ロールス・ロイスしかできない? 現代に蘇った真のコーチビルドが生んだ「ボート・テイル」

これがロールス・ロイスのオートクチュール。桁外れの富裕層一族がオーダーした特注カブリオレ「ボート・テイル」の第二弾登場

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤビュー
ロールス・ロイスは、2022年5月20日に、コーチビルドで製作した「ボート・テイル」の2作目を公開。真珠をテーマに、特別なボディカラーや内装を施した世界に1台のロールス・ロイスだ。
ロールス・ロイスは、2021年に伝統の「コーチビルド」を現代に蘇らせ、新たな事業の柱に据えると発表。その第1弾として3台の「ボート・テイル」を作ることを明言していた。今回、その2作目がいよいよ完成。真珠をイメージした優雅な特注モデルの姿が公開された。

Rolls-Royce ‘BOAT TAIL’

ビスポークの限界を超えた究極のカスタムメイド

家具や服、そしてもちろんクルマも、それが高級であればあるほど、顧客は自分の趣味や好み、環境、使い勝手などに合わせて“自分だけの仕様”をオーダーするのが当たり前になる。例えば、ロールス・ロイスを新車で購入するほとんどのオーナーは、大なり小なり、どこかしらに自分の希望を忍ばせたビスポーク仕様を注文するという。

そのビスポークの世界を、さらにもう一歩押し進めたのがロールス・ロイスの「コーチビルド」プログラム。プラットフォームやパワートレイン、シャシー以外の部分を、ほぼすべてオリジナルで作り上げるという手法は、デザイナーが顧客のために完全オリジナルの衣装をデザインする“オートクチュール”に近い。

同社のコーチビルドデザイン責任者、アレックス・イネスは次のように説明している。

「コーチビルドには、一般の制約を超えた自由があります。通常、ロールス・ロイスのビスポークには、キャンバスとしての当然の限界点(自然の天井)があります。しかし、ロールス・ロイス コーチビルドではその限界を打ち破り、コーチビルドならではの自由な表現力を活かし、パトロンであるお客様と一緒になってコンセプトを直接カタチにします」

原寸大のクレイモデルから手仕上げのアルミボディまで

新生コーチビルド部門が最初に手掛けたのが、3台の「ボート・テイル」。現行ファントムで導入したオールアルミニウム製スペースフレーム構造をベースにはしているものの、原寸大のクレイモデルから手仕上げのアルミボディまで、ほぼワンオフモデルとしてイチから再構築されている。

現代の船舶デザインに造形の深い3名の顧客がオーダーした3台のボート・テイルは、ボディこそ共通だが、カラーや細部についてはそれぞれの要望を細かく採り入れている。2021年5月に公開された最初の1台は、海をイメージしたブルー基調の仕上がりとなっていた。

今回のテーマは「真珠」

今回発表された2作目のテーマは、真珠。家業として真珠産業を発展させてきた父親をもつ注文主が、一族の歴史に敬意を表す意味でオーダーしたという。

初期の打ち合わせで、顧客は真珠貝のコレクションの中から厳選した4つの貝をロールス・ロイスのデザイナーに提示。その独特で複雑な色味をもとに、特別な外板色が生み出されていった。

塗料の基本となっているのは、オイスターとソフトローズ。そこにホワイトとブロンズの大きめなマイカフレークを加えることで、光や角度によって微妙に変化する真珠のような質感を実現している。さらに、ボンネットも特別なコニャックカラーで塗装。ブロンズとゴールドのアルミニウム・マイカフレーク層に、クリスタルとマットのクリアコートを重ねることで、まるでシルクのようなきめ細やかな肌合いを生み出した。

無垢のアルミから削り出したグリル

ロールス・ロイス ボート・テイルのスピリット オブ エクスタシー
ロールス・ロイス ボート・テイルのスピリット・オブ・エクスタシーは、テーマカラーに合わせてローズゴールドの“衣装”を着せられている。

フロントマスクに嵌め込まれたパンテオングリルは、無垢のアルミニウム材から削り出した逸品。その上に鎮座するスピリット・オブ・エクスタシーも、テーマカラーに合わせてローズゴールドの“衣装”をまとっている。

車内にもロイヤルウォールナットや、コニャックカラー及びオイスターカラーのレザーをふんだんに使用。さらに、顧客自らが選択したマザーオブパールをあしらったクロックや計器類、操作スイッチにより、ノーマルのロールス・ロイスとは一風異なるエレガンスが生まれている。

ボディの製作だけで8ヵ月

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤデッキ
ロールス・ロイス ボート・テイルは、「フィックスド・キャノピー・ルーフ」と呼称する、独自の固定式ファブリック製ルーフを採用している。

ボート・テイルは、手書きのスケッチからはじまり、実物大のクレイモデルも製作、デジタルリマスターした造形から作った型にアルミを載せて手作業でボディを成形するという、気の遠くなるようなプロセスを経て作り上げられる。ホワイトボディ関連の作業だけでも8ヵ月を費やすという。

全長5.8mにも及ぶボディは、Jクラス(国際ユニバーサルルールでもっとも大きなクラス)のヨットの純粋なフォルムをモチーフとして造形。「フィックスド・キャノピー・ルーフ」と呼ぶ独特の固定式ファブリック製ルーフをもち、外しているときに悪天候に見舞われた場合を考慮し、雨宿り用のトノーも装備している。

リヤデッキ下には高級カトラリーやパラソルを搭載

ボート・テイル最大の特徴であるリヤデッキは、ロイヤルウォールナットで加飾。ローズゴールド色のめっきを施したピンストライプを組み合わせることで、高級ヨットを思わせる意匠としている。ちなみに、ロイヤルウォールナットは時間の経過により美しく熟成していく特性をもつ。ウッド部分がコニャックカラーへと徐々に深みを増していくという、エイジングもこのクルマの楽しみのひとつである。

デッキ内には、特製のカトラリーキットを格納。ヴィンテージ・シャンパーニュを適正温度に急速冷却できる冷蔵庫やパラソル、イタリアのプロメモリア社製特注スツールも“標準装備”する。

なお、ボート・テイルはもちろん公道走行可能な認証取得車両である。「ロールス・ロイスの静粛性」を厳格な動的テストで確認したうえで、顧客へと受け渡される。

「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。フロントビュー

非公開: ロールス・ロイスのカーボンづかいが凄すぎる! 2年かけて製作した超スペシャルなパネルとは

ロールス・ロイスは、ドバイの顧客がオーダーしたファントムのビスポークモデルを公開した。そのダッシュボードには、150層のカーボンで作成した特別な加飾パネルが嵌め込まれている。

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…