BEVレースのスタートダッシュを切ったトヨタとSUBARU

トヨタとSUBARUのBEVに見るそれぞれの「らしさ」と「違和感」 bZ4X&ソルテラ試乗雑感【渡辺慎太郎の独り言】

SUBARUソルテラのフロントビュー。渡辺慎太郎の独り言トビライメージ
トヨタとSUBARUが共同開発した新型BEV、bZ4Xとソルテラ。両車は主要コンポーネントを共有しながらも、それぞれに明確な個性をもっている。
トヨタとSUBARUは、2022年5月に新型BEVの取り扱いをスタートした。兄弟車として登場した「bZ4X」と「ソルテラ」は、それぞれどんなクルマに仕上がっているのだろうか。試乗会に参加した自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎は、明らかな“違い”と、ちょっとした違和感を覚えたようで・・・。

bZ4Xとソルテラには第3の兄弟車も

トヨタ bZ4XとSUBARU ソルテラの2台フロントビュー
2022年5月よりリリースを開始したトヨタ bZ4XとSUBARU ソルテラ。前者の取り扱いは、法人向けがリース、個人向けはサブスクに限定されている。

トヨタは“bZ4X”、スバルは“ソルテラ”と呼ぶ、いわゆるBEVの兄弟車が発表・発売となった。ちなみにbZ4Xの“bZ”は“Beyond Zero”の略で、今後発表される予定のトヨタのBEVの車名はすべて“bZ”と名乗る可能性が高い。メルセデスの“EQ”のようなサブブランド的名称ということか。“4”はボディサイズを表すミディアムセグメントを意味し、“X”はボディタイプを表すSUVの意味とのこと。

“ソルテラ”はラテン語で太陽を意味する「ソル」と大地を意味する「テラ」を組み合わせた造語で、「行く先を選ばない安心と愉しさを提供するスバルらしいBEVのSUV」という想いが込められているそうだ。

bZ4Xとソルテラは兄弟車と書いたが、実際にはもうひとり兄弟がいて、それがレクサスRZである。ただRZは独自にずいぶんと手を加えているそうで、この2台の差よりももっと乗り味に違いがあるらしいから異父兄弟的存在と言えるかもしれない。

ダンパーの減衰や4WDの制御は「独自」

SUBARU ソルテラのリヤビュー
今回の試乗会では、トヨタbZ4XはFFモデル、SUBARU ソルテラは4WDモデルに乗ることができた。SUBARUならではの全輪駆動の「味」を確認することができた。

bZ4Xとソルテラは、そういうわけで全長/全幅/全高/ホイールベースのボディディメンション、前後のモーター出力/トルク、バッテリー容量、前後サスペンションの形式、ダッシュボードの造形など、多くの部分を共有している。逆に差別化が図られているのは、ダンパーの減衰力、電動パワステの操作荷重、回生ブレーキをコントロールするパドルの有り無し、4WDの制御、ドライブモードの選択数などとなる。

両車ともにFFと4WDが用意されていて、今回の試乗車はbZ4XがFF、ソルテラが4WDだった。両方とも4WDかFFのほうが比較しやすいと考えるか、FFと4WDが試せるのだからヨシとするか、人によってさまざまだと思うけれど、厳正なるくじ引きの結果なのでご容赦を。個人的にはFFが得意なトヨタ、4WDが得意なスバルだから悪くないのではと思った。

決定的な違いは乗り心地

トヨタ bZ4Xのフロントビュー
SUBARU ソルテラの乗り心地はシャッキリ、一方トヨタ bZ4Xのそれはフワフワとした印象。個人的にはソルテラの方が快適に思われた。

両車を乗り比べて誰にでもすぐに分かる決定的な違いは乗り心地である。厳密に言えば、bZ4XはFFなのでリヤモーター(とその補機類)がないから車両重量や前後重量配分がソルテラの4WDとは異なる(車両重量差は約90kg)が、今回の2台に限っては乗り心地そのものが駆動形式による大きな影響を受けることはないと思われる。

ダンパーの減衰力はソルテラのほうが若干高いので、ばね上の振動減衰はソルテラのほうが速い。路面からの入力に対する突き上げ自体も、ソルテラのほうがやや強い。こうしたセッティングはいわゆるスポーティと言われるサスペンションによく見られ、乗り心地は「よくない」とされる場合が多い。

