

年式:1999年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(5バルブ)
排気量:3586cc
最高出力:294kW(400PS)/8500rpm
最大トルク:373Nm/4750rpm
乾燥重量:1290kg
最高速度:295km/h

フェラーリ 360 スパイダー

年式:2000年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(5バルブ)
排気量:3586cc
最高出力:294kW(400PS)/8500rpm
最大トルク:373Nm/4750rpm
乾燥重量:1350kg
最高速度:290km/h

フェラーリ F430

年式:2004年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(4バルブ)
排気量:4308cc
最高出力:360kW(490PS)/8500rpm
最大トルク:465Nm/5250rpm
車両重量:1450kg
最高速度:315km/h

フェラーリ F430 スパイダー

年式:2005年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(4バルブ)
排気量:4308cc
最高出力:360kW(490PS)/8500rpm
最大トルク:465Nm/5250rpm
車両重量:1520kg
最高速度:310km/h

※すべてメーカー公表値

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…