1962 Porsche 804 F1【ポルシェ図鑑:15】

【ポルシェ図鑑】「ポルシェ 804 F1(1962)」空冷エンジンで優勝した史上唯一のF1マシン。

ポルシェ 804 F1のフロントスタイル
空冷水平対向8気筒エンジンを搭載し、ポルシェにF1初優勝をもたらした804 F1のフロントスタイル。
ポルシェにとって悲願だったF1選手権の初優勝は、1962年のフランスGPで達成された。この時、ダン・ガー二ーがドライブした804 F1は1.5リッター空冷水平対向8気筒DOHCエンジンを搭載。F1史上初にして唯一の空冷エンジン搭載モデルの勝利であり、804 F1の快挙は今後未来永劫語り継がれていくだろう。モータースポーツ史に燦然と輝く、ポルシェ 804 F1を解説する。

1962  Porsche 804 F1

スリムな鋼管スペースフレームに、ブッツィのボディ

718シリーズでF2選手権に参戦していたポルシェが、F2の廃止に伴いF1に挑むため開発した804 F1。鋼管スペースフレームと前後ダブルウィッシュボーン、4輪ディスクブレーキを採用し、アルミ製ボディを纏う。

1961年からスタートした1.5リッター規定に合わせポルシェ社内で独自に開発された、当時としても異色の空冷水平対向8気筒エンジンを搭載するF1マシン。

ポルシェでは1957年からセンターコクピットに改造した718 RSKで、1.5リッターで争われていたF2選手権に挑戦。数度の優勝を飾るなど結果を残していたが、1961年からF1が1.5リッターとなりF2選手権自体が消滅したことで、活動の場を失うこととなった。

フェラーリやクーパーに対抗するため、すべてを刷新

ところが新しいF1とそれまでのF2のレギュレーションに大きな差がなかったため、彼らは718 F2の空冷水平対向4気筒DOHCにクーゲルフィッシャー製の機械式インジェクションを装着した787 F1を製作し、F1GPに打って出る。

しかし、肝心のフューエルインジェクションにトラブルが多発し、わずか2戦でお蔵入り。急遽キャブレター仕様の718 F2を持ち出すものの、V6ディーノ・ユニットをもつフェラーリや、シーズン後半にコヴェントリー・クライマックスV8 FWMVユニットを投入したクーパーなどのライバルの敵とはなりえなかった。

空冷水平対向8気筒エンジンを開発

新たに開発された1.5リッター空冷水平対向8気筒DOHC“753ユニット”を搭載。最高出力185ps/最大トルク153Nmのスペックから最高速度は270km/hを達成した。

そこでポルシェが開発したのが、ボア66mm、ストローク54.6mmをもつ空冷水平対向8気筒DOHC“753ユニット”だ。ツインプラグの半球形燃焼室をもつシャフトドライブの4カムヘッドなど、従来のカレラ・ユニットに共通するメカニズムをもつ一方で、アルミ合金のシリンダーに硬質クロムメッキを施したクロマル・シリンダー、マグネシウム合金製のクランクケース、チタン合金製のコンロッドなど、ポルシェの持てる最新技術を惜しみなく投入。その最高出力は185ps、最大トルクは153Nmといわれた。

シャシーも718から脱却し、スリムな鋼管スペースフレームへと変更。一方のサスペンションは前後ダブルウィッシュボーン、ブレーキはポルシェ自製の4輪ディスクとオーソドックスなものとなった。またアルミ製のボディは“ブッツィ”ことフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェによるもので、合計で4台が製作されている。

悲願の初優勝を果たし、F1史上初の記録を残す

現在のところ、F1GP史上最初で最後の空冷エンジン搭載車による優勝となった1962年のフランスGP。前戦ベルギーを欠場し、マシンの改良を行ったダン・ガーニーの乗る804 F1(シャシーナンバー804-02)は予選6位からスタート。アクシデントやトラブルが多発する荒れたレースの中、安定したペースで走り終盤からトップに立った。

1962年シーズンの開幕戦オランダGPから、ダン・ガーニー、ジョー・ボニエの2カー体制で参戦したポルシェ804だが、メカニカルトラブルが多発。第2戦モナコではボニエが6位入賞を果たしたものの、マシンの熟成を図るため続く第3戦ベルギーを欠場することとなった。

そして復帰戦となったルーアンでの第4戦フランスGP。予選6位からスタートしたガーニーの804は、トラブルやアクシデントで脱落する上位陣を尻目に快走し、自身にとっても、そしてポルシェにとっても悲願の初優勝を果たすことになる。それはまた、空冷エンジンを搭載したF1マシンの公式戦唯一の優勝記録にもなった。

未来永劫語り継がれる名車

シュトゥットガルト郊外のソリチュード・リンクと呼ばれる公道コースで1962年7月15日に開催されたF1ノンチャンピオンシップ戦で優勝したダン・ガーニーとポルシェ 804。チームメイトのジョー・ボニエも2位に入り、地元で嬉しい1-2フィニッシュとなった。

その後7月にドイツ・ソリチュードで行われたノンタイトル戦でガーニーとボニエが1-2フィニッシュ、8月にニュルブルクリンクで行われたドイツGPでガーニーがポールポジション&3位入賞という活躍をしたものの、コンパクトなコヴェントリー・クライマックスV8 FWMVを積むモノコック・シャシーのロータス 25の前では、それ以上の活躍は見込めなかった。

結局、最終戦南アフリカGPに出場することなくポルシェ・ワークスはF1活動を休止。ドライバーズランキングでガーニーが5位、ボニエが14位、コンストラクターズでフェラーリの前となる5位でシーズンを終了する。その後、1980年代にマクラーレンのエンジンサプライヤーになるまでポルシェがF1に復帰することはなかった。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 804 F1
年式:1962年
エンジン形式:空冷水平対向8気筒DOHC
排気量:1494cc
最高出力:185hp
最高速度:270km/h

TEXT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

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