目次
ジープが見つめるちょっと先の未来
日本で好調な売れ行きを続けるジープ。さる2021年7月14日に、ジープはオンラインで電動化をめぐる企業のストラテジーをジャーナリストに向けて発表した。
3列シート化がファンのあいだで話題になっている、今秋発売予定の「ジープ グランドチェロキー」に「4xe(フォーバイイー)」モデルを設定するなど、ごく近い未来から、2030年というちょっと先の未来まで視野に入れて、ジープ製品の計画について語られた。
プレミアムSUVセグメントのパイオニアとして

「私たちにとって大切な戦略は、プレミアムセグメントへの進出です。(2022年の)ワゴニアとグランドワゴニアの投入は、プレミアムSUVセグメントを創造したジープにとっての原点回帰といってよいものです」
オンラインでの記者会見に登場して、そう語ったのは、ステランティスグループにおいてジープブランドのCEOを務めるクリスチャン・ムニエ氏だ。
「アメリカのクラフツマンシップとヘリテージ、そして上質さに裏打ちされた2つのモデルには、従来のVIPサービスの概念を覆す新機軸のオーナー向けサービスが用意され、かつてないレベルの顧客体験を約束します。忘れてはならないのは、プレミアムSUVセグメントを創造したのはジープであるという点です」
フル電動のジープを2025年までに投入

ジープの商品戦略として、2021年8月開催の「ニューヨーク オートショー」で公開される新型グランドチェロキーが、最新のニュースだ。
「3列シート8人乗りのジープ グランドチェロキーLを販売することで新たなセグメントへと参入します。そのあとには、PHEVテクノロジー採用のグランドチェロキー 4xe(フォーバイイー)が控えています。私たちはゼロエミッションの未来世界をビジョンとして掲げており、2025年までにはゼロエミッションのフル電動ジープ4xeを全セグメントに揃える予定です」(ムニエCEO)
ラングラーのPHEVは3ヵ月で完売

北米において、2020年にデビューしたプラグインハイブリッド「ラングラー4xe」は発売して3ヵ月で完売というヒットとなった(日本未発売)。このように、ジープは実績を着々と築きあげている。
「ラングラーの『トレイル レイテッド4×4』で保証される悪路走破性の高さは、防水バッテリーパックや密閉された電装によってはじめて、過酷な環境での使用にも耐えるようになりました」。ジープはプレス向け資料に書く。
「かつてないほど悪路走破性に優れたパワフルで効率的でエコで先進的なラングラーです。しかも電動モーターでの走行時は、静寂を壊すことなく大自然を堪能することができます」
ジープがEVになるのは「正常進化」

日本にも2020年に、後輪をモーターで駆動するフルタイム4WDシステムを備えたプラグインハイブリッドの「ジープ レネゲード4xe」を導入済みのジープ。オンロードでのパワフルさが印象的なモデルだ。オフロードでの試乗は、冬の北海道へと出発の日に大雪で便が欠航になり、私は以来、残念ながら未経験だ。
ジープの技術者は、微妙なトルク調節が求められるオフロードではモーターに利があるとしていて、ジープが電動化するのは、生物でいえば正常進化にあたる、というのだ。そこがおもしろい。
「ICE(ガソリンエンジンのような内燃機関)では不可能な、ゼロrpmから瞬時にして最大トルクを引っ張り出すことが電動化によって可能になります。それがジープの悪路走破性に新次元のパフォーマンスをもたらすのです」と、ムニエCEOは述べている。
今後、ワゴニアを含めてジープのすべてのラインに4xeテクノロジーを採用。2025年までにすべてのモデルレンジにおいてフル電動化された4xeモデルを投入し、全世界で販売される7割のジープを電動車にする。上記のように、今回の記者会見で明言されたのも印象的だ。
段階的に加速していく電動化

