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Maserati Grecale
MC20の工場で果たした思わぬ“初対面”
2021年、マセラティMC20の試乗会でイタリアに招かれた際、帰りのフライトまで少し時間があったので、マセラティ本社広報の計らいにより、MC20の工場を見せてもらった。この工場は本社の敷地内にある歴史的建造物にも指定された由緒正しき生産施設で、グラントゥーリズモ/グランカブリオの生産終了後に刷新されてMC20のラインとなった。
本社の正門をくぐり、徒歩で工場へ向かう途中、パーキングスペースのあちらこちらに擬装が施されたSUVルックのテスト車が止まっていた。我々のようなメディアとメーカーには暗黙の紳士協定みたいなものが信頼関係の上に成り立っていて、こういう車両を目にしても(本当は色々と知りたくても)根掘り葉掘り聞いたりしないことになっている。でも思わず「あ、小さいヤツね」と漏らしたら、広報担当は「もうすぐ会えるよ」とニッコリ笑ってウインクをしてくれた。これがグレカーレと初めて会った瞬間だった。
マセラティらしい伸びやかで量感的なスタイリング
グレカーレはレヴァンテに次ぐマセラティのSUVである。ミストラル、ギブリ、ボーラなど歴代のマセラティの数々がそうであったように、グレカーレという名前の由来もまた風の呼び名で、地中海に吹く北東の風を意味している。
ボディサイズ(欧州仕様)は仕様によってわずかに異なるものの、全長4846-4859mm、全幅1948-1979mm、全高1659-1670mm、ホイールベース2901mmと公表された。参考までに日本仕様のレヴァンテGTは全長5005mm、全幅1981mm、全高1693mm、ホイールベース3004mmだから、ザックリとひと回り小さくなっている。そのフォルム自体は、Aピラーからフロントバンパーまでを長くとると共に後方にボリュームを持たせ、エンジンを縦置きにしたスポーティなモデルであることを印象付けるレヴァンテと基本的に似ている。
ジウジアーロの“ブーメラン”を再解釈
一方で、低い位置に構えたフロントグリルなどはMC20からスタートしたマセラティの次世代デザイン言語を踏襲するものでもある。グレカーレには「GT」「モデナ」「トロフェオ」の3タイプが用意されているが、モデナとトロフェオではリヤのトレッドをGTよりもわざわざ34mm拡大し、スポーティな印象をさらに際立たせている。テールランプの形状がボディサイドで下方に下がる通称“ブーメラン”デザインは、ジウジアーロの手による3200GTのテールランプをモチーフにしているそうだ。
デジタル化の波はマセラティにも及んでいるようで、それはグレカーレの室内を見れば一目瞭然である。メーターパネルに加えて、センターコンソールにはナビゲーションやオーディオの操作を担う12.3インチと、主にエアコンなどのスイッチを収めた8.8インチのタッチパネルが上下にレイアウトされている。シフトスイッチはふたつのモニターの間に見えるが、それ以外に機械式のスイッチはセンターコンソールから姿を消している。さらにダッシュボード上部にはマセラティの象徴のひとつとも言うべきアナログ時計が備わるものの、実はこれまで液晶表示となった。インフォテインメントシステムは音声入力対応となり、声を認識するとこの時計が光って合図をしてくれる仕掛けにもなっているという。
自慢の自社製V6ツインターボエンジンを改良して搭載
前述のようにグレカーレは3タイプの仕様があり、パワートレインもそれに準じて3タイプが存在する。トップレンジのトロフェオが搭載するのは3.0リッターのV6ツインターボで、これはMC20の“ネットゥーノ”の改良版とされている。プレチャンバーを使った燃焼システムなど基本的な部分は共有するものの、ミッドシップのMC20はエンジン搭載位置を低くするためにドライサンプとしていたが、グレカーレではウェットサンプを採用している。最高出力530ps/6500rpm、最大トルク620Nm/3000-5500rpmを発生し、8速のATを介して4輪に駆動力を伝える。
モデナとGTはいずれも2.0リッターの直列4気筒をベースにしたマイルドハイブリッドで、すでにギブリやレヴァンテが使っているユニットである。制御プログラムの違いにより、GTは最高出力300ps/5750rpm、最大トルク450Nm/2000-4000rpm、モデナは最高出力330ps/5750rpm、最大トルク450Nm/2000-5000rpmをそれぞれ発生する。トランスミッションは8速ATで駆動形式は4WDとなる。