いっぽうのbZ4Xはばね上の振動減衰がソルテラよりもゆっくりで路面からの突き上げも穏やかだから全般的にソフトな印象を受ける。しかし、本当に乗り心地がいいのはソルテラである。bZ4Xは確かにソルテラよりマイルドだが、ばね上の振動が収まるまでに時間がかかり過ぎて、完全に収束する前に次の振動をくらってしまう。よってボディがダイアゴナルに動く状態がずっと続くのである。ソルテラはばね上の動きがすぐに収まって振動の残像が少ない。乗っていてどちらのほうが快適かと聞かれたら、迷うことなくソルテラと自分なら即答する。

よりダイレクトな操舵感が味わえるのはソルテラ

ハンドリングの違いは主に初期応答の辺りに現れていた。ばね上の動きが小さいソルテラのほうが当然のことながら、ステアリングを切り始めた直後からスムーズに車体が向きを変え始める。個人的にはこれくらいではスポーティだとは思わないけれど、ドライバーの入力に対するダイレクト感は感じられる。

bZ4Xはそもそもステアリングのニュートラル付近の手応えがちょっと曖昧で、探りながら切り始めるような感覚だった。両車に共通するのは、リヤサスの取り付け剛性不足。特に高速道路のランプウェイなど、ステアリングを切ったままある程度の速度で走行し続けるようなシーンで、横方向からの入力やGが強くかかった際に、リヤが左右にブルッとする不安定な事象が見られた。

スバル秘伝の4WDの味付け

SUBARU ソルテラのフロントビュー
ソルテラの4WDの制御には、長年培ってきたSUBARUだからこその経験値がたっぷりと注がれていた。それが独特の運転する愉しさに繋がっている。

bZ4Xは高速時の直進安定性など、FFの利点はきちんと発揮されていて、高速道路の巡航では修正舵も少なく長距離でも快適だった。

ソルテラの4WDはスバルならではのこだわりが制御に現れている。bZ4Xの4WDは状況によってFFにもなるそうだが、ソルテラは基本的にフルタイムの4WDだという。前後ともモーターなので駆動力配分は自由自在に可変できるが、スバルの長年の実績と知見により、「こういうときはこれくらいの前後配分」というデータがあって、それに基づく駆動力配分を行っているそうだ。確かに、速度域を問わずスタビリティは常に高かった。パドルを使って回生ブレーキの強弱をドライバーがコントロールできるようにしているあたりにも、運転する愉しさを大切にするスバルらしさが感じられる。

むしろ、なんでbZ4Xはパドルを付けなかった(あるいは外した?)のかがよくわからないけれど、顧客の最大公約数を取りに行こうとするとbZ4Xのような仕立てに、スバルファンの期待も裏切らない仕立てにするとソルテラのようになるということかもしれない。

両者に抱いた“とある違和感”の原因は・・・

トヨタ bZ4Xのリヤビュー
トヨタ bZ4X、そしてSUBARUソルテラは、国産BEV競争を一気に加速させるカンフル剤となるだろうか。bZ4Xは初年度5000台、ソルテラは初年度「150台/月」の取り扱いを目標に掲げている。

実は、どちらのクルマに乗っても最後までなんだか気持ち悪い感じがする部分があった。それはセンターコンソールの各種スイッチのレイアウトである。フロントウィンドウの下、ダッシュボードの奥にはこのクルマのセンターを示す印(=突起)が置かれているのだけれど、ハザードスイッチはそれよりもやや左に、シフトダイヤルはやや右にあって、コンソール上のセンターが歪んでいるのである。

一般的にセンターコンソールは左右がシンメトリーになっているか、あるいはハザードや時計やシフトレバーなど目に付きやすいものがド真ん中にレイアウトされている。この2台はそうなっていないので、それが違和感だったのだ。

この件をスバル側のチーフエンジニアである小野プロジェクトゼネラルマネージャーに伝えたところ「今回の試乗会でそれを指摘されたのはしんたろーさんが初めてです」と言われ、「そんなこと気にするの、やっぱ自分だけなのかあ」と意気消沈しかけたところ、「実は自分もずっと気になっていて、開発中に何度も直せと言ったんです」と賛同を受けて、ちょっと救われた思いがした。

REPORT:渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO:北畠主税(Chikara KITABATAKE)

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…