「私たちはジープを最もグリーンでもっとエキサイティングなSUVブランドにしようと決意を新たにしています。ジープを電動化すれば、通勤のような短距離なら電気だけで移動が可能になります。一方で、オンロードでの運転の楽しさや効率性はそのままに、オフロードでも静寂のまま高い走破性をお楽しみいただけます」(ムニエCEO)
ムニエCEOによると、インド・アジア太平洋地域にまもなくゼロエミッションの世界がやってくる、という。すでに動きは始まっており、それを「クルマの電動化は言ってみればローリングスタートのようなもの」と表現したのが、言い得て妙と思った。
ローリングスタートとは、読者のかたならご存知のように、レースのスタート形式のひとつ。フォーメーションラップの後にホームストレート上に静止することなく、そのまま加速しスタートするやりかただ。電動化はある時点でいっせいに始まるのでなく、モデルごとに段階的に、ということだ。
「一方で、世界が求める未来に向けた様々な努力と、消費者のニーズの急激な変化、そして私たち全員の地球へのリスペクトが、急速かつ急激にクルマを電動化へと推し進めていくことになるでしょう」(ムニエCEO)
メカが変わればデザインも変わる

ジープ人気の理由のひとつは、デザインにある。とくに「ラングラー」は、ラギッド(ゴツい)なる形容が似合う、機能主義の極致でありながら、頑丈で乗るひとを守ってくれるイメージ。後者はとくに、女性ウケしている理由だろう。
「ジープがどれだけ進化したとしても、その精神性を見た目に表現することがとても大事」。オンラインの画面に登場してこのように語ってくれたのは、ジープ・エクステリアデザインで本部長(ディレクター)を務めるマーク・アレン氏だ。
「(電動化によって)車内で乗員が落ち着く場所は変えられないが、メカニカルなコンポーネントや部品などを動かすことが可能になります。つまりクルマのレイアウトを完全に白紙から考えることが可能になるのです。タイヤの位置だって、これまでの既成概念を覆す場所に移すこともできるかもしれません」
現時点の問題点はバッテリー搭載位置。「ただし、今後技術の進展とともにバッテリー自体の形状やサイズなどがどんどん変わっていくと思うので、それに対応したデザインを考え始めています」とアレン氏は語る。
オンラインでの記者の質問に答えて、ジープのこれからのデザインについてアレン氏が「モーフィング(morphing)」という言葉をつかったのが興味深かった。通常、ひとつの画像から別の画像へゆるやかに変化していく処理のことを指す用語だからだ。ラングラーをはじめ、ジープ車のデザインもゆるやかに変わっていくというのだ。
北米のオフロードスポットに充電ステーションを

ジープでは、2021年7月に「Jeep Life Electrified」(電動化されたジープによるクルマ生活というような意味か)と題した動画をYouTubeにポスト。そこでは現在から2030年にかけての、ジープ車の変化と、それがユーザーにもたらす恩恵がテーマとなっている。
興味深いのは、ジープが仮に設定したカレンダーだ。240ボルトの太陽光発電チャージングステーションを北米のオフロードの要所に設置するのが、2021年7月。
続けて2025年7月には、人体認証システムによるドライバーの特定化とパーソナライゼーションプログラムの実施が目指されている。加えてこのときまでにピア・ツー・ピア充電(どうなるかわからないが、可能性としてはフリーウェイにロボットアームを設置して自動で充電するシステム)や、クルマと連動して動き画像などを撮影してくれる「ジープ・ドローン・ペアリング」の実現の可能性が言及されている。
自動運転時代におけるジープの明るいビジョン

2030年7月にはオフロードでの自動運転化、設定したコースを無人で車両が走行するリモート車両追跡、それに乗員がフルフラット化したシートに寝そべって空を見上げながら完全自動運転にゆだねられる天体観望フルフラットシートが実現するかもしれない。
これらは、「Jeep Life Electrified」ビデオで観ることができる。ジープが「2030年までのジープの方向性とビジョンを表現している」とするこのビデオのコンテンツ、ちょっと能天気だけれど、なかなか楽しそうだ。
「今後ジープがどういう技術を実装していくのかではなく、それらによって、どういう価値創造をしていくのかをぜひともご覧いただきたい」と、ジープではジャーナリスト向けのプレスリリースで謳っている。
1946年にウィリス オーバーランド社が業界初となるスチール製ボディを採用したステーションワゴン、ウィリス ワゴンを開発したことがスタートとなったジープ。これから電動化で新しい分野を開拓しようとしている。意気込みが感じられるオンライン記者会見だった。