トップグレードはエアサスペンションが標準装備
グレカーレはアルファロメオでも使われているジョルジョ・プラットフォームを共有し、4WDのシステムもアルファのステルヴィオやレヴァンテと基本的に同じである。つまり油圧の湿式多板クラッチを用いた可変駆動力配分式で、デフォルトは前後の駆動力配分が0:100のFR、状況に応じて最大50:50 まで随時可変する。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマルチリンク形式とし、GTは電制ダンパーと空気ばねがオプション、モデナは電制ダンパーが標準で空気ばねのみオプション、そしてトロフェオは電制ダンパーと空気ばねを組み合わせたエアサスペションを標準装備する。エアサスペンション装着モデルはドライブモードやクルマの状況によって65mmの調整幅の中で車高が自動的に設定され、例えば駐車時では最大−35mm、オフロードモードでは最大+30mm、それぞれ車高が変化する。
「当たり障りのない普通のSUV」にならないのがマセラティ
プラットフォームやパワートレインやサスペンションはレヴァンテと共有する部分も多いけれど、それよりひと回りコンパクトなグレカーレはその分だけ小気味よい走りを披露してくれるのではないかという期待が高まる。一方で、レヴァンテと決定的に異なる点はマセラティ史上初となるSUVのBEV仕様が用意されることだ。
“グレカーレ・フォルゴーレ”と別名が与えられるそれは約1年後に登場する予定である。105kWhのバッテリーを搭載し、最大トルクは800Nmにも及ぶという。MC20にもBEVバージョンがあるとすでに公式アナウンスがされているが、両車のシステムがまったく同一かどうかは定かではない。
本来であれば2021年に発表されるはずだったグレカーレは、すでに飽和状態に近いと言われているSUV市場にようやく投入されることになる。タイミング的には少し不利かもしれないけれど、マセラティのこれまでの歴史とプロダクトとブランド力から察するに、それが当たり障りのない普通のSUVではないことは容易に想像が付く。地中海に吹く北東の風を、実際に肌で感じる日がいまから待ち遠しい。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
マセラティ グレカーレ トロフェオ
ボディサイズ:全長4859 全幅1979 全高1659mm
ホイールベース:2901mm
車両重量:2027kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:88.0×82.0mm
総排気量:3000cc
最高出力:530ps/6500rpm
最大トルク:620Nm/3000-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.8秒
マセラティ グレカーレ モデナ
ボディサイズ:全長4847 全幅1979 全高1667mm
ホイールベース:2901mm
車両重量:1895kg
エンジン:直列4気筒SOHCターボ+BSG(MHEV)
ボア×ストローク:84.0×90.0mm
総排気量:1995cc
最高出力:330ps/5750rpm
最大トルク:450Nm/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
最高速度:240km/h
0-100km/h加速:5.3秒
マセラティ グレカーレ GT
ボディサイズ:全長4846 全幅1948 全高1670mm
ホイールベース:2901mm
車両重量:1870kg
エンジン:直列4気筒SOHCターボ+BSG(MHEV)
ボア×ストローク:84.0×90.0mm
総排気量:1995cc
最高出力:300ps/5750rpm
最大トルク:450Nm/2000-4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
最高速度:240km/h
0-100km/h加速:5.6秒
【問い合わせ】
マセラティコールセンター
TEL 0120-965-120
【関連リンク】
・マセラティ 公式サイト
http://www.maserati.co.jp/